一騎打ちのその後
「ケイン兄~遊びに行こ~!」
「アイリス……。勝負に負けたくせになんでどうどうと現れてるの」
「え、どっちが妹にふさわしいかを決める勝負には負けたけど、あたしはただの幼馴染として会いに来ただけ。それともあんたはお兄ちゃんの交友関係にまで口出しするような度量の狭いワガママな妹ちゃんなのかしら?」
「……そんなわけない。お兄ちゃんの意志は何より優先されるに決まってる」
この間の勝負から数日経ったある日、アイがエリザの屋敷――いちおう僕の家でもあるのだが未だにその実感はない――に現れた。
神託の剣姫と竜の剣聖、もとい僕の妹と幼馴染が僕をめぐって玄関先でバチバチと火花を散らしている。
「一緒に遊びに行くのは良いけど、どこ行くんだ?」
相変わらず僕至上主義なエリザの発言は放っておいて、話を進める。
エリザとの勝負以降はアイとは会っていないので、空白の時間の積もる話もあるし、話す時間を取りたかったところだ。
「ブラコンのだれかさんが冒険者稼業をサボってるから高難度依頼が渋滞してる、なんとかしてくれって冒険者組合に泣きつかれてたおかげで、臨時収入がたんまりあったのよね。あたしが奢ってあげるから、おいしいものでも食べに行こうよ」
「え、僕もお金はあるから出すよ。年下に奢られるのは……」
当たり前のように奢られる話になっているが、エリザのおかげで僕は今や大金持ちだ。もっとも、それまでの身の丈を超えたお金を使うのが怖くて、ほとんど使っていないし、エリザの屋敷にいる以上使い道もないので、全然使っていないからだが。とにかく年下、それも女の子に奢られるのは遠慮したいと思ったが、よく考えたら妹に養われている現状を思い出して口ごもる。
「そう? てかケイン兄ってばブロンズのくせにお金があるって即言い切る、ってことはエリザのヒモがもう板について……」
「……」
こいつ、なかなかカンがいいな……。反論の余地が一切なくて心が痛い。
「私も行く」
と、ここでエリザが割って入ってきた。僕がアイと出かける、となればヤキモチを焼くだろうことはなんとなく想像はしていたので、また一悶着かと覚悟したが――
「あら、そう? いいわよ?」
アイは何食わぬ顔で承諾する。
「え?」
「なに、止められるとでも思った? あんたはケイン兄の妹なんだし、止めやしないわよ。そもそもあたしはあんたとも仲良くなりたいと思ってたし」
「……悪いものでも食べた?」
「なんなのよその反応。ムカつくわね……。あんたは私のライバル、数少ない同格の相手なのよ。あんたの方があたしなんよりよっぽど長く生きてるから分かってるでしょうけど、そんな相手は希少なのよ」
「……あまりに強すぎる人間は表面的に社会に溶け込めてても、どうしても価値観が違ってくるからね。だから私やあなたみたいな強さの壁を超えた人間はどうしても孤独になりがち。まぁ私はお兄ちゃんがいるから平気だったけど」
「あんたケイン兄のこと、百年待ってたのよね……? ま、まぁいいわ。あんたエルフだし、これ以上深入りすると怖い気もするし」
百年間も待ててしまう精神性はハイエルフ特有の時間感覚のなせる業じゃなく、エリザ固有のものな気はする。一旦置いておこうというのは良い判断だと僕も思う。
「子どもの頃からうちの商隊の護衛やっててさ、親以外の大人からは腫れ物扱いだし、街に引っ越してからは他の子には怖がられるし、やっぱあたしはみんなとは違うんだなって、子どもながらに孤独を感じたものよ」
当時アイがいたキャラバン、今にして思えば護衛の傭兵なんかを連れていなかった気がするが、アイが護衛をやってたのか。今の強さを考えると、そりゃあ子どもの頃でも山賊や魔物くらいなら問題にならなかっただろう。この際今も子どもだろというのは言わないでおこう。
「ま、それでも遊んでくれた年上のお兄ちゃんはいたけどね」
と意味ありげに僕に目配せしてくる。僕としては珍しい年の近い子どもだから遊んでただけで、そんな深い意味はなかったんだけど。
「まぁ僕もエリザに友達が出来ると安心だな」
エリザのお兄ちゃんをやるって決めたからには妹の成長を手助けする義務がある。家族としては、生活面での全部面倒を見てもらっている情けない立場である以上、精神的な成長や健康のサポートはやらなきゃいけない。とりあえず友達のいない妹の友達づくりのために一肌脱ぐくらいのことはやってもいいだろう。僕に対する依存心が強すぎるのは健全ではなさそうだし、孤高って言葉を擬人化したかのような神託の剣姫と対等に話せる竜の剣聖は貴重だろう。アイとエリザの相性は正直余笹殴打し、エリザも内心憎からず思っていそうで、いい友達になってくれそうだ。それにアイはアイで大きく見えるが、まだ十四歳、対等に話せる友人がいてほしいのは間違いないだろう。
「そういうワケ、あたしとしてはあんたには遺恨もないし――負けっぱなしなのは悔しいけど、それはそれ。仲良くしましょ」
「わかった、よろしく、アイリス」
アイの差し出した手をエリザが握る。
こうして孤高だった神託の剣姫に友達ができたのだった。




