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第二話 ノロ様の履物がない

神様への祈りは真剣そのもの。

けれど、普段の暮らしでは少々おっちょこちょいなノロ様、カナー。

今度は、大切な履物が見当たらないようです。

単なる忘れ物か、誰かのいたずらか。それとも……?


今帰仁の村で起こる、ちょっと不思議な騒動の始まりです。

一 片方だけの草履


 今帰仁の朝は、今日もよく晴れていた。

庭先では雀が騒ぎ、遠くの畑からは人の声が聞こえてくる。海から吹く風も心地よく、何事もなければ、実に気分のよい一日になるはずだった。

ところが、中城ノロの加那――カナーは、朝からたいそう不機嫌だった。


「ない」

家の戸口で、カナーは腕を組んだ。

「どうしてないんだい」

足元には、草履が一つ。

右足の分だけが、ぽつんと残されている。左足の草履が、どこにも見当たらなかった。

「小夜! 小夜はどこだい!」

「ここですよ」

庭の隅で水を汲んでいた小夜が、ひょいと顔を出した。

「私の草履を知らないかい」

「草履?」

「そうさ。片方だけなくなったんだよ」

「また、どこかに置き忘れたんじゃありませんか」

「またって何だい、またって」

「この間も、櫛を探して大騒ぎしたでしょう」

「あれはちゃんと見つかったよ」

「ご自分の頭に挿してありましたけどね」

カナーは口をつぐんだ。確かに、そんなこともあった。しかし、今は櫛の話ではない。

「今日は与那嶺のほうへ行かなきゃならないんだ。草履がなければ困るじゃないか」

「裸足で行けばいいでしょう」

「石だらけの道を?」

「いつも御嶽では裸足になるじゃありませんか」

「御嶽と道端を一緒にするんじゃないよ」

もっとも、普段のカナーも裸足で歩くことは珍しくない。だが、今日は村の女たちと祭祀の支度を確認する約束がある。そのために用意しておいた草履だった。

カナーはため息をついた。

「仕方ない。古いので行くかね」

そう言って家の奥へ入ろうとしたとき、小夜が声を上げた。

「あら?」

「何だい」

「ノロ様、あれ」

小夜が指さしたのは、庭先の土だった。

そこに、小さな足跡が残っている。 どうやら子どものものらしい。

足跡は戸口の前まで続き、そこで向きを変えて、庭の外へ消えていた。

「……ふうん」

カナーはしゃがみ込んだ。

「小夜、昨日の夕方、誰か来たかい」

「タルーが来ましたよ」

「タルー?」

「ほら、この間、御嶽の供え物を持っていった」

「ああ、あの食いしん坊か」

「妹さんが元気になったって、お礼を言いに来たんです」

カナーは頷いた。

タルーは十歳になる男の子だ。病気の妹に食べさせようと、御嶽に供えられた甘いものを持ち去ったことがある。だが、あれはもう済んだ話だった。

「ほかには?」

「誰も来ていませんよ」

「じゃあ、夜中に誰かが来たのかね」

「草履を盗みに?」

「そういうことになるねえ」

小夜はしばらく考え、首を傾げた。

「でも、どうして片方だけなんでしょう」

カナーも首を傾げた。

確かに妙な話だった。草履を盗むなら、普通は二つ持っていくだろう。

「……片足の泥棒かね」

「そんな泥棒、います?」

「いるかもしれないだろう」

「いたとしても、右足はどうするんですか」

「知らないよ!」

カナーは立ち上がった。

そして、勢いよく庭へ踏み出し、石につまずいた。

「おっとっと!」

危うく転びかけたところを、小夜が支える。

「ノロ様!」

「大丈夫、大丈夫」

「本当に足元を見てください!」

「見てるよ!」

「見てないから転ぶんでしょう!」

カナーは口を尖らせた。

どうにも朝から調子が悪い。しかし、このときはまだ知らなかった。

なくなった草履は、村で起こっていた別の奇妙な出来事の、ほんの始まりにすぎなかったのである。



