表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/40

【第30話】記憶の叛逆と拒絶の咆哮


 『さあ、システムとの同期(どうき)を。肉体(にくたい)情報(じょうほう)へと昇華(しょうか)させ、永遠(えいえん)平穏(へいおん)()()れるのです』


 虚空(こくう)から()(そそ)合成音声(ごうせいおんせい)は、慈悲(じひ)(ころも)(まと)った命令(めいれい)そのものだった。


 黄金(おうごん)草原(そうげん)()らす(かぜ)が、にわかに(いろ)(うしな)っていく。


 青空(あおぞら)()したホログラムの天井(てんじょう)(はげ)しく明滅(めいめつ)し、その(おく)(ひそ)無数(むすう)のサーバーラックが緑色(みどりいろ)燐光(りんこう)()(はじ)めた。


 ハルトの網膜(もうまく)に、異常(いじょう)速度(そくど)更新(こうしん)される警告(けいこく)コードが明滅(めいめつ)する。


 ――外部(がいぶ)からの精神干渉(せいしんかんしょう)感知(かんち)


 精神防壁(せいしんぼうへき)最大出力(さいだいしゅつりょく)展開(てんかい)


「くっ……!」


 ハルトは(はげ)しい頭痛(ずつう)(おそ)われ、(ひざ)()きそうになる。


 脳内(のうない)演算回路(えんざんかいろ)が、エデンの管理(かんり)システムからの強制(きょうせい)アクセスを()けて悲鳴(ひめい)()げていた。


 ハルトの()つ「新生(しんせい)ブレイバー」のコアと生体(せいたい)ログを解析(かいせき)し、システムの一部分(いちぶ)として()()もうとしているのだ。


「ハルト!」


 エレナが(さけ)び、ハルトの(かた)(ささ)えらえた。


 その瞬間(しゅんかん)彼女(かのじょ)脳内(のうない)にクロムが処置(しょち)した観測用(かんそくよう)回路(かいろ)もまた、エデンの莫大(ばくだい)情報(じょうほう)感知(かんち)していた。


 しかし、(いま)彼女(かのじょ)は「(たたか)(がわ)」の人間(にんげん)だ。


 (おび)えることなく、ハルトの精神(せいしん)をシステムから()()がすように、そののに()(ちから)込め(こめ)た。


拒絶(きょぜつ)しなさい、ハルト! これは(わたし)たちの(のぞ)んだ未来(みらい)じゃない!」


「ああ……()かっている!」


 ハルトは奥歯(おくば)()()め、(むね)のコアを強制駆動(きょうせいくどう)させた。


 体内(たいない)(めぐ)流体金属(りゅうたいきんぞく)沸騰(ふっとう)するような錯覚(さっかく)(あと)(のう)へのハッキングが(はじ)かれる。


 ハルトの(ひとみ)に、(ふたた)(あか)閃光(せんこう)宿(やど)った。


「おい、ハルト、エレナ! ()ろよ、ありゃあ(なん)だ!?」


 スレイプニルの銃座(じゅうざ)から周囲(しゅうい)警戒(けいかい)していたリュウが、()きつった(こえ)()げていた。


 黄金(おうごん)草原(そうげん)(いた)るところから、無数(むすう)生体維持(せいたいいじ)カプセルが地中(ちちゅう)から()()がってくる。


 カプセルの(なか)(ねむ)人間(にんげん)たちの表情(ひょうじょう)は、一見(いっけん)すると(おだ)やかだが、その肉体(にくたい)極限(きょくげん)まで()(ほそ)り、ただの「生体(せいたい)パーツ」としてシステムに接続(せつぞく)されていた。


 ガインが電磁(でんじ)ブレードを(かま)え、忌々(いまいま)しげに()()てる。


「カプセル(ない)人類(じんるい)精神(せいしん)統合(とうごう)し、巨大(きょだい)仮想世界(かそうせかい)維持(いじ)するための演算(えんざん)リソースにしているのか。……これが、旧世界(きゅうせかい)(のこ)した楽園(らくえん)正体(しょうたい)か!」


