希少空間 前編
ここは何処だ?
俺は素っ裸で何処かに立っている。
失った左腕と両足がある。脇腹の傷跡も無い。
身体的特徴からライ・フリージアの肉体なのは間違い無い。
辺りを見回す。
暗いが周りが見えない程でも無い。
何も無い空間だ。
何かを踏んでいるが、それが何か分からない。
四角いガラスの部屋に居る。そんな感じだ。
「レイラ」
声に出して見る。
自分の声は聞こえるが、レイラの返事は無い。
奇妙な状態だ。
魂レベルで融合したと言っていた彼女がいない。
今の俺は彼女から切り離された魂の一部なのか?
疑問は尽きないが、今は出来る事をする。
体を動かす。動きは想定通りだ。
《ステータス》が発動しない。
《剣術》が発動しない。
《光魔法》が発動しない。
スキルが無い。
使えないでは無く、存在しない。
勇者システムも無い。
すなわち、白の者との繋がりが絶たれた。
しかし、底上げした身体能力はそのままだ。
考えられる可能性は?
夢では無いと思う。
死んだわけでは無いみたいだ。
違う異世界に転移したか?
荒唐無稽だが、一番有り得そうだ。
そうだとすると、ここが何処だか何となく分かる。
似た世界に居た事がある。
白の者と会った場所。
ここはあそこに近い。
神域。
その割に貧相だ。
カチャ
何も無い空間からドアが開いた。
執事服を着た悪魔の様な男が入って来た。
戦意は見えない。
友好的な相手か。
されど相当な実力者だ。
スキル無しでは何処まで出来るか?
「お目覚めですか、ライ様?」
深いバリトンが部屋中に響く。
心が弱ければ、その声だけで屈するだろう。
俺はもちろん大丈夫だ。
ここにいるのが俺だけなのが幸いした。
3人娘、特にニコルにはこの執事は鬼門だ。
「ああ。状況の説明はしてくれるのか?」
俺も友好的に返事をする。
自分から事を荒げるのは下策。
「もちろんです」
悪魔はとある神に仕える執事らしい。名前は与えられていない。
レイラも昔は名前が無かったが、それと関係があるのかもしれない。
神がこの空間に俺の魂を呼び込んだ。
この空間は小型の神域で、条件を満たした者を招待する。
招待するなら、招待状の一枚でも欲しいものだ。
条件そのものは執事の口からは言えない。
この空間の入り口は俺の魂にある。
入り口。
白の者の勇者システムとは違う入り口。
「《スキル希少》か」
それ以外考えられない。
「ご名答です」
変なスキルと聞いていたが、バックドア付きとは始末に終えない。
白の者はやはりドジっ子なのか?
「ご心配無く、我が主とあのお方は同じ陣営におります」
執事が簡潔に言う。
大本では本当なのだろう。大本では。
陣営は同じでも派閥が違うのは良くある事だ。
「ご案内したい場所があります」
「断れば?」
「その場合は、お帰りはあちらです」
俺の後ろに扉が浮かび上がる。
ガスガスボカドカ!
「壊れろぉ! えい! えい!」
レイラの声だ。
破壊音が断続的に響く。
どうやらあちら側から扉を破壊しようとしているみたいだ。
「声は届くのか?」
「はい。出来れば止めて頂けると助かります。外の修理も私の仕事なのです」
執事が心底嫌そうに言う。
「レイラ、聞こえるか」
俺が呼びかける。
大声を上げなくても声が届くみたいだ。
この空間は、視覚出来るより不思議な場所だ。
「宿主様! 大丈夫? 掘られていない?」
掘られる?
執事は首を横に振っている。
レイラの心理戦の一種か?
「大丈夫だ。少ししたら戻るから安心しろ」
「本当? ねえ本当? 本当なのね?」
連呼しなくても聞こえるのだが、それを指摘すると後が怖そうだ。
「ああ。永遠に一緒なのだろう?」
たぶんこれを言えば大丈夫だ。
言ったら取り返しが付かない気がするが、背に腹は換えられない。
「分かったよ。少しだけ待つね」
レイラが落ち着いたみたいだ。
良かった。
「そうか」
少しが十分な時間だと願うしか無い。
「でも、余り遅いと門同士ぶつけて攻め込むから!」
凄い物騒な事を言っている。
今のレイラなら本当に出来るのかもしれない。
「大丈夫だ。そんなに時間は掛からない」
俺は執事に向き直り、レイラの説得が終わったと伝える。
執事は顔が引き攣っているが、話を進めることを優先した。
「では参りましょう。ライ様、服は念じれば現れます」
便利な空間だ。
どんな服が良いか。
スーツ? 鎧と剣? カジュアル?
俺は一着イメージしてみた。
どうやら成功した。
「どうだ?」
基本は白。
アクセントに赤。
武器は無い。
戦いになる可能性は低い。
逆に手が塞がったら咄嗟の事に対応出来ないため危険だ。
「白のスーツですか。中々似合っております」
執事の褒め言葉は話半分に聞いておく。
執事の後を追って、扉を潜る。
さて、ここでの用事を済ませよう。




