密会 中編
「嫁なんていらない、と断ったらこの任務を与えられた」
これは本当だ。
クローディアとの会合は予定外。
しかし、襲撃同様、想定されてはいた。
山賊がクローディアを誘拐したら、目指すは南だ。
南の砦があるから、まずは湖を越えて西に向かう。
砦も湖を越えて西に兵士を送る。
山賊はそこから更に西に行くか、南を強行突破するしか無い。
更に西だと、俺とハーピーが殺し合いをする場所に出る。
二の矢ならぬ三の矢とも言える保険だ。
イライジャもここまでクローディアの事が大事なら、もう少しまともに教育すれば良いのに。政敵と成り得る存在だから持て余しているのか? 第2公子との政争で余裕が無いだけか?
「姫様の何が気に入らないのだ!」
反対していたんじゃ無いのか? 面倒な親戚のパターンか?
「全てだ」
「それでは分からないでしょう!」
リティーがハッとする。
まさか先程の返しをここですると思っていなかっただろう。
全て、なんて抽象的過ぎて意味が無い。
生理的にどうしても無理、とかなら仕方が無いが、リティーが俺を嫌うのはそういう理由では無い。
「私が理由を話すから、貴方も理由を話しなさい。いいわね!」
「良かろう」
さて、リティーは何を言うかな?
「貴様が他国人なのは別に良い。爵位を取れば同じ公国人だ」
積極的に他国貴族に爵位を渡している国策故か。
「だが、蛮族は別だ。あいつ等のせいで公国はどれだけ被害を受けたと思っている!」
「奴隷ならば問題無かろう」
公国以外ならこれで問題解決なんだが、たぶん駄目だろう。
「あれが大人しく奴隷になるものか。貴様には手を出さずとも、我らの寝首を掻く」
確かに一理ある。ポルルは砦司令を殺す気満々だ。
「ポルルにはそれだけの理由があるとしたら?」
「蛮族の肩を持つのか?」
「俺はポルルに決闘で勝ち、彼女らの族長になった。少ない数でも彼女らは俺の民だ。民のために戦わずして何が族長だ」
蛮族と貴族理論をミックスしてみた。
「なんだと。なら貴様は私達を最初から斬る積もりで近付いたのか?」
「族長になったのはイライジャ様の依頼を受ける前の事だ」
「イライジャ様は知っていると!?」
「当然だ」
「有り得ん……」
リティーの常識の限界を超えたか。
「説明してやろう」
ポルルの一族を公国が正式に保護した。それなのに南の砦辺りで奴隷にされた。
「保護だと? 統治政策の一環とすれば分からなくも無いが、それなら何故奴隷に?」
「簡単だ。砦司令が裏切ったからだ」
「そんな!」
リティーが何か言おうとするも遮る。
「クローディアを襲った山賊を俺がどうやって知ったと思う?」
「蛮族と関係があるのか?」
「ああ。偶々山賊の拠点を潰したら、ポルルを奴隷にした商人が山賊の幹部をやっていた」
「なら責任はその商人にあるはず」
「まあ待て。その幹部からクローディア襲撃の報を聞いたのだ」
「えっ?」
ポルル達を奴隷にした勢力とクローディア一行を襲った勢力が同じ。リティーは馬鹿では無い。ここまで言えばある程度点と点を繋ぎ合せられる。
「山賊300人。どうやって南から来た?」
「……」
「南の砦はそれだけの人間が通ったのを見逃すのか?」
「別々に動いたとすれば!」
「砦を別々に越えて、どうやって拠点に合流する積もりだ? 裏切る者はいるだろうし、それで無くても金欲しさに情報を売る者もいる」
300人は一丸となって越境した。ゲラルドの性格とカリスマを考えると、それ以外の方法は無い。
リティーはもう分かっている。砦司令が通したのだ。
恐らく山賊は湖の西側を北上して、北側まで出た。そこの近くに拠点を構えた。
砦司令なら息の掛かった兵士を湖の監視に回せる。
「だが決定的証拠が無いぞ」
「クローディア様が殺された後もそう言う積もりか?」
「貴様!」
「そうだろう? 確実にクローディア様を狙っているやつがいる。砦司令で無くても上層部の人間だ。蛮族の奴隷化、山賊の素通し、公女の襲撃。どれ一つ取っても上層部全員の首が飛ぶ失態だ」
王国なら今頃砦司令と家族全員が処刑されている。帝国なら3親等まで車引きの刑で国境沿いに放置される。幾らベテラン軍人が育ち辛い公国でも、こんな裏切り者に重要拠点を任せられない。
近く処分される。処分される前に動く。
クローディアと言うコマが手に入るのだ。確実に使う。
邪魔な俺がすぐ出て行くと知れば、砦司令の計画を邪魔する者はいない。
「くっ!」
「近衛なら斬れるだろう。命令系統が別なのだろう?」
「同じ公国人を理由無しには斬れない!」
まあまあまともな回答か。斬ると言ってくれたら楽だったのだが。
「ならせめてクローディアの護衛に付け。近衛が近くにいれば、まずは引き剥がすために動く。それでしばし時間を稼げよう」
俺なら冤罪で陥れられる。リティーは砦に長く勤めている。そう簡単には排除出来ない。クローディアがいる限り、遠出の任務は断れるだろう。
「分かった。貴様を信じたわけでは無いが、姫様の御身が大事だ」
「じゃあ、それで」
俺が話を終えようとしたら、待ったが掛かった。
「次は貴様の番だ」
衝撃の事実の前でも忘れなかったか。残念なシスコンはクローディア関係では平常運転か。




