竜の剣聖VS神託の剣姫
「横入りなんて絶対許さないんだからぁーッ!」
「――っっ!?」
あたしとエリザの剣がぶつかる。ガキンッ! と激しい金属音が鳴り、火花が散った。何とか防御が間に合ったのは、こいつが平常心じゃなくて気配が分かりやすかったおかげだ。普段通りの鉄面皮のエリザだったら、気の起こりが読めず、間違いなくあたしは今の一撃でやられていた。それくらい早くて重い一撃だ。
ケイン兄をダシに挑発したのがうまくいった。
あたしが剣聖になってから、お互い立場上、人前で試合なんてしにくくなってしまったし、そもそも普段クールなエリザはなかなか勝負は受けてくれないだろう。エリザを目標に修行していたあたしは、リベンジのためどうすればエリザが勝負を受けてくれるかも考えなきゃいけなかった。
そんな時、高嶺の花って言葉が具現化したみたいな存在であるエリザが、あろうことかブロンズ級の冒険者とパーティーを組み挙句同棲までしているという噂を聞いた。
エリザからは世間や他人から一歩引いているような、もっと言えば超然とした――人間離れした印象を受けてた。だれにも心を開かないし、自分を理解されたいとも思っていない、孤高の存在って感じ。
そんなエリザに男が出来て、それも公私混同甚だしいパーティーを組んでいる、なんて、耳を疑った。
神託の剣姫エリザ・ノースウッドにも、俗っぽいと言うか、そんな生々しい、人間らしい側面があるというのに幻滅した――っていうと大げさだけど、自分よりはるかに強いエリザは他の人間とは違う超越した存在だと思っていたけど、それはあたしが勝手に押し付けてただけで、エリザは普通に人間だったんだと気づかされたみたいな感じだ。
そんなとき、例の男と呑気にデートなんてしてるエリザとたまたま出くわした。
エリザのヒモ野郎だと思ってたのはあたしの幼馴染のケイン兄で、ヒモじゃなくて至高神の神託があった前世のお兄ちゃんだったらしい。
普段あたしに対抗心をメラメラ燃やすエリザを見て、いまのあたしじゃエリザにはまだ勝てないかもとも思ってたのに、勝負を吹っかけてしまった。普段ならなかなか試合してくれないだろうし、平常心を失うこともないこいつが、今なら挑発に乗ってくれそう、ってチャンスだと思ったのは確かだったけど、それだけじゃない。
ただのヒト種のあたしと違ってハイ・エルフのエリザは修行してきた時間も、魔力への適性も違うし、そもそも人間としての格が違う。エリザ・ノースウッドがあたしより強いのは仕方ないと思ってた。けど、エリザにお兄ちゃんとニコニコ嬉しそうに手をつないで街も歩くような人間性があったのも、しばらく会ってなかったとはいえあたしの幼馴染のケイン兄をお兄ちゃんって呼んでるのも、なんだか全部気に入らなかったのだ。
さて、前に戦った時のエリザが全然自分の底を見せてなかったのに気づいてはいたけど――。
(ここまで差があるなんて――!)
正直、あたしはかなり強くなったと思っていた。勝てないまでも善戦できるだろうとも。
(甘かった――!)
「はぁああっ!」
「ぐっ……!?」
嵐のよう、なんて生ぬるい。例えようもないくらいの密度で降り注ぐ一撃一撃が、とんでもない速さと重さだ。反撃どころか、一瞬で倒されてしまわないように攻撃を何とか受け止めているだけで精一杯。自分の魔力がゴリゴリと削れているのが分かる。身体能力の強化だけじゃなく、受け止める武器の強化にも一瞬たりとも気が抜けない。こいつ、化け物すぎでしょ……!?
「ええい、あたしも本気出すわ……よ!」
魔力を全力で励起させて、いままで二本の剣でエリザの攻撃を受け止めていたのを片方で受け止める。今まで両方の剣を使ってたあたしが突然片手になったことで、エリザがあたしが何か反撃の手を打とうとしてることを察してはっとした表情を浮かべる。
かなり無理して魔力を使っても片手じゃ一瞬しか受け止められないけど、その一瞬で十分。もう片方の剣を思い切りエリザの空いた横っ腹に打ち込んだ。訓練用のなまくらの剣を覆うあたしの魔力と、エリザが身体強化のために纏っていた見えない魔力がぶつかり合う、鈍い音の後、何か固いものを砕くような感触がして、エリザが横に吹き飛んだ。
「やった……わけないわよね」
ずざざっとエリザが地面に着地した。さっきまでエリザがいた場所には溶けかけた大量の氷の破片が落ちている。
「あんた、あの一瞬で剣と体の間に生成した氷で防御したってわけ……? バケモン過ぎるわ」
詠唱も集中もなく、魔法を行使して、一瞬にも満たない時間で事象として発現、それもあたしの攻撃を防げるくらいの強度で――。ホントに規格外すぎる。とはいえ、無理すれば一応打ち合えることは今の一合で分かった。
「あなたも今の一瞬の身体強化の出力、本気出すなんてものじゃない。十分人間やめてる」
エリザがちょっとだけ驚いた顔になっていてちょっと胸がすくような気持ちだ。ざまぁ見なさい。
ただ、今の一撃で冷静にさせちゃった感じがあるので、それは良くなかったかも。
「お褒めにあずかり光栄……ね!」
あたしが竜の剣聖として、竜の二つ名を持つのは、魔力特性が炎だからってだけじゃない。竜の心臓でも入ってるみたいに一瞬で全身に強化を行き渡らせて膂力を発揮できる、身体強化の出力と速度からついた名前だ。
全力で全身に魔力を奔らせると、バクバクと心臓の鼓動に合わせて全身を魔力が流れていくのを感じる。初めてエリザと戦った一年半前は、生まれ持った高い身体能力の肉体に魔力を垂れ流していただけ。自分のこの特殊な体質にも気づいていなかったし、まともに剣術や魔力の扱いの修業もしてなかった。
「とりゃあああ!!」
今度はあたしが攻撃の番だ。さっきのエリザと同じくらいのパワーとそれ以上の手数で、炎の魔力を帯びた斬撃を浴びせる。
「……!」
確実に防御されてはいるけれど、ここにきてエリザが初めて少し苦しげな表情を浮かべている。だけど、どう考えても自力はエリザの方が上、短期決戦しか勝ち筋はない。
心臓の鼓動に合わせて頭がズキズキ痛む――。けど、ここが踏ん張りどころ……!
あたしは身体強化を限界を超えて発動させた。
「――秘剣・竜激刃!」
竜激刃は、竜の羽撃きやブレスや爪牙、着想を得た一瞬六斬の連撃技で、身体強化の魔力の出力を限界まで上げた状態でだけ使えるあたしの奥の手だ。いままでの比じゃない速度と膂力が体に満ち、全能感みたいなものすら感じる中、限界を超えた肉体強化で五感が研ぎ澄まされたせいか、急に思考や感覚がクリアに、そして、スローになった。
ゆっくりな世界にあたしとエリザだけがいて、それを傍から見てるような不思議な感覚の中、炎の魔力を込めた六連撃の全てが、確かにエリザをとらえたのを、あたしは感じた。




