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破壊神と妹勇者  作者: 朝寝東風
第一章
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奴隷商 中編

「3500平米の敷地と屋敷を管理するならここら辺がお勧めです」


 イブゲスが60人程連れてくる。結構多い。


「候補の家宰3人、執事長2人、メイド長3人です」


 ここは一人ずつ選べと言う事か。


 候補は全員終身上級奴隷と言う区分と聞いた。


 公国内で貴族の屋敷を管理する事に特化した一族で、家宰以下専門のスタッフがセットで付いてくる。勿論セット購入を断れるが、そうすると教育が行き届くまで時間が掛かるそうだ。


 外交官が現地スタッフを一括契約する形か。公国だからこそ発展した形態だ。


 ここに居ると言う事は、前の主に何かあったか?


「俺はアルドスタン王国の子爵次男だ。家を継ぐ事は無い。貴族に仕えたいやつは辞退してくれ」


 俺は俺の求めるスタッフ像を語る。


 俺の奇行を受け入れ、冒険者として留守が多いから独自判断が出来、異種族の奴隷を差別せず、商売に忌避感が無い。


 この大放談の真の相手はイブゲスだ。イブゲスの目が何回か光った気がする。俺に売れる候補がストックにあるのだ。


 家宰の2人とメイド長の1人が辞退した。これはありがたい。


 残った家宰を購入した。


「して、名前は?」


「アルフレッドでございます、旦那様」


 40代の男性だ。その割に白髪が目立つ。やはり家宰ともなると激務でストレスが多いのだろう。履歴書を見る限り、かなりのエリートだ。


「執事長とメイド長について何か有るか?」


「右のメイド長は以前一緒に仕事した中です。彼女の娘は少々夢見がちですが、それを除けば次第点なメイド長と配下スタッフと存じます」


「ではそれで」


 アルフレッドは専門家だ。彼の意見に従うとする。


「執事長においては両方とも初見です。基本の応対マナーを見て、確認されては如何でしょうか?」


「それもそうだ。イブゲス」


「お任せください」


 イブゲスが急遽場をセッティングした。執事長候補は互角だったが、スタッフの質では年配の執事長に軍配が上がった。


 彼のスタッフに俺のスタンスに拒否感があるか確認した後、老執事長を購入した。


「屋敷のスタッフで残すは料理人と門番か?」


「庭師と御者も検討すべきかと」


 アルフレッドが補足する。


「イブゲス、候補を見せよ」


「は、はい!」


 どんどん売れ出したのが嬉しいのか、スキップしながら出て行った。ついでに半裸の女性は邪魔なので帰って貰った。何せワインを注ぐ奴隷は購入したのだ。イブゲスの手駒を残す必要は無い。


 ここら辺はアルフレッドが確認し、俺がそのアドバイスに従った。表向きの家はアルフレッドに仕切らせるのだ。末端まで口を出すのは下策。


「ライ様、商売と聞きましたが、どの様な人材をお求めでしょう?」


 人材を聞いているが、実際は商売の内容を聞いている。


「公国は風呂文化が盛んだろう? 実家の倉庫にかつて勇者が記した風呂用品の古文書が見つかってな。それを再現出来ないかと思っている」


 リンスとシャンプーはそう言う事にしておく。申し訳程度に実家の名を出せば、奪おうとは思うまい。


「おお! 古の知識ですな!」


 イブゲスが興奮する。勇者信仰は公国で一際強い。


「敷地で小さな工房から試して、上手く行くなら大きな工場と商会立ち上げだ。後半は夢物語だが、工房程度なら俺の資産なら余裕だ」


「そうでございますとも!」


「解読した範囲ではポーション生産か錬金術に詳しいのが要りそうだ。後は実際の労働力数人」


 錬金術スキル持ちが3人出てきたが、俺の《スキル確認》で二人はペテン師だと見抜けた。若くて少し頼りなそうな青年を購入した。


「何か希望でもあるか?」


 一応聞いておく。奴隷と言えど人だ。ケアを疎かにすれば要らぬ恨みを買う。


「お願いでございます! 妹も一緒に! お願いします!」


 地面に這いつくばってお願いされた。


 イブゲスに確認させると普通の町娘だったので追加購入しておいた。彼女には兄の試作品のテスターになって貰う。


 一般的になる売り物が全部出揃い、残りは農奴や鉱山送り、はたまた問題有りの奴隷の番になった。山賊とか犯罪者は一瞥して却下した。何か予想外の存在がいるのかと期待したが、何もいなかった。


 やはり幸運にポイントを振るべきだったか? そう思っていたら、頭が痛くなる奴隷が出て来た。


「こ、こちらは扱いに難儀している奴隷でして、お見せするのも心苦しいのですが、ライ様は上客ですので、特別です」


 イブゲスほどの男でも汗だくになる奴隷か。


 背は低い。子供では無いようだが?


 エルフか。ロリババアと言うやつだな。白い肌に長めの耳。胸は無いに等しい。


 両目と喉が切り裂かれている。この傷が無ければかなりの美人だと思う。


 歩き方からすると、両足の腱も切られている。


 この女は一体?


「うぐっ」


 《スキル希少》が反応し、俺の頭に激痛が走る。


「ライ様!」


 イブゲスが心配そうに声を上げる。俺は片手を上げて制止する。


『スキルから来るフィードバックを遮断ね。言う事聞きなさい! この不良スキルが! 捨てるわよ!』


 羽虫が色々頑張っているみたいだ。


「この女の説明を」


 俺が痛みを押し込み、イブゲスに問う。


 帝国南方にあるエルフ集落同士の戦争が数年前に起こった。小規模なものだったが、集落の数が7割減した。ライは知らなかったが、聞く限りかなり大規模な争いになる。


 人族の言葉でサリスと呼ばれる彼女は負け組でもっとも激しく抵抗した集落の姫だった。最終的には喉と目を潰され、逃げないように足も潰された。


 彼女を手篭めにしようとしたエルフは何人かいたが、皆返り討ちにあったそうだ。昔の綺麗な姿ならまだしも、今の姿ではリスクを犯したく無いのも頷ける。


 サリスがその説明に頷いているから、たぶん正しいのだろう。


「厄介事だな」


 本能的に理解出来た。


『厄介事よ!』


「申し訳ありません」


「良し、買おう」


「すぐに下げ……。えっ?」


「買うと言っている。どっち道厄介事になるのなら、俺の手元に置いておく。近くにあればこそ対処も出来ると言うものだ」


『大丈夫なの?』


『問題無い』


 関わろうと無視しようとどっち道面倒になる気がする。ならばこそ、主導権は握る。


『なら良かったよ』


『何か有るのか?』


『一応エルフは遠縁みたいなものだしね』


『治療程度はやってやる』


『ありがとう』


 《光魔法》が失われた世界ではサリスの怪我を治す方法は無い。英雄譚に出てくるエリクサー等の霊薬なら直せるだろうが、その手の薬が店に出回る事は無い。


 俺は《光魔法》と強力な回復薬の両方を持っている。彼女の怪我など掠り傷とそう大差無い。


「さてイブゲスよ。これで終わりか?」


「その、実はもう一つだけ残っています」


 エルフの厄介事を片付けたから、違う厄介事も片付けてもらいたいのか。

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