↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覚醒ブレイバー  作者: 阿門 甲斐吽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/40

【第26話】鉄の檻と新生の鼓動


 ニューラル・ハブが崩壊(ほうかい)した直後(ちょくご)の光景(こうけい)を、後(のち)の生存(せいぞん)者(しゃ)たちは「白(しろ)い地獄(じごく)」と呼(よ)んだ。


 中央演算塔《ちゅうおうえんざんとう》から放出(ほうしゅつ)された莫大(ばくだい)な余剰熱(よじょうねつ)と電磁波(でんじは)が、周囲(しゅうい)の大気(たいき)を一瞬(いっしゅん)で膨張(ぼうちょう)させ、真空(しんくう)に近(ちか)い衝撃波(しょうげきは)を生(う)み出(だ)したからだ。


 崩(くず)れ落(お)ちる銀(しろがね)の破片(はへん)は、逃(に)げ惑(まど)うアンドロイドや義体(ぎたい)化(か)された市民(しみん)たちを、容赦(ようしゃ)なく瓦礫(がれき)の下(した)へと埋(う)めていった。


 だが、その破壊(はかい)の中心地(ちゅうしんち)に誰(だれ)よりも早(はや)く到達(とうたつ)していた影(かげ)があった。


 漆黒(しっこく)の装甲(そうこう)に身(み)を包(つつ)み、全(ぜん)波長(はちょう)のスキャンを無効化(むこうか)する隠密回路(おんみつきろ)を駆動(くどう)させた個体(こたい)―― クロムである。


 彼(かれ)は、崩落(ほうらく)する外装(がいそう)を物理的(ぶつりてき)な質量(しつりょう)で弾(はじ)き飛(と)ばしながら、ハルトとエレナが倒(たお)れている最深部(さいしんぶ)へと突入(とつにゅう)していた。


「……皮肉(ひにく)なものだな。世界(せかい)を救(すく)った英雄(えいゆう)が、最初(さいしょ)に死(し)の淵(ふち)に立(た)たされるとは」


 ハルトとエレナの意識(いしき)は、過度(かど)なNeural(ニューラル)・Link(リンク)の影響(えいきょう)によって肉体(にくたい)から完全(かんぜん)に分離(ぶんり)し、電子(でんし)の海(うみ)を漂流(ひょうりゅう)していた。


 彼(かれ)らの肉体(にくたい)は物理的(ぶつりてき)に損壊(そんかい)し、特(とく)にハルトの損傷(そんしょう)は致命的(ちめいてき)だった。


 内臓器官(ないぞうきかん)は熱(ねつ)暴走(ぼうそう)したコアの熱(ねつ)に焼(や)かれ、四肢(しし)の骨(ほね)は圧力(あつりょく)に砕(くだ)けている。


 クロムは、迷(まよ)うことなく二人(ふたり)の身体(からだ)を抱(かか)え上(あ)げた。


 彼(かれ)の背部(はいぶ)から展開(てんかい)された高出力推進器《こうしゅつりょくすいしんき》が、重力(じゅうりょく)を無視(むし)して上昇(じょうしょう)する。


 崩壊(ほうかい)を始(はじ)めたニューラル・ハブから、彼(かれ)らは誰(だれ)にも知(し)られることなく救出(きゅうしゅつ)されたのだ。


 数ヶ月後(すうかげつご)。


 都市(とし)の外郭区(がいかくく)にある放棄(ほうき)された医療研究施設《いりょうけんきゅうしせつ》。


 リュウとガインは、ハルト達(たち)のID (アイディー) 信号(しんごう)を頼(たよ)りに、その施設(しせつ)の地下(ちか)30層(そう)にまで辿(たど)り着(つ)いていた。


 厚(あつ)い鉛(なまり)の扉(とびら)が重々(おもおも)しく開(ひら)くと、そこには現代(げんだい)の技術(ぎじゅつ)を遥(はる)かに凌駕(りょうが)する高度精密維持槽《こうどせいみついじそう》が並(なら)んでいた。


「おい……何(なん)なんだ!」


 リュウが息(いき)を呑(の)む。


 透過化(とうかか)された円筒状(えんとうじょう)のカプセルの中(なか)、薄(うす)緑色(みどりいろ)の培養液(ばいようえき)に浸(つ)けられ変(か)わり果(は)てたハルトとの姿(すがた)だった。


 胸部(きょうぶ)から腹部(ふくぶ)にかけて、皮膚(ひふ)の下(した)には鈍(にぶ)い銀色(ぎんいろ)を放(はな)つ人工骨格(じんこうこっかく)が透(す)けて見(み)える。


 損傷(そんしょう)が激(はげ)しかった右腕(みぎうで)と両脚(りょうあし)は、生体組織(せいたいそしき)と機械(きかい)部品(ぶひん)が高度(こうど)に融合(ゆうごう)した特殊合金(とくしゅごうきん)の義体(ぎたい)へと換装(かんそう)されていた。


