山
クレーターの中心に山がある。不思議ではない。
標高三千メートルと少し。山頂まで登る。
『高いね!』
「公国の位置はあっちか。王国はあっちで……」
『もう! 折角の景色を楽しみなさいよ!』
「……分かった」
渋々同意する。ここで機嫌を損ねる必要も無い。
帰りにワイバーンの巣を覗いたが、金目の物や卵は無かった。卵の時期とは違うから、期待はしていなかった。
『竜なのに、お宝が無いなんて!』
「流石に、こんな僻地では集められないだろう?」
『竜たるものの風上にも置けないよ! 宿主様にやられたのも当然だね』
「そうか」
興奮する羽虫を他所に、ワイバーンとの激戦を振り返る。今まで戦った中では間違い無く強敵だった。それでもやはり、俺の望む力にはかすりもしない。
下山し、次の日から内部調査を開始する。
この山は何処からどう見ても山だ。普通はそう結論付ける。
しかし、山では無い。
岩だ。
結論を簡潔に述べよう。
何かがぶつかり、クレーターが出来た。その何かを押し潰すために岩を置いた。墓標なのか封印なのかはこれから調べる。
重要な点は二つ。
一つはクレーターを作り出した何か。原型を留めているなら、とんでもない防御力を持っている。自然落下では無く、攻撃によるものなら、攻撃した方も企画外だ。
俺が想定している最強の勇者でもこんな攻撃は出来ない。
もう一つは、この岩をどうやって運んだか。近くに岩場は無い。空を飛んで持ち上げたのか、次元収納に富士山クラスの質量を持つ物を入れたのか。召喚魔法と転移魔法も可能性はある。しかし、この質量だ。どの手を使ったにせよ、規格外だ。
最強の勇者ならギリギリ出来るかもしれない。レベル99でスキルレベル10ならば、あるいは?
《土魔法》で生み出した岩では無い。これは確実。魔法で作った岩は中身が均一だ。半分に割ったり、ソナーで調べたら一発で分かる。
この岩は天然物だ。地表より上の部分の奥深くに金と銀があった。ハリボテなのを期待して内部を調べたのに、思わぬ収穫だった。当然、魔法を使って全て回収した。
地表よりしたの部分は逆三角形になっていた。そして何故か全体がマナメタル化していた。マナの濃度でアダマンタイトなどに名前分けされるが、俺では詳しい分別は出来ない。次元収納に入るだけ入れて、専門家に任せる。
残るは山の下に埋まっていた物だけだ。《土魔法》で穴を開け、洞窟を作る。そこからマナメタルを回収しながら、下に掘る。撤収し易い様に階段を作りながらの作業だったため、予定より少し時間が掛かった。
やっとその物の階層まで掘り進んだ。その物を中心に6畳間の部屋を作り、じっくり調べる。
『これって骨?』
流石に羽虫はこれが何か知っているみたいだ。
「そうだ。人体の脊髄、肋骨と胸骨あたりだ」
『頭蓋骨は無いみたいね』
「あったら動き出していたかもな」
『そんなの、いやぁ!』
砕けた骨が散らばっている。部品的に頭蓋骨だった物と思える欠片がそこら辺に転がっている。
「大丈夫だ。負けはしない」
そんな事を言ったものの、これが動き出せば勝ち目は無い。近付くだけでこれが何らかの超エネルギーの塊だと分かる。辺り一面のモンスターが進化したのは漏れ出した力によるものだ。
岩は封印装置だったか。それでも漏れ出していた。確認が疎かだったのは何故か? 確認出来ない事態に陥ったか、故意に確認しなかったか。相打ちの可能性も無きに有らずか。不自然だが、今の俺にどうする事も出来ない。
慎重に近付いて、指先でトントンと肋骨を軽く叩く。何も起こらない。
「結界は無いみたいだ」
『ただ単に力を垂れ流しているだけね』
この力は魅力的だ。自分の物に出来れば!
「俺で吸収出来るか?」
『……無理じゃないかな。今の宿主様じゃあ耐え切れずに破裂するよ』
「そうか」
今は無理か。自滅覚悟で身に余る力に手を出すのは最終手段だ。俺はまだまだ自力で強くなれる。
ここに放置する必要は無い。次元収納しておこう。
ピキィィン!
「なんだと!」
次元収納が弾かれた。ワイバーン20匹、金銀数トンが余裕で入ったのに、これは無理なのか?
『力が濃密過ぎて、次元収納が破裂かな?』
「やれやれ。これはまずい」
リスク覚悟で吸収するしか無いか? 放置は絶対に出来ない。
対策を考えるか。これのためなら数日留まっても良い。それに周りのマナメタルの回収作業もある。
『宿主様、ここに残るなら、垂れ流しをなんとかしたね』
「まずい! 俺が作った入り口から力が放出されている!」
どうやら最初の仕事は洞窟の入り口を塞ぐ事らしい。塞ぐだけで無く、ここまでちゃんと空気が来る様にしなければ。思わぬ伏兵に出会ってしまった。




