第20話 新兵器
ジェミ軍事同盟のカテゴリ2であるヘリウスの戦死は、その日のうちにジェミ各加盟国に伝達された。
フェルミ通商条約機構内部でもヘリウス撃破の情報は瞬く間に広まった。
これにより、『赤い月』に対する認識は「宇宙開発を始めたばかりの幼稚な新興文明」から「極めて戦闘に特化した文明」というように変化した。
◇
ヘリウスの戦死に伴い、第9エリア宙域のジェミ側人事に変更が発生した。
予てよりカテゴリ2入りを確実視されていた「ボロン」率いる軍団が繰り上がりでカテゴリ2に昇格、第9エリア宙域の指揮権を手にしたのだ。
ボロン指揮下の第9エリア宙域におけるジェミ軍は、「赤い月」の活躍により押し上げられた勢力圏の押し返しを図った。
プレアデスの戦闘能力は高いが、勢力圏の境目は広大である。警備の手薄な地域を確実に落とし、徐々にジェミの勢力圏を広げてゆく。
また、ボロンは前線に自ら立つことも好んだ。ボロンの参加する戦局では参加している軍の士気が多いに上がる。
ボロンはその豪胆な性格に反し、被害の少ない戦闘を好んだ。
非戦闘民への攻撃は行わず、軍事拠点のみを攻撃する。占領後も略奪を行わず、軍事産業の接収、地元の民を雇用するという方法をとる。
そのため占領した惑星ではボロンの統治を歓迎する声さえ聞かれるようになった。
そのようなボロンの活躍の陰には彼の腹心「コボル」の姿が常にある。ジェミ屈指のエースパイロットであるコボルは、劣勢とされる戦局を幾度なく覆し勝利を収めた。
彼の機体は白い火の玉ペイントが施されていたため、人々はコボルを「白炎のコボル」と呼ぶようになった。
破竹の勢いで勢力図を塗り替えるボロンの軍に対し、フェルミの中央議会は第9エリア宙域を激戦区域に指定し戦力を集中することを決定した。
◇
プレアデスは「赤い月」の造船ドックに停泊している。
先の戦いで艦載ロボの火力だけでは敵艦との戦いに手間取ったため、対応策として艦載砲の増設を行うのだ。
「……であるからして、新兵器である艦載砲『ギガフレア』は、プレアデスの炉心である魔王ベリアルの魔力を全て火炎魔法に置換して発射するというものじゃ。名前の通り、数百万度の熱を持った巨大な火柱が敵を包む」
アルデがその小ぶりな胸を張って自信満々に新兵器の説明を行う。
「ちぇっ! 結局俺様は炉の中で待機かよぉ」
ベリアルが残念そうに言った。
「まぁまぁ。今、魔結晶を使った新型炉の研究進めてるから、それが完了するまで待ってよ」
サトシがベリアルをなだめつつ、デメリットについて補足する。
「『ギガフレア』はその機構上、防御魔法との併用は不可、威力の調整は不可、連射は不可だから、使いどころはどうしても限定されてはしまう」
「とはいえ、艦砲射撃ができるようになったことは非常に大きな意味があるな」
ソウコウは満足げに頷きながら新装備を見上げた。
「今回の改修で艦載ロボの装備が追加され、魔法石にも新術式がインストールされたんですよ!」
吉川が元気に紹介する。
追加装備は『追加魔法石』、『複魔結晶ホルダ』。
当初、艦載ロボは対人間の運用を想定していたため出力が低く、装備している魔法石は1つ、それにセットできる魔結晶も1つだった。これを複数の魔結晶を複数の魔法石が使用できるように改造したことで魔力の容量・強さを飛躍的に向上されることができる上、同時に2つの魔法を使用できる。
また、ホルダには結合用のジャックも付加されており、複数機による魔力結合などの戦術をとることが可能となった。
追加術式の1つ目は「熱源追尾魔法」。
物体に対し敵の熱源を感知し自動で追尾する振舞を追加できる魔法だ。
2つ目は「鎖組成魔法」。
任意の長さの魔力の鎖を組成することができる。組成した鎖は術者の意のままに動かすことができる。
既存の爆発魔法、火炎魔法、簡易組成魔法、発光魔法と合わせると戦いの幅が広がる。
これらの開発には主にサトシ、アルデが行ったが、西野と吉川のアイデアも取り込まれている。
ユカは楽しそうに新装備を紹介するサトシたちの姿を見て、憂鬱な気持ちになっていた。
◇
同じころ、ボロンの指揮する重巡洋艦『パール』にも新兵器が到着していた。ガイナは独自に開発していた人型兵器のプロトタイプだ。
搬入の様子をボロンがワクワクしながら見上げている。
そこへコボルがやってきた。
「おう、コボルか」
「これ? ガイナが言っていたっていう新兵器は」
「そ。新しいおもちゃだ」
搬入が完了し、機体を覆った布が剥がされた。
そこには白い火の玉ペイントが施されている。
「これは……! 人型兵器……? これを俺に?」
コボルが目を見開く。
「コボル、お前ならやれる。ちょっと乗ってみろよ」
コボルは言われるままにコックピットに乗り込んだ。
真新しいシートの匂い、戦闘機とは全く異なるインターフェース。
しかしコボルには直観的にその操作が理解できた。このキャッチアップ能力こそがエースをエースたらしめる所以の一つでもある。
「これは馴染む。少し大きいけど」
「コイツの名前を決めた」
「へぇ、なんだい?」
「ディアマンドだ」
「……ディアマンド」
一瞬の沈黙が流れる。
「……なぁ、コボル。俺はお前に賭けてるんだ。よろしく頼むぜ」
「あぁ、ボロン。わかっている」