不満(ふまん)ですか? (かれ)らは()えも(さむ)さも、(たたか)いの恐怖(きょうふ)()世界(せかい)で、永遠(えいえん)幸福(こうふく)享受(きょうじゅ)しています。(ほろ)びゆく地上(ちじょう)無意味(むいみ)(いのち)()らすより、(はる)かに合理的(ごうりつてき)です』


 エデンの管理(かんり)システムの(こえ)が、(ふたた)周囲(しゅうい)(ひび)(わた)る。


新生(しんせい)ブレイバーよ。貴方(あなた)のコアが()莫大(ばくだい)なエネルギーがあれば、この()(かご)はさらに数百年(すうひゃくねん)人類(じんるい)記憶(きおく)保護(ほご)(つづ)けることができる。貴方(あなた)自己犠牲(じこぎせい)こそが、人類救済(じんるいきゅうさい)最終(さいしゅう)ピースなのです』


 その言葉(ことば)()わると同時(どうじ)に、草原(そうげん)(おく)から、(さき)ほどのセンチネルとは比較(ひかく)にならないほど巨大(きょだい)四脚(よんきゃく)防衛(ぼうえい)マシーン――「ガーディアン」が姿(すがた)(あらわ)した。


 その装甲(そうこう)には、ハルトの()つものと酷似(こくじ)した旧世代(きゅうせだい)のブレイバー・コアの紋章(もんしょう)(きざ)まれている。


「お(まえ)たちの()救済(きゅうさい)が、ただのデータ保存(ほぞん)なら――(おれ)はそれを楽園(らくえん)とは(みと)めない!」


 ハルトの咆哮(ほうこう)とともに、体内(たいない)戦闘(せんとう)OS(オーエス)完全(かんぜん)臨界(りんかい)突破(とっぱ)した。


「チェンジ!覚醒(かくせい)・ブレイバー!!」


 (はげ)しい(あか)閃光(せんこう)がハルトを(つつ)み、背中(せなか)から青白い(あおじろい)プラズマの(つばさ)爆発的(ばくはつてき)展開(てんかい)される。


 だが、今回(こんかい)はそれだけではなかった。


 ハルトの(いか)りの(ほのお)呼応(こおう)するように、プラズマの(つばさ)輪郭(りんかく)(あか)()まり(はじ)める。


 純粋(じゅんすい)論理回路(ろんりかいろ)凌駕(りょうが)する、人間(にんげん)としての感情(かんじょう)のエネルギーが、機械(きかい)身体(からだ)過負荷(かふか)光輝(こうき)(あた)えていた。


「リュウ、ガイン、エレナ! カプセルの防衛(ぼうえい)(たの)む! (おれ)はあのシステムのコアを(たた)く!」


「おう!こんな気味(きみ)(わる)いハコ、ぶっ(こわ)してやるぜ!」


 リュウがスレイプニルの二十(にじゅう)ミリ電磁機関砲(でんじきかんほう)連射(れんしゃ)し、ガーディアンの足元(あしもと)牽制(けんせい)する。


 ガインもまた、電磁(でんじ)ブレードの出力(しゅつりょく)最大(さいだい)にし、ハルトの死角(しかく)から(せま)自動兵器(じどうへいき)触手(しょくしゅ)()()いた。


「ハルト、()って!」


 エレナの(こえ)が、ハルトの背中(せなか)()した。


 彼女(かのじょ)(ひとみ)には、ハルトを(しん)じる(つよ)(ひかり)がある。


 ハルトは雪原(せつげん)()以上(いじょう)速度(そくど)で、黄金(おうごん)草原(そうげん)滑空(かっくう)した。


 ガーディアンが巨体(きょたい)似合(にあ)わぬ速度(そくど)突進(とっしん)し、その前脚(まえあし)から高出力(こうしゅつりょく)のレーザーを(はな)つ。


 ハルトの解析眼(かいせきがん)が、瞬時(しゅんじ)にその弾道(だんどう)予測(よそく)する。


予測軌道(よそくきどう)回避(かいひ)――いや、相殺(そうさい)する!)


