屋敷購入
「いらっしゃいませ!」
俺が不動産屋に入ると、少々汗臭い小太りな男が出て来た。
「カッタルイで家を買おうと思っている」
「当店では貴族街から貧民街まで幅広く扱っております。どの様な物件をお探しですか?」
最近は再開発が盛んで、貧民街は取り潰されて城壁外に追いやられる貧民が多い。ニコルもその一人だったが、運良く観光案内所で仕事が見つかった。
俺が貧民街で土地を買えば嬉々としてそこを潰すつもりだ。
「貴族の邸宅を考えている」
俺は子爵令息の身分を証明出来るものを提示しながら言う。
「そうなると貴族街か再開発が済んだ新市街になります」
「お勧めはあるか?」
「貴族街の物件は高くて狭いです。新市街の物件は大きく、住民の大半は下級貴族か裕福な平民です」
貴族街は審査が厳しい。今日明日にでも引っ越したい俺には合わない。
「分かった。新市街を中心に見せてくれ。後学のためにも貴族街の屋敷を見たいのだが、可能か?」
「もちろんです。お客様の多くが同じ事を望まれます」
貴族街に足を踏み入れるのは面倒だから、この機会に見に行く顧客が多いのだろう。俺も便乗させてもらおう。
貴族街は専用の石壁で外と分断されている。貴族街内部も身分に応じて住めるエリアが壁で区切られている。身分が高い方が城に近い場所に屋敷を構えられる。
俺が入れるのは一番外のエリアまで。それでもプレミア価格で取引されている。
「今空いており、値段が抑えられているのはこの屋敷です」
城壁のすぐ横にあり、一日の半分以上が壁の影に隠れる作りだ。金を貰っても住みたくない。
『ここ嫌!』
羽虫がご立腹だ。俺も嫌だ。
「じめじめしているな」
「立地が立地ですので。それでも300平米でたったの30,000Gなのです!」
100坪弱で3億円か。不用だ。
「この程度しか無いなら、新市街に行こう」
俺は早々と切り上げる。予算は50,000Gまでと言ってある。ここで30,000Gとするなら、このエリアでは期待出来る物件は無い。
新市街は中央道路がしっかり作られていた。屋敷も全体的に大きく、壁と庭が備わっているそうだ。
「ここら辺は一昔前まで他国の外交官が多く住んでいました」
「今は?」
「2つ隣のエリアに移りました」
「ここに何か不備があったのか?」
「否、不具合などありません。外交官が去った後に屋敷を買って永住するお客様が増えたのです」
新しい外交官が前の外交官の屋敷を気に入らなかった。それで違う場所を借りた。空き家を永住予定者が買った。そして段々外交官の比重が減り、このエリア一体から外交官が撤退した。
「それで、今回の物件はどういう理由で空いたんだ?」
事故物件とかはお断りだ。
「なんでも二重王国にある実家を急遽継ぐ事になったとか。もう1年も前の事です」
「入居希望者は?」
「何人かに見せましたが、どうも値段の折り合いが付かず……」
俺達は大きさの割に値段が安い物件に到着した。壁が周りに比べて一回り高いのは良いのだが、それが手入れされていない土地を隠すためなのがいただけない。広すぎる土地に小さすぎる屋敷が一つだけ建っている状態だ。なるほど。これは屋敷として使い辛い。
「全部で3500平米あります」
広いのは助かる。これなら100人規模の人員を入れられる。工房と訓練場は追加で建てられる。風呂用品の工場は外になるが、試作品はここで作れる。
本邸以外の建物が無く、地下が無いのも非常に良い。俺のスキルで密かに地下倉庫を作るとしよう。
『ここ、なんか良さげ!』
羽虫のお墨付きだ。
「いくらだ?」
「60,000Gとなっています」
1050坪で6億円か。
「分かった。ここにする」
「えっ! えぇぇ!」
「どうした?」
予算オーバーなのを気にしていたのか? 多少超えるのは想定内だ。
「い、いえ。その、ありがとうございます!」
「家具とかはどうなっている?」
「完全な空き家となっています。屋根と床などは定期的に確認しているので問題ありません」
「そうか。なら3日後の午後に各種業者が来る様に手配出来るか?」
「もちろんでございます!」
これだけの買い物だ。少しは扱き使おう。家具、食糧、衣服などの業者が尋ねてくる手筈を整える。前金として30,000G払い、残りは3日後となった。