二 村のなくしもの


与那嶺(よなみね)へ向かう途中、カナーと小夜は畑仕事を終えた老婆に呼び止められた。

「ノロ様、ちょっと聞いておくれ」

「何だい、阿加(あか)おばあ」

阿加は、村の古い祭祀について何かと口を出す、年配の女である。

カナーにとっては、子どもの頃から頭の上がらない相手だった。

「うちの縄がなくなったんだよ」

「縄?」

「そうさ。昨日、軒下に掛けておいたものが、今朝になったらなくなっていた」

「風で飛んだんじゃないのかい」

「縄が風で飛ぶかね」

「……まあ、飛ばないこともないだろうけど」

「ちゃんと巻いて、石を載せておいたんだよ」

カナーは少し考えた。

「何に使う縄だったの?」

「荷を括るためのものさ。古くなったから、今度取り替えようと思っていたんだけどね」

「古い縄か」

「そうだよ」

阿加は腰に手を当てた。

「人のものを勝手に持っていくなんて、困ったもんだ」

「そうだねえ」

カナーは頷いた。


草履に続いて縄。

どちらも大して値打ちのあるものではない。だが、なくなったとなれば話は別だ。

それから少し歩くと、今度は畑の脇で男が騒いでいた。

「誰だ! わしの籠を持っていったのは!」

男の名は徳丸(とくまる)といった。

働き者だが、声が大きく、気の短いことで知られている。

「どうしたんだい」

カナーが尋ねると、徳丸は勢いよく振り返った。

「ノロ様、聞いてくださいよ! 畑に置いていた籠がなくなったんです!」

「籠?」

「ええ! 古い竹籠ですがね、まだ使えるんですよ!」

「いつからないんだい」

「昨日の夕方にはあったんです。今朝来たら、影も形もない!」

カナーは腕を組んだ。


草履、縄、竹籠。

それも、すべて昨日の夕方から今朝にかけてなくなっている。


「小夜」

「はい」

「どう思う?」

「泥棒でしょうか」

「それはそうだろうけど、何でこんなものばかり持っていくんだろうね」

徳丸が口を挟んだ。

「何でもいいから盗みたい奴がいるんでしょう!」

「そんなに怒ることもないだろう」

「怒りますよ! わしの籠ですよ!」

「わかった、わかった」

カナーは両手を上げた。

「で、その籠、どんなものだった?」

「丸い籠ですよ。底が少し破れていて、持ち手も片方外れかけている」

「……ずいぶんくたびれた籠だね」

「まだ使えるんです!」

「はいはい」

どうやら、泥棒は古いものばかり集めているらしい。

カナーは考え込んだ。金目のものではない。新しいものでもない。

使い古した草履に、古い縄、壊れかけた竹籠。

どれも、持ち主にとっては必要なものだが、盗んで売るには向いていない。

「変だねえ」

 カナーが呟くと、小夜が笑った。

「ノロ様、また何か思いつきました?」

「いや、まだ何も」

「珍しいですね」

「何が珍しいんだい」

「いつもは、わかったような顔をするじゃありませんか」

「私はそんな顔をしないよ!」

小夜は笑っている。カナーはむっとした。

しかし実際、今のところ何もわかっていなかった。

それが少しばかり悔しかった。



三 足跡の行き先


その日の祭祀の支度を終えた帰り道、カナーはもう一度、徳丸の畑へ立ち寄った。

籠が置かれていたという場所には、草が倒れた跡が残っていた。

その脇の土には、何人かが歩いた足跡がある。

「ノロ様、何を見ているんですか」

「足跡だよ」

「朝も見ていましたね」

「そうだね」

「足跡がお好きなんですか」

「そういうわけじゃないよ」

カナーはしゃがんだ。

小さな足跡がある。

右足と左足。

ただし、妙なことに、片方だけ草履を履いている。

「あれ?」

カナーは顔を近づけた。

左足に草履。

右足は裸足。

しかも草履の跡は、カナーが今朝なくしたものと、よく似た形をしていた。

「……ふうん」

小夜も覗き込んだ。