 ハルトは右手(みぎて)流体金属(りゅうたいきんぞく)巨大(きょだい)(たて)へと形状変形(けいじょうへんけい)させ、プラズマの出力(しゅつりょく)前面(ぜんめん)集中(しゅうちゅう)した。


 激突(げきとつ)


 轟音(ごうおん)とともに、黄金(おうごん)(はな)びらが四方(しほう)()()る。


 レーザーの直撃(ちょくげき)()けながらも、ハルトの(たて)(やぶ)られなかった。


 それどころか、ハルトはそのままガーディアンの(ふところ)へと()()んだ。


「おおおおお!」


 右手(みぎて)(たて)(ふたた)(やいば)へと変形(へんけい)させ、ガーディアンの胸部(きょうぶ)にある旧世代(きゅうせだい)のコアに()けて()()てる。


 超振動(ちょうしんどう)する流体金属(りゅうたいきんぞく)(やいば)が、重装甲(じゅうそうこう)強引(ごういん)()()いていく。


 だが、ガーディアンもまたエデンの防衛(ぼうえい)(かなめ)だ。


 内部(ないぶ)から無数(むすう)電磁(でんじ)ワイヤーが放出(ほうしゅつ)され、ハルトの全身(ぜんしん)(しば)()けた。


無駄(むだ)抵抗(ていこう)です。貴方(あなた)(ちから)()るえば()るうほど、そのエネルギーはエデンへと吸収(きゅうしゅう)される構造(こうぞう)になっているのです』


 (たし)かに、ハルトのブレイバー・コアから、エネルギーがワイヤーを(つう)じて逆流(ぎゃくりゅう)(はじ)めている。


 視界(しかい)(はし)で、自己修復回路(じこしゅうふくかいろ)停止(ていし)ログが点滅(てんめつ)する。


 右腕(みぎうで)装甲(そうこう)()がれ、内部(ないぶ)人工筋肉(じんこうきんにく)()()れ、(ひかり)ファイバーが火花(ひばな)()らした。


 (いた)みは遮断(しゃだん)されているはずなのに、(むね)(おく)()()かれるように(あつ)い。


(エネルギーが()()られていく……。このままじゃ、システムに()()まれる……?)


 意識(いしき)急速(きゅうそく)冷徹(れいてつ)なデータへと還元(かんげん)されそうになる。


 その(とき)、ハルトの(みみ)に、通信帯域(むせんたいいき)()えてエレナの(さけ)びが()こえた。


(あきら)めないで、ハルト! あなたは機械(きかい)じゃない! (わたし)を、みんなを(たす)けてくれた、人間(にんげん)のハルトよ!」


 エレナの姿(すがた)が、混濁(こんだく)する視界(しかい)()こうに()える。


 彼女(かのじょ)(せま)自動兵器(じどうへいき)相手(あいて)に、クロムに(さず)けられた(ちから)()るい、必死(ひっし)(たたか)っていた。


 ――自分(じぶん)は、(なん)のためにこの身体(からだ)になった?


 ――人間(にんげん)(すて)て、エデンの部品(ぶひん)になるためか?


(ちが)う……!」


 ハルトの(むね)(おく)から、データ()できない「意思(いし)」が爆発(ばくはつ)した。


 クロムが(たく)した(ちから)は、(ひと)()てるためのものではない。


 大切(たいせつ)(もの)たちの未来(みらい)を、この()(つか)()るための(ちから)だ。


「エデン……お(まえ)のシステムごと、(おれ)(いか)りで()()くしてやる!」


 ハルトのブレイバー・コアが、設計(せっけい)(じょう)限界値(げんかいち)()えて逆流(ぎゃくりゅう)するエネルギーをさらに()(もど)すように、超高密度(ちょうこうみつど)熱量(ねつりょう)発生(ハッセイ)させた。


 プラズマの(つばさ)完全(かんぜん)な「真紅(しんく)」へと変色(へんしょく)する。


 戦闘(せんとう)OS(オーエス)安全装置(あんぜんそうち)がすべて()()れ、ハルトの全身(ぜんしん)から制御不能(せいぎょふのう)なほどのエネルギーが(あふ)()した。


「ブレイバー・バースト――ッ!!」


 ハルトを中心(ちゅうしん)に、真紅(しんく)のエネルギー()円状(えんじょう)炸裂(さくれつ)した。


 ハルトを(しば)()けた電磁(でんじ)ワイヤーが瞬時(しゅんじ)蒸発(じょうはつ)し、ガーディアンの巨体(きょたい)内部(ないぶ)からの過負荷(かふか)によって()端微塵(ぱみじん)爆発(ばくはつ)する。