「安心(あんしん)しろ。精神(せいしん)データの再(さい)インストールは成功(せいこう)している」


背後(はいご)からの声(こえ)に驚(おどろ)く二人(ふたり)。


 そこに立(た)っていたのは、漆黒(しっこく)の装甲(そうこう)を纏(まと)い、全(ぜん)波長(はちょう)のスキャンを無効化(むこうか)する隠密回路(おんみつきろ)を駆動(くどう)させた異形(いぎょう)の戦士(せんし)――クロムだった。


「……何(なに)! アルキメデスの残党(ざんとう)が何故(なぜ)ここに!?」


 ガインが鋭(するど)い声(こえ)を飛(と)ばし、機械(きかい)の右腕(みぎうで)に内蔵(ないぞう)された電磁(でんじ)ブレードを展開(てんかい)する。


 空間(くうかん)を裂(さ)くような高周波(こうしゅうは)音(おん)が響(ひび)き、殺気(さっき)がその場(ば)を支配(しはい)した。


 リュウもまた、電磁(でんじ)ライフルの照準(しょうじゅん)をクロムの眉間(みけん)へと固定(こてい)する。


 強敵(きょうてき)に対(たい)する、最大級(さいだいきゅう)の警戒(けいかい)態勢(たいせい)だ。


「止(と)まれ! それ以上(いじょう)一歩(いっぽ)でも動(うご)いてみろ、粉々(こなごな)に粉砕(ふんさい)してやる!」


 リュウの激昂(げきこう)を受(う)けても、クロムは微動(びどう)だにしなかった。


 ただ、その無機質(むきしつ)な目(め)から放(はな)たれる冷徹(れいてつ)な光(ひかり)が、淡々(たんたん)と二人(ふたり)の力量(りきりょう)を測(はか)っている。


「……排除(はいじょ)が目的(もくてき)ではない。無駄(むだ)な消費(しょうひ)は避(さ)けるべきだ」


 クロムの低(ひく)い声(こえ)が響(ひび)く。


「お前(まえ)、ハルトたちをどうした! 二人(ふたり)に何(なに)をしたんだ!」


 クロムが、状況(じょうきょう)の説明(せつめい)を始(はじ)める。


「ハブの崩落(ほうらく)から二人(ふたり)を救(すく)い出(だ)した時(とき)、その精神(せいしん)はすでに肉体(にくたい)から離脱(りだつ)し、ネットワークの断片(だんぺん)として霧散(むさん)しかけていた。私(わたし)は彼(かれ)らの身体(からだ)を即座(そくざ)に回収(かいしゅう)し、この施設(しせつ)の予備(よび)サーバーに魂(たましい)の残滓(ざんし)を繋(つな)ぎ止(と)めた」


「……なぜ助(たす)けた。お前(まえ)は俺(おれ)たちの敵(てき)ではなかったのか」


「敵(てき)か、味方(みかた)か。そのような低次元(ていじげん)な分類(ぶんるい)に意味(いみ)はない。私(わたし)の計算(けいさん)によれば、この男(おとこ)の存在(そんざい)はこの世界(せかい)の『次(つぎ)の段階(だんかい)』に必要(ひつよう)な変数(へんすう)だ」


「……ハルトの身体(からだ)、どうなっちまったんだ。これじゃあ、ほとんど……」


「アンドロイドだ。物理的(ぶつりてき)な欠損(けっそん)が酷(ひど)すぎた。特(とく)に心臓(しんぞう)と肺(はい)、そして中枢神経系《ちゅうすうしんけいけい》の七割(ななわり)を機械(きかい)に置(お)き換(か)えなければ、生命維持(せいめいいじ)は不可能(ふかのう)だった。……だが、彼自身(かれじしん)の細胞(さいぼう)は生(い)きているし人間(にんげん)としての機能(きのう)はすべて維持(いじ)させてある。言(い)わば、アルキメデスの技術(ぎじゅつ)を搭載(とうさい)した究極(きゅうきょく)のハイブリッドだ」


 クロムがコンソールを操作(そうさ)すると、カプセルの培養液(ばいようえき)が排出(はいしゅつ)されていく。


 エレナもまた、同様(どうよう)の処置(しょち)を受(う)けていたが、彼女(かのじょ)の場合(ばあい)は精神(せいしん)の安定(あんてい)に重点(じゅうてん)が置(お)かれていた。


