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穏やかな夜だった。
人間の町の入り口にそびえ立つ門に足をかけると、眠気にあらがうようにフラフラと体を揺らす。
先日の襲撃のあと、見張りを命じられたエンヤは変わり映えの無い景色を見飽きてしまい、何か眠気を覚ます方法は無いものかと試行錯誤している所だ。
--自分も人間の追走隊に入れてもらえれば良かったな。
今回は採石場でのある物の捜索が目的であり、人間たちの追走はおまけと言っていい。
実際、ほとんどが我々エンヤ達の主であるパスクアの下で捜索を続けている。
どの位の時間がかかるかわからない事もあり、目的を達成するまで人間どもが戻ってくると厄介なのでこうして見張りと追走で近づけないようにしてはいるのだが。
--追走隊は目的を達しただろうか?
追走に加えて、人間の町へと向かう道でもあるトンネルに到着後、その場での見張りを命じられている。
町へ下って殲滅するという手もあったかと思うが、そこは主に止められていた。
風に乗って人や獣の様々な匂いが流れてくる。
エンヤ自身の嗅覚は他の動物や魔物と比べ優れてはおらず、細かな識別は出来ないものの匂いの中に仲間の死臭が無い事はわかる。
恐らく早々に目的地にたどり着き、使命を果たしているはずだ。
そうなると尚更自分たちの所まで人間たちがたどり着く事は無く、退屈しのぎも出来ないという事実が眠気を更に加速させるのだ。
再び周囲を見渡す。
夜間の為、鳥も飛ばず静まり返った世界が広がる。
そんな中、何処か遠くで聞いた事も無い音が聞こえた。
人間が攻めてきたのだろうか、意識を集中し足音などを確認するがそれらしきものは聞こえない。
誰か新しいオモチャでも見つけたのだろうか、発音の感覚が短くなっていくのを聞きながら自分の足元を見る。
そこには自分と同じように遅く流れる時をいかに過ごそうかと悩んでいる者達がいた。
どの者も特に遊びなどは行っておらず、舟をこぐ手前といった感じだった。
小刻みではあるが体を上下に揺らしているように見えた。
下にいる者と同じく自分も。
異変に気が付いたのか下にいるエンヤ達は自らの舟から立ち上がり、門の上まで駆け上がる。
体ではなく、地面が揺れている事に気が付いたエンヤ達は異変の理由を周囲に求めるかのように集中して捜索する。
すると、先ほどから聞いていた音が発せられている場所に気が付いた。
一見、目を凝らさないとわからないが茂みの部分が揺れており、時折人の頭らしき形をしたものが見え隠れする。
--人間だ!!!
まさかこんな近くまで来ているとは。
トンネルまで行った部隊がやられたという事か。
気が付いたエンヤが敵襲を告げるべく振り返った瞬間、突然の下からの衝撃により意識が完全に閉ざされてしまった。
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地面の隆起により入り口付近の建造物が次々と破壊されていく。
地鳴りと共に隆起した地面は巨大な拳の形となり、カウントが追い付かない程の幾つもの拳が天に向かい振りあがる。
入り口にでかでかと座っていた門も粉々になりながら天に昇り、その中にエンヤらしき物体も紛れていた。
目の前で繰り広げられる惨劇を他所に、テンションが上がってしまい頭を振り回していたアキラは
4分ほどの時間が過ぎたあと、演奏を終え吹きでた汗を拭きながら爽やかな顔でラシェルの方を向くと、
「な? ボコボコにしたろ?」
歯が微かに光った。
「いや……ボコボコっていうか……、殺ったって言うべきじゃないかな。
日本のヤクザだっけ? が良く言うタマとったるどー! 的な…」
「いや、それを言っていいのは世界で1人だけだ。殺ったではない、演っただ」
同じ言葉ではないか。
ゼスチャー交じりで発言をするが、ラシェルには今一つ理解できなかった。
惨劇の終わった舞台は、さながらごみ処理場と言うべきか。
拳と化した隆起した地面は変化前に戻ったものの、
後には粉々に砕けた建築物や土に覆われ薄山が所々点在している。
相当派手にやらかした事もあり、入り口付近以外にいるエンヤ達が集まってくるかもしれない。
ギターをしまうと、アキラたちは再度息を殺して茂みに隠れると現場を注視する。
しかし、その後応援らしきエンヤは現れず殺風景なまま時が流れた。
「誰も来ないね……」
小声でラシェルが近づいてくる。
居住区から採石場までは結構な距離があるのだろうか?
10万人規模のライブとまでは言わないがそれでもビルの工事現場並みの音は出していたはずだ。
以前、家から500メートルは離れていたであろう場所の音が聞こえたくらいだ。
いくら何でも敵襲だとわかっているとは思うが……
「もしかしたらそれ以上の音で採掘してるのかもな」
岩盤を削ったりした音で聞こえなかったのかもしれない。
そんなことより一先ず援軍が現れなかっただけでも御の字とすべきだろう。
「あー確かにね。そんな事よりさ、さっきの演奏を聴いて1つ疑問が解けた事があってさ。確信とは言えないけどちょっと聞いてくれない?」
肩がくっつくほどに近づいてくると耳元で呟く。
「な…、なにをだよ」
「この世界の言葉についてさ」
顔を見ると、目が漫画のように輝いていた。
コロナ関連で非常にあわただしくなった為不定期更新となります
申し訳ございません




