第15話 大使クローディア
プレアデスに遅れること3か月、建造中だった赤い月の第2宇宙船「シリウス」が竣工した。
シリウスの初任務は中央議会への代表を送り届けることだ。
プレアデスはシリウスを護衛することになった。
なお、代表は植民星「青い月」の王姉クローディアだ。
彼女の故郷である青い月は、他地域では失われた古代魔法が今なお息づく。
◇
「古代魔法って何なんですか?」
ウサが興味深げにサトシに聞いた。
「んー、俺もよくわからないんだよなぁ。 ソウコウ、あんたなら知ってるんじゃないか?」
「まぁ、概要はな。 古代魔法って一言で言うけど、天魔法、毒魔法、命魔法、奇跡魔法、時魔法、の5属を合わせて古代魔法って呼ぶことが多いな」
「なんで失われちゃったんですか? もったいないなぁ」
「それぞれ理由はある。
天魔法は、使用頻度が下がり忘れられた。
毒魔法、命魔法は、倫理観の問題で廃れた。
奇跡魔法、時魔法は、強力すぎて権力者が使用を禁止した。
って言われてる。文献もほとんど残ってないんだ」
「で、クローディアさんって人はどんな古代魔法を使うんです?」
「あの子は強力な『奇跡魔法』の使い手だぜ。
昔あいつらと戦争した時は、俺らの方が負けたからなぁ」
「あー……あったなぁ、そんなこと」
「懐かしいのう」
ソウコウは昔話を始めた。
いつの間にかユカ、西野、吉川も作戦室に来てウサと一緒に話に耳を傾ける。
◆◆
5年ほど前の事だ。
今、「赤い月」文明を構成している4つの星はそれぞれが独立した国家だった。
母星であり、肥沃な大地と豊富な資源を持つ「ヌージィガ」
その衛星で軍事国家の「赤い月」
同じく衛星の「青い月」と「白い月」
「赤い月」は他の2つの月を制圧すると、母星である「ヌージィガ」に侵攻した。
この時、ヌージィガを守るために戦ったのが、
知多星 片山サトシ、
勇者ソウコウ、
半魔神官サーシャ、
機人アルデ、
魔王ベリアルの5人。
一方、赤い月側の上級士官「四天王」としてサトシたちと交戦したのが
大鎌のマァル、
幻楼のクローディア、
神憑りのセーヤ(未登場。クローディアの弟)、
鉄球のキリク(未登場)だ。
戦局は互角だったが、最後はクローディアの操る超巨大な奇跡魔法「幻楼」によってヌージィガ側が降伏することになった。
赤い月による統治後は軍事研究の必要が無くなり、各種研修(魔法、宇宙開発)が盛んになり文化レベルも向上した。
◆◆
「サトシが休職してた間にそんなことがあったんだ……」
ユカは驚きを隠せない。
ユカ自身この世界に来る前にこんな話を聞かされていても信じなかっただろう。
西野と吉川も想像以上だったサトシの過去に溜息をついた。
「お前らのボスは凄い男だったんじゃよ」
アルデが言い聞かせるように言った。
◇
クローディアの迎えにはマァルとアイラが来ていた。
マァルとクローディアは昔「赤い月四天王」として共に働いた仲だ。
「……久しいな……クローディア。 元気にやってたか?」
「久しぶりです、マァル。 ウチは変わらんですよ」
クローディアを迎えに訪れたマァルには普段の毒気がない。
その様子に同行したアイラは驚いた。
◇
クローディアは宇宙船オシリスに乗り込んだ。
道中、オシリス内部で護衛にあたるのはマァルだ。
「じゃぁ行くぞ、クローディア」
「うん、行きましょう」
プレアデスとオシリスが青い月の空に舞い上がる。
◇
赤い月の国内には、フェルミとの同盟をよく思わない者も多くいる。
主に旧赤い月領出身のベテラン兵士たちだ。
彼らは戦時中、人間兵器としての教育を受けてきた。
多くの若い兵士は平和な世の中に適応し、その平和を謳歌したが、心の芯まで闘争心に染まったベテラン兵たちの中には馴染めなかった者も多い。
エトもそんな馴染めなかった者の一人だ。
普段、真面目に正規軍の兵卒として働く彼には裏の顔がある。和平協定に反対するテロ組織に属しているのだ。
今、エトはシリウスに乗務している。
このチャンスを見逃す手はない。
◇
宇宙を航行するシリウス。
エトは自室で制服を脱ぎ、代わりに密かに持ってきた装備を身に付ける。鈍く発光するその装備は前の戦争に愛用したものだ。
「対魔法コーティング」。鈍く光るその装甲は魔法で組成されたものを瞬時に分解する。
「行くぞ、相棒」
エトは長剣を手にし部屋を出る。
◇
彼が目指す場所はクローディアの部屋だ。
脇目もふらずにまっすぐ前を見て歩く。
抜き身の長剣が妖しく煌めく。
「おいエト、どうしたんだよ。
旧装備は着用禁止のはずだぞ」
声をかけた同僚を抜き胴で切り捨てた勢いのままエトは走る。
騒ぎに気付いた魔導士が一斉に攻撃魔法を放つが、魔法は対魔法コーティングの表面でその能力を失う。
クローディアの部屋をあける。
彼女は驚いたような顔でエトを見た。
エトは長剣を振り上げる。
しかしクローディアにその剣が触れることはなかった。
風よりも早くマァルがエトの体を両断したのだ。
返り血を浴びるクローディアとマァル。
「すまん、汚してしまったな」
「ええんよ。 ……ありがとう」
◇
その後、シリウスは何事もなくフェルミ中央議会のあるムーハ星に到着した。
「クローディア、頼んだぞ。 お前ならうまくやれる」
「ありがとう、マァル。 ウチ頑張るね」
クローディアを置いてプレアデスは再び空に浮かぶ。




