19犠打目
荒木は平野が入部する前の正遊撃手。動きの良さと肩はそこそこだが、とにかくミス、それも軽率なつまらないものが多く平野入部以降はベンチを温めている。
控えに落ちたためにバント練習の量もレギュラーの半分以下でできるスペースがないために当然守備や打撃を磨く時間もない。
そのため現在の実力は2年時より落ちていると想定できるがそれでも替わりがいなければ荒木を起用する以外に道はない。
「打順はそのまま2番か?」
「ここまでの打線の流れを切るのもよくないし2番荒木でいいと思いますよ。やつも去年は一時期核弾頭を務めてましたし」
「足はあるしな……その足でもミスは多いが……」
川相に呼ばれた荒木は直々にスタメンを伝えられる。
「スタメン!?」
平野怪我で自分のスタメンは十分に想像できたろうに荒木はひっくり返るほどに驚き心臓の鼓動を100倍にしている。
「いいいんですかあああ? 僕でえ! こんな大事な試合でえスタメンとかあ」
「他にいないからな……仕方ない……」
「あのそれならどれくらいミスしても許してくれます!?」
「送りバント失敗でも走塁ミスでも悪送球でもトンネルでもなんでもやってもいいぞ」
「それだけやっても許してくれますかあ。やったああ」
「許すもないもそれだけミスされたらここで負けてお前ら3年は引退だけどな……」
こうして、今宮荒木の新1,2番二遊間コンビで試合開始だ。津浜の先攻だが、港南台大付属はとくにバント対策をしてくる様子はない。
「あ、もしかしてこれ監督!」
「白縞、いわゆる強豪校の余裕だよ……我々弱小公立などがっぷり横綱相撲で勝てるって意思表明。バント? するならやってみろだ」
「投手の田原はいかにも鈍重そうで腰高っすよね、あいつの前に転がせれば」
「ほとんどセーフだ」
今宮も田原の鈍さを一発で見破り、田原の前にいきなり初球セーフティーバント。
ヨタヨタマウンドを降りてきてボールを握った頃にはすでに今宮は一塁ベースを駆け抜ける寸前だった。
ここでいつもなら2番平野で波状攻撃をかけれる絶好の機会だが、あいにく今日の2番はドジっ子荒木である。
荒木はチラチラベンチをみて川相のサインを仰ぐ。
「お前にはこれっきゃないだろ……いやお前ら以外でもうちの野球はこれしかないか……転がせ、田原の前なら最低でも送りバントになるだろ……」
うんうん頷く荒木だが、いきなりドジっ子の一面が現れる。
「なんだっけあのサイン……控えにおちてからサインのミーティングとか真面目に聞いてなかったからわからない……まあ無死一塁でうちの野球なら……うーんなんだろう!? 打っていいのかな……多分あれ自由に打てのサインだ。監督オレのこと信頼してたんだ……
」
初球、田原の140キロカットボールは右打者荒木からみて外に速く逃げていく。
「え、あの馬鹿……なんで打ちにいくんだよ 」
川相は早速でた荒木のミスに頭を抱える。
荒木は当てる能力だけ無駄にあった。見たことないだろうレベルのカットボールにもバットになんとか当てて打球は二塁手へのゴロになる。
「格好の併殺コース!! かあ、せっかくの先取点のチャンスがあ!?」
川相は血圧を急上昇させるが、荒木の打球はあらぬ方向に跳ねて二塁手が対応できない。いわゆるイレギュラーで2塁も1塁もオールセーフ! 人工芝と違い土のグラウンドは思わぬことが起きる。
「ついてる……ついてる……ありえないことが起きた、併殺打で走者がいなくなる所で……もしかして荒木は今日ツキ男か!?」
川相は次の島中へのサインに悩む。
「送って2,3塁か……白縞に賭けるより島中に期待する方が得点期待値は大きいか……いやでもこういう場面こそキャプテンに賭けたい気持ちもある……」
悩む川相だが、サインを決めたときにグラウンドではまたとんでもないことが起きる。
「え!?はあー!?」
田原が一塁に牽制球、飛び出ていた荒木を刺す、牽制死である。
「前が詰まった一塁走者だろ、何をそんなリードを取ることがあるんだよ……」
荒木はツキ男どころか自らツキを吹き飛ばすミスを犯してしまった。
「ミスは許容するっつたが……あのアホが……」




