野営準備 後編
次は護衛している商人の一団だ。
一番面倒な相手だ。
最悪、全員始末する。
やりたくは無いが、敵が紛れ込んでいる可能性が高い中で、生かす余裕は無い。
公国軍は自国の民として躊躇する。だが俺は他国人だ。
サリスと事前に裏切り者数人を特定している。氷山の一角でしか無い。情報を流すだけや次の機会で仕掛けるスリーパーが絶対にいる。
いると思わせた時点で黒幕の勝ちだ。
数人見せしめに殺して、相打ちまで持ち直させる。
「私はライ。クローディア様より将軍代行を命じられた。ここの責任者は誰だ!」
「私、ミードが商隊長として商人の代表をしております」
商人が出て来た。小太りの中年だ。
こいつが黒だとお手上げだが、随伴騎士からの情報では20年来のベテラン商人で騎士数名と家族ぐるみの付き合いがある。黒い噂もそう多くは無く、金にも困っていない。
公国が潰れたら困る立場だ。白寄りのグレーだ。
「被害状況は?」
「半数が殺され、荷物の3割が回収不可能です」
割れた酒瓶は確かに回収出来ないか。
「商人が死んだ荷物の所有権は誰が持つ?」
「は? 普通は私が代理で預かりますが、此度ほど大きな被害は初でして」
俺が荷物を奪うと思ったか。都合が良い。
「将軍代理権限で接収する」
「そんな!」
ミードが驚く。他の商人からも怒号が飛ぶ。
騎士が手を剣に掛ける。
皆が黙る。
「次は責任の所在だ」
「責任ですか?」
荷物の責任と思うだろうが、違うぞ。
「敵に内通している商人の処遇。そして商隊長の管理責任だ」
ミードが青くなる。商人も目に見えて震え出す。
「そ、それは……」
「クローディア様の安全を考えるなら、商人全員を連帯責任で処刑するのが一番安全だ。分かるな?」
俺がミードを睨む。
「余りにも横暴だ! 我らは公国に安全を保障して貰っている!」
ミードがたまらず怒鳴る。
「公国は裏切り者や犯罪者の安全を保障するのか?」
随伴騎士が否定する。
「そ、そうです! 証拠です。証拠がありません」
ミードは必至だ。
俺は仰向けに倒れている騎士を指差す。
部隊5から商人の窮状を救うために来て、戦死した騎士だ。
「あの騎士を動かし、下にいる者を確認せよ」
随伴していた兵士が数名向かい、騎士を丁重に動かした。
その下にはカットラスを握った商人が死んでいた。
「商人が後ろから刺し、騎士が最後の抵抗として後ろに倒れたのだろう」
俺が解説する。実際はサリスが矢で殺したのだが、騎士の名誉を守るためだ。
「まさしく公国騎士の鏡!」
随伴騎士から声が上がる。随伴騎士の大半は部隊5の騎士だ。
商人の顔が絶望に変わる。
「証拠が出たぞ」
俺は淡々と言う。
「ああぁ……」
ミードはパニックに陥っている。
「ミードよ」
「は、はい」
「騎士による荷物の検査、及び商隊長の責任で裏切り者を探せ。これに同意するなら処刑は保留だ」
「あ、ありがとうございます!」
ミードが涙を流す。他の商人も気が抜ける。何人かはその場にへたり込む。
もっと時間を掛けてやりたかったが、日没まで時間が無い。
最後の仕込みをしよう。
俺は一人の商人を真っ直ぐ見据える。
笑みを浮かべる。
商人達も俺の目線を追う。
「く、くそっ! これまでか! お前達、暴れろ!」
一人の商人がプレッシャーに耐えられず叫ぶ。馬車の中からゴロッキが三人飛び出してくる。一瞬の事で俺以外が動けない。
「ロックスピア」
3発のロックスピアが相手の心臓や頭に突き刺さる。即死だ。
俺は《空魔法》でその商人との距離を一瞬で詰め、容赦無いボディブローを叩き込む。気絶した商人を地面に落とす。
「騎士よ、こいつを拘束して厳しく拷問せよ。自害用の毒を持っているかもしれない。情報を吐くまで死なせるな!」
「お任せください!」
騎士が素早く商人を拘束し、自害用の道具が無いか調べる。ここら辺は問題無くこなしている。
「ライ様、此度の事は……」
ミードが恐れ恐れ聞いて来る。
「俺が対処出来たのだ、不問にする。他の裏切り者はしっかり調べ上げろ」
俺が暗に他にいると伝える。いると思うが、証拠が無い。
それでも商人同士が疑心暗鬼になれば、大きな動きは潰せる。
俺の仕事はクローディアを明日の正午まで守る事だ。
それ以降の事は知らん。
多少時間が掛かったが死体と馬車の目録を作り、アイテムボックスに入れた。荷物改めをしている際に違法な品々を発見したり、色々と組織的な問題も発見した。報告はするが、処置は公国に丸投げだ。
最後の部隊5は既に準備万端だった。目録すら用意する手際の良さだ。
「山賊147人はどうします?」
「面倒だからそのままアイテムボックスに放り込む」
頭を斬って、死体を燃やす時間が惜しい。
作業が一段落した。
後は野営地に向かいながら死体の回収で終わる。
野営地に着くと着替えを済ませたクローディアと顔が青白い部隊長が出迎えてくれた。クローディア以下女性陣は下が酷い事になっていたので、着替えが終わっていてホッとした。
「円陣は陽が落ちるまでに完成します。レッサードラゴンの事はここにいる全員に通達済みです。ポルルとサリスの協力の下、何処に撒くかも決まっています」
部隊長らしく仕事はしっかりしていた。
「分かった。円陣の外に出す」
俺はレッサードラゴンの死体を取り出す。
余りの巨体に全員の手が止まる。
ポルルが樽を持ってレッサードラゴンの首に近付く。
首を持ち上げて、樽に血を流し込む。
持ち上げられるのか!?
驚いたのは俺だけでは無いはず。
あれだけの怪力なら、ゲラルドに殴り勝てたかもしれない。
血を撒く作業はサリスの指揮の下、素早く終わった。
これで今晩は大丈夫だ。




