再構築 中編
『まずは仮初の体を用意するね!』
一瞬眩しくなったと思ったら、俺は良く分からない光景を見ていた。
光の玉に凱旋門みたいな門が突き刺さっている。
『これは?』
俺の声とは思えない甲高い声だ。
レイラの声に近い。
『宿主様の魂よ。人でも分かる様に視覚化したの』
『凄いな』
0と1で構成されたデータを画像ソフトで見ると絵になるのと似た感じかもしれない。直接見ても俺では理解出来ないらしいので、専門家の発言を信じる。
『でしょう!』
自慢げにレイラが言う。
『で、この姿はレイラのでは無いか?』
周りが見える様になれば自分の姿も見える。
女性体系の妖精の姿だ。
胸が少々あって、背中には4枚の虫羽根が付いている。羽根は完全なダミーだ。灰色に近い素肌に赤いラインが入っている。
俺が知っているブラッドフェアリーそのものだ。
妖精は全部同じ姿、なんて事は無い。特徴は同じでも、全員違う。
流石にその程度の知識は俺にもある。
『それは私の分体だよ。私はここ』
レイラの声がする方を見ると、ブクブクと泥ゴーレムの様なものが魂の上に出て来た。腰から下が魂から出られないのか、スカートを履いている様な感じに見える。
少しずつ余分な泥が削げ落ち、レイラの形をした不定形な存在になった。その上半身より上の姿は湖の妖精の時と寸分違わない。
『その姿は?』
『本体だよ』
『いつからそんな姿に?』
何故そんな姿に、と直接聞いた方が良かったか?
『契約した日から。永久就職って言ったでしょう?』
体から出られなくなったと聞いたが、これは初耳だ。
『なんだと……』
レイラは俺と契約した日、ボロボロだった魂を修復しようと無用心に近付いた。俺とライが融合したばかりで接着剤とも言えるものがまだ乾いていなかった。
湖で魂にこびり付いていたどす黒いものが剥がれ落ちた後だったのも事態を悪化させた。丁度魂に空き領域があり、魂がなんらかの形でそれを埋めようとしていた。
レイラが好奇心でそれに手を突っ込んだのが運の尽き。そして抜け出せなくなった。もがいている内に体ごと魂にドボン。気付けば今の姿になったらしい。
自業自得?
そう言ってはかわいそうか。
『いきなりこんな姿になったらびっくりでしょう?』
だからブラッドフェアリーと言う人格が無い分体を作ったらしい。分体などと呼んでいるが、彼女らは分類上、妖精より精霊に近いらしい。湖の妖精時代から精霊を使役出来ていたから、彼女らを使役出来るのは当然、との事。
それ以降、俺はブラッドフェアリーがレイラだと思い込み、普通に会話していた。
絵面だけ見ると人形に語り掛ける危ない男だ。会話が精神世界で行われて、外に見られていないのがせめてもの救いか。
『それでこの姿か。話し相手の体に入るのも奇妙な話だ』
俺は自分の姿を再確認する。
俺が話しかけていたレイラの体だ。
『違うよ』
あっさり否定された。
『何?』
『それは宿主様が動ける様に作った特注品。ほらっ!』
レイラの掛け声で20匹程分体が現れた。
全員同じ姿形をしている。
人格は無いのか、能面だ。
『分体は動けない私に変わって体のメンテナンスをしているの。宿主様がいつも話しているのは念話機能が付いているこの1号さんよ』
驚愕の新事実だ。
自動で処理出来ない問題はレイラが今の俺みたいに分体を直接操作するらしい。
『レイラが眠っている間に体が不自由しなかったのも?』
『この子達のおかげ。余り複雑な命令は遂行出来ないけどね』
基本的に体の状態を維持、怪我をしたら修復、修復不能なら痛覚遮断。
良く考えたら破格の性能だ。
おまけで自己修復、自己進化、自己増殖する。なのでレイラすら把握しきれない分体の分体がいるかもしれないらしい。
そこら辺はもう少ししっかりしてくれ。
『他に何か隠している機能があるんじゃないのか?』
一応聞いておこう。
再構築、仕上げ、最終調整なんて言葉が以前出たんだ。
俺の知らない事を裏でやっているのは確実だ。
『記憶の共有かな?』
『そうなのか』
大した事ないな。
浮遊大陸の動力炉関連を一々説明しなくても楽で良いか。
『宿主様があの手の本を何処に隠しているとか、ばっちりだよ!』
『……』
色々まずいかもしれない。
即ち、内容もお見通し。
『でも心配しないで。宿主様がどんな本に浮気しようと、どんな人と浮気しようと私は許してあげる』
雲行きが怪しい。
ここまでは独占欲が強そうな妖精だったのに、急に寛容になった。
俺の懸念を他所にレイラの独演会は続く。
『だって、最後は永遠に一緒の私が宿主様の一番になるんですもの』
やばい。
これは純粋に怖い展開だ。
心なしか俺の魂も恐怖で震えている。
『感激の余り震えているのね、宿主様』
『そ、そうですね』
それ以外どう言えと言うんだ!?
『ふふっ。時間はたっぷりあるものね』
レイラが勝ち誇ったように言う。
寿命が尽きるまでの関係だ。
妹の件では協力してくれるし、気にし過ぎる必要は無いか。
レイラはレイラなのだから。
『そうそう宿主様』
『どうした?』
『寿命とか無いから』
『えっ?』
『宿主様は不老だよ。ついでに魂が消滅しない限り不死だよ』
『すなわち?』
『永遠に一緒だよ』
レイラの笑顔が眩しい。
こういう時くらいは大人しく考えを放棄しても許されそうだ。