「片足だけですね」

「そうだね」

「ノロ様の草履でしょうか」

「まだわからないよ」

カナーは足跡の向きを確かめた。

畑の奥へ続くものと、そこから戻ってくるものがある。

どうやら誰かが、ここへ来て、籠を持ち去ったらしい。

「行ってみようか」

「どこへ?」

「足跡の先さ」


二人は畑の端に沿って歩いた。

やがて道は、木々の茂る小さな谷へ下りていく。

谷の底には、水の流れる細い沢があった。

雨の多い季節には水かさが増し、村人たちは近道として使うことを避けている。

カナーは、その手前で立ち止まった。

「……あれ?」

沢の向こうに、何かが見える。

木の枝に引っかかった、細い縄。

それから、石の上に置かれた竹籠。

近づいてみると、籠の底には草が敷き詰められていた。

「あっ!」

小夜が声を上げた。

「これ、徳丸さんの籠じゃありませんか!」

「そうみたいだねえ」

「じゃあ、泥棒はここに?」

カナーは頷かなかった。

籠の中には、丸く編んだ草が何枚も重ねられている。

何かを運んだようにも見えるが、何に使ったのかはわからない。


そのとき、背後の茂みががさりと鳴った。

「ひゃっ!」

カナーは飛び上がった。

小夜が振り返る。

「ノロ様?」

「今、何か動いた!」

「風でしょう」

「いや、確かに……」

がさがさ。

もう一度、音がした。

今度は小夜にも聞こえたらしい。

二人は顔を見合わせた。


茂みの向こうから、誰かが現れた。

「……あ」

タルーだった。

両手に、草の束を抱えている。

そして、その左足には。

カナーの草履が履かれていた。

「……タルー」

少年は、ぴたりと立ち止まった。

「ノロ様……」

「その足のものは、何だい」

タルーは足元を見た。

それから、ゆっくり顔を上げた。

「……草履」

「それは見ればわかるよ」

「……ノロ様の」

「そうだねえ」

小夜が横で吹き出しかけた。

カナーは少年に近づいた。

「さて。どうして私の草履を履いているのか、聞かせてもらおうか」

タルーは俯いた。

しばらく黙っていたが、やがてぽつりと答えた。

「……必要だったから」

「何に?」

「……こっち」

少年は沢の向こうを指さした。

カナーと小夜は顔を見合わせた。



四 盗人の事情


沢の向こうには、古い小屋があった。

今は畑仕事の道具を置く程度にしか使われていないが、かつては人が住んでいたこともあるという。

その小屋の前で、一人の老婆が座っていた。

カナーは見覚えがあった。

「……ウメおばあ?」

老婆は顔を上げた。

「おや。ノロ様じゃないか」

「こんなところで何をしているんだい」

「何って、休んでいるんだよ」

老婆は笑った。

ウメは村の外れで一人暮らしをしている女だった。

最近は足腰が弱り、畑仕事もほとんどできなくなっていた。

「タルー、どういうことだい」

カナーが尋ねると、少年は草の束を地面に置いた。

「ウメおばあ、昨日からここにいるんだ」

「昨日から?」

「うん。沢を渡ろうとして、足を痛めたんだって」

ウメが慌てて口を挟んだ。

「大したことじゃないよ。ちょっと足をひねっただけさ」

「それで、帰れなくなったのかい」

「まあねえ」

カナーは呆れた。

「どうして村の人に言わなかったんだい」

「言おうとは思ったんだけどね」

ウメは笑っている。

どうにも悪びれた様子がない。

タルーが続けた。

「昨日、ここで見つけたんだ。おばあ、一人じゃ歩けないから、僕が何とかしようと思って」

カナーは竹籠を見た。

古い縄もある。

草を編んだ敷物もある。

「……なるほどねえ」

少年は、見よう見まねで人を運ぶための道具を作ろうとしたらしい。

竹籠に草を敷き、縄を結び、何とか老婆を乗せようとした。

しかし、籠は人を運ぶには小さすぎた。

