索冥
「馬?」
ニコルが半ば放心しながら言う。
大型の戦馬より二回りは大きい白い動物だった。
なんとなく馬と呼べないのは分かった。
「そのはずだった」
俺は白馬が欲しかった。妹と一緒に乗れば絵になるからだ。
王国貴族で戦場に行く者はその証に3つの物を持つ。
アダマンタイト製の武器、恐れを知らない戦馬、家紋を刺繍した戦旗。
学園に通うなら、この3つを持っていないと笑われる。戦争に行かない者でも見得のために必ず用意する。
成人祝いにアダマンタイト製のショートソードを貰えたのも、俺が望むなら王国の騎士団入りを後押しすると言う侯爵からのメッセージだ。
馬も戦旗も金を出せば用意出来る。
しかし、俺が行く戦場には普通の戦馬では耐えられない。
だから妖精の馬を創造した。
『レイラ、これはなんだ?』
『麒麟かな?』
麒麟はこの世界に存在しない。
もし本当なら俺は新種族を創造した事になる。
『何故、麒麟が出来た?』
『創造だから望み通りにはいかないよ』
それを最初に言え!
『それに素材かな? 《時空魔法》の影響もあるかも』
レッサードラゴンの素材が高級過ぎたか?
高速創造の影響で力が濃縮されたか?
謎は尽きない。
「主様、デカイ! オス、種馬!」
ポルルが麒麟の周りを走り回っている。
麒麟は特に気にしていない様子だ。
どちらかと言うと心を許しているのか?
オスなのは狙い通りだ。
可能なら子を増やして貰いたい。
「ご主人様、まさかそっち系の趣味が?」
サリスがわなわなと震えている。
「無いから!」
『まさか、私の知らない内に手篭めに! 叡智の神、許さないよ!』
レイラも何を言っているんだ。
『それは被害妄想だ!』
叡智の神がここまで警戒されるとは、過去に何をやらかしたんだ?
そんなコントの様な会話を続けていると、麒麟が寄って来た。
俺に頭を下げた。
俺は頭を撫でた。
何となく繋がりを持てた感じがする。
「明日からよろしく頼む」
「ヒヒーン」
了承してくれたか。
『名前はどうするの?』
白い毛の麒麟は索冥が本当の呼称らしい。
この世界でサクメイなんて名前は異質だ。
サークでは短い。
サーキュリアスなんてどうだ?
『サーキュリアス。短くしてサークだ』
『神よ、感謝する』
バリトンボイスが脳内に響く。
『サーク、話せるのか?』
『念話だがある程度は話せる』
『そうか。なら改めてよろしく頼む』
『任された』
サークは思ったより賢いみたいだ。
麒麟ならば当然か。
予定とは違うが、これはこれで良い。
学園で乗る白馬は金で買おう。
サークは相応しい戦場で使ってこそだ。
その夜、ポルルとニコルが寝静まった後、俺はサリスに呼ばれた。
「サリス、心配事か?」
《妖精創造》の辺りから様子がおかしい。
「ご主人様、貴方様が神だったのですね!」
目が逝っている。
これは本格的にやばいかもしれない。
「落ち着けサリス。説明しろ」
「はっ!? 申し訳ありません」
事はエルフの創世神話まで遡る。
エルフの祖先はサークと同じ方法で創造されたらしい。
便宜上エルダーエルフと呼ぼう。
樹木の妖精だったエルダーエルフが人族と子を成して生まれたのが今のエルフらしい。樹木と言ってもちゃんと人型だ。
「サークを見て、俺ならエルフを創造出来ると考えたか」
「その通りでございます」
「だが、何故それを望むんだ?」
「マナリスは魔王と組しました」
サリスが苦々しく言う。
サリスの父を殺し、サリスを呪った《精霊姫》だ。
魔王に屈したか分からないが、闇の力を与えられたのはほぼ間違い無い。
「エルフの未来か」
サリスが無言で頷く。
帝国はマナリスとエルフを一人残らず駆逐するだろう。
サリスが世界最後のエルフになる可能性はそこそこ高い。
「エルフの未来のためなら、この命投げ出す覚悟です。ですから!」
サリスはそれだけ言うと俯いた。
《精霊姫》として種族の未来を確保するために人知れず頑張っていたのか。
そして、偶然にも俺がそれを可能にするスキルを手に入れた。
サリスも安全では無い。
エルフと言うだけで殺されるかもしれない。
サリスが負けるとは思えないが、物量に押し切られる可能性はある。
だから自分が死んだ後、こっそりエルフの復活を願っているのだ。
まったくふざけた事だ!
「サリスは馬鹿だな」
俺はサリスの頭を撫でる。
「ご主人様?」
サリスが恥ずかしそうに顔を上げる。
俺は腰を掴んで、一気に体を寄せる。
「サリスは俺のものだ。誰にも渡さないし、勝手に死ぬのも許さん」
「……」
顔が真っ赤で言葉も出ない様だ。
言う事を言ったので離す。
「エルフの件は分かった。必要なら創造する」
「ありがとうございます、ご主人様!」
『素材は分かるか?』
レイラに聞いてみる。
『エルダー繋がりでエルダートレントじゃないかな?』
そんな安直な!
せめて世界樹とかそれっぽい物は無いのか?
「サリス、サークを創造した時に素材を使っただろう。エルフもたぶん素材を使うと思うんだが、何か知らないか?」
サリスに直接聞こう。
レイラが知らないなら、《サポートシステム》の範疇外になる。
光の神と直接関係無いとは言え、エルフは光の陣営に所属していると思っていた。意図的に情報を入れなかったのか、他に何か事情があるのか。
しばらく考えていたサリスが自論を披露した。
「エルフの古い歌に母なる千年樹の果実から最初のエルフが生まれたとあります」
『この果実ならデータにあるよ。地球の桃みたいなやつだね』
川から流れては来てくれないだろう。
カッタルイで売っていたら買おう。
「まずはそれで試してみよう」
「よろしくお願いします」
サリスが頭を下げる。
「サリス。俺の正体とこのスキルについては余り広めたくない。いつもの様に的確な解説でフォローを頼む」
「もちろんです、ご主人様。ニコルをいつも通り煙に巻きます」
ニコル限定と言うわけでは無いのだが、せっかくサリスが元通りになったのだ。ここは笑って流そう。




