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破壊神と妹勇者  作者: 朝寝東風
第一章
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閑話 ディーン

 アルドスタン王国の王都から馬車で半日の距離に豪華な屋敷がある。王都での醜聞を恐れたエルトール侯爵が嫡男のディーンに与えた屋敷だ。


 見た目三階建ての豪邸で、表と裏に広い庭がある。敷地全体を囲む壁があり、その周りには水堀がある。出入りも跳ね橋を使う本格的な作りだ。それを城と呼ぶか牢獄と呼ぶかは侯爵との関係次第。


 侯爵家を始め、多くの者が内部を調査しようとして帰らぬ者となった。この中で起こる事は全て闇の中だ。


 関係者周辺の動きから分かる事は二つのみ。侯爵がディーンの毎月の生活費を工面するのに苦労している。屋敷には貴族が大ぴらに付き合ってはいけない集団が常に出入りしている。


 ディーンはヴェルベットの椅子に腰掛けている。人間と知らなければオークの亜種と疑われる異相の持ち主。150キロはある巨体を支える椅子はアダマンタイト製。これで殴れば人間など簡単に撲殺出来る。


 彼の周りにはほぼ全裸の女性が4人。皆作り笑顔で彼の機嫌を損ねない様に細心の注意を払っている。目や指先の微妙な動きで彼が何を求めているのか察知して、的確に行動する。


「ご主人様、ワインでございます」


「ぐふふ」


 一人の女性が赤ワインをディーンの口に入れる。どうやら正解を引いたみたいだと、女性は安堵する。何せテーブルの上には国王ですら滅多に出来ない勢の限りを尽くした料理が並んでいる。この大半が残飯として、毎日屋敷の豚小屋に捨てられる。


 王国は重罪を犯して鉱山送りになった人間以外の奴隷を禁止している。しかし女性の肌には奴隷を示す紋章が浮かんでいる。これだけでディーンは廃嫡どころか処刑されてもおかしくは無い。されど、誰も知らないなら罪にはならない。


 そもそも、ディーンの周りにいる女性は王国の貧乏貴族や騎士の5女や6女辺りであり、いなくなっても誰も気にしない。親には借金の減額や昇進をチラつかせば、反対する者はいない。ディーンは権力と財力を使い、弱みを持つ者を掌握していく。ディーンの申し出に反対する者は不思議といなくなる。


 ディーンはここ数日気分が良い。女性達は理由を聞くそぶりすら見せない。彼女らは人形のように笑い、不要な事を考えない。何せ、新人が入るたびに出来の悪い一人が目の前で処分されるのだから。


「偉大なるディーン様、ただいま戻りました」


 執事風の男が王に謁見するかの様な振る舞いでディーンの前に肩膝を付く。


「して、首尾は?」


「ライの死体は発見出来ず。調査隊もゴブリンの大群に出会い、撤退」


「……」


 ディーンが途端に不機嫌になる。


「しかし、ライの共周りは全員死亡を確認しました。山賊全員も死んでいます」


「愚か者が!」


「は、はっ!」


 ライの死体が無く、山賊が全滅している。答えは一つ。ライが生きている。


 屋敷の外ではイレギュラーが起こりやすい。起こっても大丈夫な様にディーンは細心の注意を払い、常に過剰な戦力を投入してきた。あろう事か、絶対に失敗出来ないライの事故死だけ失敗するとは!


 ディーンは目を瞑り考える。


 作戦は完璧だった。ライの行動予定を護衛から聞き出し、待ち伏せ場所には10日前から張り込ませた。武器と道具、果ては下着の一枚まで足が付かないように手配した。後は殺すだけ。どんな馬鹿でも出来る簡単な仕事だ。


 それをしくじった。ディーンの前にいる執事風の男がしくじった。ディーンは自分のミスを認めない。失敗には必ず自分以外の外的要因があると確信している。それ故に、この執事風の男は罰せねばならない。


 罰を受けるのは配下。手柄を独占するのはディーン。それがこの世の理。ディーンの中ではそれ以外の真実は無かった。


「全て、分かった」


 ディーンはそう言って男の頭に手を載せる。


「ディ、ディーン様、お慈悲を!」


 ディーンは無言だ。そして執事風の男は見る見る萎えた。逆らおうにも彼に付けられた奴隷の紋章がそれを許さない。そして、骨と皮になり、そのまま砂に返る。


「喉が渇いたな」


 ディーンの呟きを聞いて、女性達は我に返る。我先にと飲み物を用意する。彼女達は知っている。自分達もとばっちりを受ける立場だ。


「南国産の果実を使ったコクテルでございます」


「ぐふ、ぐふふ」


 ディーンの機嫌が直ったようだ。今回は危なかった、と女性達は冷や汗をかく。こんな生活、耐えられるわけが無い。死ぬだけなら、幾らでも死ぬ。しかし、彼女達には見える。先程の執事風の男の顔がディーンの腹に浮かび上がっているのを。


 何故ディーンがこの様な力を持つかは誰も知らない。しかし、これまで来た密偵と伯爵からの特使は皆同じ結末を迎えた。そして彼女達もいずれ同じ運命を辿る。


 今日もディーンは我が世の春を謳歌する。侯爵がライの生死に関わらず、ディーンを廃嫡する決意を固めたとも知らずに。

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