第14話 魔王、働く
プレアデスは破損した箇所の修理のため第9エリア基幹基地へとやってきた。
この巨大な基地はこの宙域にある複数の前線基地を管轄しており、内部は都市機能を有している。
大きな問題が発生した。
赤い月は新たにフェルミに加盟した文明であるため、フェルミの通貨を所持していないのだ。
このままでは修理のための資材を調達できない。
◇
サトシ、アルデ、ウサの三人は船体およびロボ修理の検討のため、バルトの工房に来ていた。
「しかし困ったもんだねぇ……
いくら俺でも資材が無けりゃ修理は無理ってもんだぜ」
四人はため息をついた。
「そうだ!
魔法で修理すれば良いじゃないですか」
ウサが閃いたように言う。
サトシはそのアイデアを否定した。
「そうもいかないんだよ。
魔法ってのは術者の意識で形成されるんだ。
だから、術者の意識が離れると術が解けてしまう」
サトシの言う通り、組成魔法で作られたものは実物と比較すると非常に不安定で、長くても数時間で崩壊してしまう。
(※ただし『奇跡魔法』という例外もある)
「そうそう、だから俺たちみたいな鍛冶屋が必要って訳だ」
「ふぇ~、そういうもんなんですかぁ……」
そこへベリアルがやって来た。
「おぅ、バルト。邪魔するぜ。
……って、どうしたんだよお前ら、辛気臭ぇ顔しやがって」
◇
「ほぉ、なるほどな。金が無ぇ訳だ」
ベリアルはサトシの話を聞いて大きくうなずいた。
「よし、じゃぁ街行くかぁ!」
ベリアルが元気よく立ち上がる。
「街行く言うても、金がないんじゃぞ。どうにもならんわ」
アルデがため息混じりに言った。
「金が無ぇなら稼ぎゃいいんだろ。
手前ェ、俺を誰だと思ってやがる」
「稼ぐって……ベリアル、あんたまさか人を襲う気か?」
サトシが慌てる。
ベリアルは大人しくなったとはいえ魔王だ。
悪事に関しての抵抗がないことは容易に想像がつく。
しかし、赤い月はフェルミでは新参であり、評判を悪くするわけにはいかない。
揉め事はどうしても避けたい。
「違ぇよ馬鹿野郎。
働きゃ良いだろうが」
「「「「え……?」」」」
一同は呆気にとられた。
まさか魔王の口から「働く」等と言う言葉が発せられるとは思いもしなかったからだ。
◇
数時間後ーー
「いゃぁー、しっかり稼げたな!さすが俺様だぜ」
ベリアルは満足そうに練り歩く。
今、赤い月の銀行口座には預金上限一杯の金額が保有されている。
すべてはベリアルのお陰だ。
なお、赤い月には銀行が無い。
故に誰も銀行の概念を理解できなかったため、口座はサトシが自分の名義で契約した。
……この金が自分のものなら良いのになぁ……
サトシはぼんやりそんなことを思った。
魔王が金のために労働している姿は、なかなか珍しい光景だった。
この若い(300歳)魔王は、魔結晶を売ったのだ。
魔結晶は魔力が結晶化したもので、この宇宙で唯一赤い月の民だけが生成できる希少な宝石だ。
魔王はその無限の魔力で無数の魔結晶を生み出し換金したのだ。
フェルミ内では赤い月の加盟以降、魔法が非常に話題になっており、魔結晶を手に入れるためならいくら払っても良いと考える金持ちも多い。
通常、魔結晶の精製には数日かかるが、ベリアルの魔力はあまりにも強力であるため、一瞬で高純度の魔結晶が生じる。
ベリアル以外には真似できない芸当だ。
とにかく、これでプレアデス修理の資材を調達することができる。
修理には1ヶ月かかる見込みだ。
◇
その頃、ジェミでは第9エリアの前線部隊長ガイナが赤い月との戦いの報告をしていた。
「……ほぉ、人型兵器とな。
それで貴様は逃げ帰ったと言うのか……」
ひざまづくガイナの前には薄笑いを浮かべた男が座っている。
男の名はヘリウスと言う。
ジェミのカテゴリ2に属するこの宙域の司令官だ。
「はっ。その通りでございます。
敵兵器の性能は凄まじく、
我々も構想のあった人型兵器の研究を再開すべきかと……」
サッとヘリウスの表情が変わる。
ヘリウスは立ち上がると、ガイナの顔面を思い切り蹴りあげた。
ガイナの首から鈍い音が聞こえる。
それを見たヘリウスの部下たちは大笑いした。
対称的にガイナの部下たちは拳を握りしめる。
「カテゴリ3の貴様がッ!
このワシにッ!
意見するなどッ!」
ヘリウスは何度もガイナの顔を踏みつける。
ガイナの顔は変形し血が辺りに飛び散った。
◇
ガイナは部下たちの手当てを受け自室に横たわっている。
結局、ヘリウスの暴行は数十分に及んだ。
最後辺りになるとヘリウスだけではなく、その部下たちも暴行に加わった。
「隊長、自分はもう限界であります」
「自分も同じであります」
「反乱しましょう、ヘリウスに死を!」
部下たちが声を荒げる。
ガイナはそれを目で制した。
「そんな事をしてみろ、我らが母星はどうなる。
お前らの妻子も皆殺されてしまうだろう」
部下たちは黙りこんだ。
しかし、怒りは収まらない。それはガイナも同じだった。
「通信兵、ボランに連絡しろ。
俺から秘密の相談があるとな」
◇
「赤い月の人型兵器な、
ちょうどこの間俺たちもやりあったんだ」
重巡洋艦『パール』の艦長ボロンは豪胆な男だ。
自分より一回りも年上のガイナに対しても臆する事はない。
「で、相談ってのはなんだ?
ヘリウスでもぶち殺す気になったか?」
この男は人に言えないことを平気で言ってのける。
そしてそれを実行できるだけの行動力がある。
もっとも、それはボロンの母星が既に滅んだ事も関係する。
捨てるものが無いものは強い。
「実は今、我々は母星である開発プロジェクトを進めている」
「……へぇ」
「人型兵器の開発だ」
ボロンの表情が一瞬変化した。
が、すぐに元の不適な笑みに戻る。
「そのプロトタイプが完成次第、機体をお前たちに預けよう」
「……見返りは?」
「お前たちのカテゴリ2昇格の暁には、
我らをそちらの配下に加えてほしい」
「お安い御用だ」
◇
奇しくも同時期、フェルミ中央議会も激化する戦局に新しい兵器の投入を検討、人型兵器の研究に着手事を議決した。
次世代の戦争が始まろうとしている。




