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特訓方法

 それは日課であるシルクのブラッシング中の事であった。


 道具屋のおっちゃんお勧めブラシであるのと毎日欠かさず手入れをした結果、シルクの毛並みは光沢を持ちふさふさになっていた。


「もふもふになったよねーシルク」


「ヴオン」


 背中からしっぽまで終えて、腹部へと差し掛かる。

 そして気づいたのだ。ふにっとしていると。

 押した感覚で柔らかいだけだろうと思い摘まんでみる。

 ふむ...これは。


「シルクちょっと立って、腹筋に力入れてみて」


 立ち上がったシルクを再度確かめてみる。

 ふにっ。


「うむ、これは...」


「ヴオン?」


「あんた、太ったな?」


「ヴ、ヴオン!!」


 そんな馬鹿なとでも言う表情だ。口が半開きで目が見開いている。


「ちょっと動かないでよ」


 掬い上げるように持ち上げてみるが、確かな重量感。


「成長期で体格が大きくなってるのもあるけど、脂肪分も十分ついてるよ。来た時よりも丸くなってる」


「ヴオン!!ヴオン!!」


「現実は残酷だけど、まあ食っちゃ寝してるからねアンタ。餌を自分で取らなくなって、家で寝てばっかりいるんだから贅肉がついても仕方ないんじゃないかな。心なしか声も太い!!」


「ヴオン.........」


 何か項垂れている。好きにさせ過ぎたのだろうか。


「とにかく、健康上無駄な脂肪はよろしくない。そして丸すぎる狼というのもみっともない!!」


 太っているのは裕福な証拠だと言う意見もあるが、狼が太るのは如何なものか。

 鈍足ではいざというとき野生で生きれなくなる。そして何より、警備員を撃退できないであろう。


「というわけで減量も兼ねて今日から運動をしようか」


「ヴオン!!」


 シルクも太っている宣言が余程堪えたのかやる気を見せている。

 しかし運動といってもどういうのがいいのか、はて?



 困ったときは相談だという事でスフィアさんに聞いてみた。

 手っ取り早く、痩せる薬があるという事だったが。治療薬的側面があって、お勧めしないとの事。なんでもゆっくりとだが脂肪分を減らしていく事ができるが、低下している筋力は戻らないんだそうだ。

 太り過ぎて歩くのにも苦労する人向けらしい。

 提案としてはもともと食事は私達と同じ量を取っているので、私について一緒に回れば十分だとの事。

 言われてみれば、それすらしてなかったなと。


 助言通りに翌日から樵仕事やらに着いてきてもらう。

 最初の数日はのったりした歩き方だったので、少し速度を上げながら移動をすることにした。

 走り方すら忘れたとは言わないが、ぎこちなかった。そして体力もちょっと怪しい。


 一週間もすると感覚を取り戻したように森の中も走れるようになったようだ。

 その頃には私も付き合って伐採場まで走っていくことにした。運動不足ではないのだが、食生活が改善され過ぎて少しお腹のお肉が気になっていたのだ。

 太ってはいない!!太ってはいないのだが......ちょっとふにふにしてる気がしたのだ。

 腹筋を割りたいとかそんな事は全く考えないのだが、もう少しだけ締まった腹部でもいいと思うのだ。

 私も頑張ろう。


 食事制限は得にせずに運動量を増やす方向で調整し始めて一か月経つ頃には、成果も現れた。

 シルクのブラッシング時に結構締まってきたような気がする。まだふにっとする気もするが、これからも続けていけばすっきりするだろう。


 私の方はと言うと、締まらない。なぜだ!!理不尽だ!!

 柔らかいというだけで、出っ張っているわけでもないし問題はないのだが釈然としない。

 背丈も伸びないし、体型が一昨年と変わっていない気がする。


 伝統的ドワーフの樽体型には程遠い様だ。

 解せぬ。


 特訓を開始して三か月経つ頃にはシルクもすっきりした。

 贅肉が筋肉に置き換わり、森を走る姿も颯爽としている。まだまだ小柄なのだが、来た時から比べてかなり大きくなってきた。顔つきもより狼っぽくなったような気もする。

 町に行くと、初見の人はちょっと警戒するようになったので凄みも出てきたのかもしれない。


「とにかくこの調子を崩さないようにしようか」


「ウォン!!」


 声も、戻ったな。やっぱりあれ、太かったんだなと思った。

 このまま成長すれば立派な狼になるだろう。もしかしたら私を背中に乗せれるようになるかもしれない。

 いやちょっとまて、その頃にはきっと私も大きくなっているから。うむ、きっと乗せれないだろう、多分、きっと......。


 シルクの成長期がまだ残っているように、私の成長期もまだまだきっと残っているのだ。


「一緒に大きくなろうシルク!!」


「ウ、ウォン」


 何故かシルクからは同情的な視線を感じる。馬鹿な!!見込みが無いとでもいうのかシルクよ。


「そんな目でみるなああああああああああ」


「ウォン...」


 シルクの目は一層同情的になったようだ。


警備員「アルシェ ザ ブートキャンプか」

アルシェ「ぶーと...なに?」

警備員「隊長による地獄の特訓」

アルシェ「また、わけの分からないことを」

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