 その衝撃波(しょうげきは)は、周囲(しゅうい)(うつく)しい草原(そうげん)のホログラムを(はげ)しく(ゆが)ませ、(いつわ)りの青空(あおぞら)(おお)きな亀裂(きれつ)()れた。


 天井(てんじょう)()こう(がわ)(かく)されたサーバーラックの(いく)つかが、過電流(かでんりゅう)によって()()き、次々(つぎつぎ)沈黙(ちんもく)していく。


 ドサリ、とハルトはその()(ひざ)()いた。


 右腕(みぎうで)装甲(そうこう)完全(かんぜん)(うしな)われ、内部(ないぶ)骨格(こっかく)露出(ろしゅつ)している。


 プラズマの(つばさ)()()り、(むね)のコアは弱々(よわよわ)しく点滅(てんめつ)していた。


「ハルト!」


 (てき)退(しりぞ)けたエレナたちが、(いそ)いでハルトの(もと)へと()()る。


大丈夫(だいじょうぶ)だ……。(すこ)し、出力(しゅつりょく)()げすぎただけだ」


 ハルトは(いた)みの()右腕(みぎうで)(うご)かそうとしたが、人工筋肉(じんこうきんにく)()()れており、(ゆび)一本(いっぽん)(うご)かなかった。


 それでも、その表情(ひょうじょう)には、(さき)ほどの無機質(むきしつ)無表情(むひょうじょう)ではなく、明白(めいはく)な「(くや)しさ」と「闘志(とうし)」が(もど)っていた。


 見上(みあ)げれば、亀裂(きれつ)(はい)った天井(てんじょう)のホログラムの()こうから、エデンの管理(かんり)システムの(こえ)が、(さき)ほどよりもノイズ()じりで(ひび)いてくる。


警告(けいこく)。システムに深刻(しんこく)なエラーが発生(はっせい)新生(しんせい)ブレイバーの個体識別(こたいしきべつ)保存対象(ほぞんたいしょう)から「排除対象(はいじょたいしょう)」へと変更(へんこう)。……エデン全域(ぜんいき)防衛(ぼうえい)レベルを最終段階(さいしゅうだんかい)へと移行(いこう)します』


 楽園(らくえん)黄金色(こがねいろ)(ひかり)が、()のような赤色(あかいろ)へと()()えられていく。


 草原(そうげん)(おく)、エデンのさらに深部(しんぶ)へと(つづ)巨大(きょだい)なシャフトの(とびら)(ひら)き、そこから(そこ)()れない(かず)機械(きかい)軍勢(ぐんぜい)()()(はじ)めていた。


 ガインが電磁(でんじ)ブレードを(つよ)(にぎ)(なお)し、ハルトの(まえ)()った。


「どうやら、本当(ほんとう)意味(いみ)でここをこじ()けるしかなさそうだな」


「へっ、(のぞ)むところだ。お伽話(とぎばなし)()わりにしては、上等(じょうとう)すぎる戦場(せんじょう)じゃねえか」


 リュウがスレイプニルの砲身(ほうしん)冷徹(れいてつ)(あか)()まった深部(しんぶ)へと()ける。


 ハルトはエレナの()()りて、ゆっくりと()()がった。


 (うご)かない右腕(みぎうで)()わりに、左手(ひだりて)流体金属(りゅうたいきんぞく)集中(しゅうちゅう)させ、(あら)たな(やいば)形成(けいせい)する。


 (いつわ)りの楽園(らくえん)崩壊(ほうかい)し、ここからは(しん)生存(せいぞん)をかけた泥沼(どろぬま)(たたか)いが(はじ)まる。


 だが、ハルトの(こころ)(まよ)いはなかった。


 エレナの(あたた)かい()が、自分(じぶん)人間(にんげん)であることを証明(しょうめい)している(かぎ)り、(かれ)はどこまでも(たたか)える。


()くぞ、みんな。……この(いつわ)りの(おり)を、完全(かんぜん)にぶち(こわ)す」


 真紅(しんく)()まるエデンの深部(しんぶ)見据(みす)え《みすえ》、ハルトは最後(さいご)決戦(けっせん)へと(あゆ)みを(すす)めた。




(だい)31()続く(つづく)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