結局、どうにもならず、ここに置いたままになっていたのだ。

「じゃあ、草履は?」

カナーが尋ねると、タルーは困った顔をした。

「沢の石が痛いから」

「うん?」

「僕、左の足を切ったんだ。だから、草履があれば歩けると思って」

「……それで私のを?」

「うん」

「どうして片方だけなんだい」

「左だけでよかったから」

カナーは天を仰いだ。

「なるほどねえ……」

実に理にかなっているようで、まったく理にかなっていない。

「それなら、最初から私に言えばよかっただろう」

「だって……」

「だって?」

「ノロ様、忙しそうだったから」

カナーは口をつぐんだ。

昨日は確かに、祭祀の支度であちこち走り回っていた。

そして、途中で転びかけたところを村人に笑われたりもしていた。

タルーは続けた。

「ノロ様、いつも忙しいだろう。だから、僕がやろうと思ったんだ」

カナーは少年の顔を見つめた。まだ十歳の子どもである。

この間は妹のために供え物を持ち去り、今度は老婆を助けようとして草履と縄と籠を勝手に持ち出した。

やり方は間違っている。

だが、心根まで悪いわけではない。

「……タルー」

「はい」

「今度から、困ったときはちゃんと大人を呼びなさい」

「……はい」

「人のものを勝手に持っていくのも駄目だよ」

「……はい」

「それから」

カナーは少年の足を見た。

「私の草履を返しておくれ」

タルーは慌てて草履を脱いだ。

その拍子に片足でふらつき、尻餅をついた。

「うわっ!」

カナーは思わず笑った。

「まったく。誰に似たんだかねえ」

小夜が横から言った。

「ノロ様じゃありませんか」

「何で私なんだい!」

「よく転ぶところが」

「似てないよ!」

小夜は声を上げて笑った。

ウメまで笑っている。

カナーは少しむっとしたが、やがて自分も笑ってしまった。

「まあ、いいさ」

それからウメの足を確かめ、帰り道をどうするか考えた。

沢を渡るのは危ない。

遠回りになるが、畑の道を通れば、どうにか村まで戻れそうだった。

「小夜、村へ戻って徳丸を呼んできておくれ。男衆にも手伝ってもらおう」

「はい!」

「それから、阿加おばあにも伝えておいて」

「何て?」

「縄は見つかったって」

小夜は笑いながら頷き、駆け出した。

カナーはウメの隣に腰を下ろした。

「まったく。人騒がせなことだねえ」

「すまないね、ノロ様」

「いいんだよ。怪我が大したことなければ」

ウメは少し黙ってから、ぽつりと言った。

「……一人暮らしは、何かと心細くてねえ」

カナーは顔を向けた。

「そうだろうね」

「でも、あの子が来てくれたから、助かったよ」

タルーは照れくさそうに俯いた。

カナーは少年の頭に手を置いた。

「今度は、ちゃんと人を呼ぶんだよ」

「うん」

「それから、草履を盗むくらいなら、自分のを持ってきなさい」

「僕の、破れてるんだ」

「……そうかい」

カナーはため息をついた。

どうやら、また一つ仕事が増えたようだった。



五 草履の行方


その日の夕方、ウメは無事に村へ戻った。

徳丸は自分の竹籠を取り戻し、阿加も縄を返してもらった。

タルーは二人に頭を下げ、しばらく畑仕事を手伝うことになった。

そしてカナーは、ようやく自分の草履を取り戻した。

「やれやれ」

家の戸口に腰を下ろし、草履を眺める。

左の鼻緒が、少しばかり緩んでいた。

「……ずいぶん酷使されたもんだねえ」

小夜が笑った。

「でも、よかったじゃありませんか」

「何が?」

「草履が役に立ったんですよ」

「それはそうだけどね」

カナーは鼻緒を結び直した。

「人助けに使われたんなら、まあ、仕方ないか」

「ノロ様らしいですね」

「そうかい?」

「ええ」

小夜は頷いた。

「怒っていても、結局は許してしまうんですから」

「許したわけじゃないよ。ちゃんと叱っただろう」

「そうですね」

「それに、今度から勝手に持っていかないように言ったんだ」

「はいはい」

「……その返事、何だい」

小夜はまた笑った。

カナーは草履を戸口に置き、家の中へ入った。

明日は別の村へ行く約束がある。

祭祀の支度を確かめ、古い歌の続きを阿加に教わらなければならない。

まだまだ、やることは山ほどあった。


その夜。

カナーはふと目を覚ました。

外で、何かが鳴った気がしたのだ。


こつん。


小さな音だった。

風が戸板を揺らしたのかもしれない。

カナーは寝床の中で耳を澄ませた。

しばらくすると、また音がした。


こつん。


カナーは眉をひそめた。

「……何だい、こんな夜中に」

起き上がって戸を開ける。

庭には月の光が差していた。

誰もいない。

ただ、戸口に置いたはずの草履が、きちんと二つ揃えられていた。

「あれ?」

カナーは首を傾げた。

自分で揃えた覚えはない。

確か、左の草履だけ少し離して置いたはずだった。

しかも、緩んでいた鼻緒が、きれいに結び直されている。

「……小夜かね」

そう呟いてから、カナーは草履を手に取った。

結び目が、妙に懐かしい形をしていた。

小さな輪を二つ作り、余った紐をその下へ通す。

子どもの頃、祖母がよく結んでくれた形だった。

カナーはしばらく眺めていた。

祖母は、草履の鼻緒が緩んでいると、決まって同じことを言った。


『足元をおろそかにする者は、肝心なものを見落とすよ』


カナーは、ふっと笑った。

「……おばあ、まだ心配してるのかねえ」

もちろん、そんなはずはない。

きっと小夜が結び直してくれたのだろう。

そう思って、草履を元の場所に置いた。


翌朝。

「小夜、昨日の夜、私の草履を直してくれたかい」

「いいえ?」

「え?」

「私、昨日は早く寝ましたよ」

「……そうかい」

カナーは少し考えた。

しかし、それ以上は何も言わなかった。

世の中には、わからないこともある。

それをいちいち気にしていたら、ノロの仕事など務まらない。

「まあ、いいさ」

そう言って、草履を履こうとした。

ところが。

「あれ?」

足が入らない。

どうやら、鼻緒がきつく結ばれすぎているらしい。

「……ちょっと!」

カナーは草履を持ち上げた。

「これじゃ履けないじゃないか!」

小夜が覗き込む。

「あら、本当ですね」

「誰だい、こんなにきつく結んだのは!」

「ノロ様がご自分で結んだんじゃありませんか」

「違うよ!」

「じゃあ、誰でしょうねえ」

カナーは答えなかった。

しばらく草履を見つめ、それから小さく呟いた。

「……おばあ」

庭先を、朝の風が吹き抜けた。

「結んでくれるのはありがたいけど、もうちょっと加減しておくれよ」

どこかで鳥が鳴いた。

小夜が不思議そうに首を傾げる。

「ノロ様、誰と話してるんです?」

「……誰でもないよ!」

カナーは慌てて草履を置いた。

その拍子に、片方がころりと転がった。拾おうとして身を乗り出したカナーは、敷居に額をぶつける。

「痛っ!」

「ノロ様!」

「……敷居が悪い!」

「またそれですか!」

今帰仁の朝は、今日も騒がしい。

どうやら神様も、少々手のかかるノロを見守っているらしかった。


第二話 了


お読みいただき、ありがとうございます。

なくなった履物ひとつにも、誰かの事情や思いやりが隠れているかもしれない。

そんな小さな出来事を通して、村の人々の暮らしと、カナーの人柄を描いてみました。

神様に関わる不思議なこともあれば、人の優しさが生み出す不思議もある。

これからも、そんな出来事がカナーの周りで起こっていきます。


次回は「夜道で名前を呼ぶもの」。

少しだけ、怖いお話です。

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