 元々(もともと)電脳(でんのう)適性(てきせい)が高(たか)かった彼女(かのじょ)は、肉体(にくたい)への定着(ていちゃく)も早(はや)かった。


「……ん……っ」


 エレナが先(さき)に瞳(ひとみ)を開(あ)けた。


 彼女(かのじょ)は自分(じぶん)の手(て)を見(み)つめ、それから隣(となり)のカプセルで眠(ねむ)るハルトを見(み)て、安堵(あんど)の涙(なみだ)を流(なが)した。


(ハルト……私(わたし)たち、戻(もど)れたのね……)


 そして、ハルトの鼓動(こどう)が加速(かそく)する。


 人工心臓(じんこうしんぞう)が最適(さいてき)なリズムを刻(きざ)み、強化改造(きょうかかいぞう)された肉体(にくたい)に熱(あつ)い血(ち)と電気信号(でんきしんごう)が駆(か)け抜(ぬ)けた。


「……が……はっ!」


 ハルトが大(おお)きく目(め)を見開(みひら)き、上体(じょうたい)を起(お)こした。


 肺(はい)に吸(す)い込(こ)まれた空気(くうき)が、以前(いぜん)よりも鮮明(せんめい)な感触(かんしょく)となって脳(のう)を刺激(しげき)する。


 視界(しかい)の端(はし)には、意識(いしき)せずとも周囲(しゅうい)の構造(こうぞう)を解析(かいせき)する戦闘(せんとう) OS(オーエス)の文字(もじ)が投射(とうしゃ)されている。


「ハルト! 気(き)が付(つ)いたのね」


 エレナの瞳(ひとみ)から大粒(おおつぶ)の涙(なみだ)がこぼれ落(お)ちる。


 リュウが駆(か)け寄(よ)り、ハルトの肩(かた)を掴(つか)む。


 ハルトは呆然(ぼうぜん)と自分(じぶん)の身体(からだ)を見(み)つめた。


 皮膚(ひふ)を覆(おお)う人工組織(じんこうそしき)は、温(あたた)かく、それでいて鋼(はがね)のような強度(きょうど)を秘(ひ)めているのが分(わ)かる。


「……俺(おれ)は、生(い)きているのか? あのハブの中心(ちゅうしん)で……すべてを焼(や)き尽(つ)くしたはずなのに」


「クロムが助(たす)けてくれたんだ。お前(まえ)のその身体(からだ)も、そいつが改造(かいぞう)したんだってよ」


 ハルトは視線(しせん)をクロムに向(む)けた。


 漆黒(しっこく)の守護者(しゅごしゃ)は、静(しず)かに頷(うなず)いた。


「礼(れい)は不要(ふよう)だ。ハルト、君(きみ)の肉体(にくたい)はもはや通常(つうじょう)の人間(にんげん)ではない。ブレイバーとしての能力(のうりょく)を常(つね)に発動(はつどう)できる、最強(さいきょう)のハードウェアだ。管理(かんり)AI(エーアイ)を失(うしな)い、野生化(やせいか)した機械(きかい)たちが支配(しはい)するこの世界(せかい)で、その力(ちから)は必(かなら)ず必要(ひつよう)になる」


 ハルトは拳(こぶし)を握(にぎ)り締(し)めた。


 ギチ、と微(かす)かな駆動音(くどうおん)が響(ひび)く。


 人間(にんげん)であることを半分(はんぶん)捨(す)て、敵(てき)であるアルキメデスの技術(ぎじゅつ)で機械(きかい)の肉体(にくたい)を得(え)た代償(だいしょう)。


 それは皮肉(ひにく)にも、誰(だれ)よりも自由(じゆう)に、誰(だれ)よりも強力(きょうりょく)に、この残酷(ざんこく)な現実(げんじつ)を生(い)き抜(ぬ)くための翼(つばさ)だった。


「……わかった。この身体(からだ)が、新(あたら)しい俺(おれ)なんだな」


 ハルトはカプセルから立(た)ち上(あ)がり大地(だいち)を踏(ふ)み締(し)めた。


 床(ゆか)に伝(つた)わる振動(しんどう)が、精密(せいみつ)なセンサーを通(とお)して神経(しんけい)に直接(ちょくせつ)届(とど)く。


 以前(いぜん)よりも鋭(するど)くなった五感(ごかん)が、施設(しせつ)の外(そと)で蠢(うごめ)く無数(むすう)の機械生命体(きかいせいめいたい)の気配(けはい)を捉(とら)えていた。


「エレナ、行(い)けるか」


「ええ。ハルトとなら、どこへでも」


 エレナもまた、新(あたら)しい身体(しんたい)のバランスを確認(かくにん)しながら立(た)ち上(あ)がり、ハルトの隣(となり)に並(なら)んだ。


 救(すく)い出(だ)された命(いのち)、作(つく)り替(か)えられた肉体(にくたい)。


 彼(かれ)らの闘争(とうそう)は、ここから真(しん)の意味(いみ)で加速(かそく)していく。


「クロム、一(ひと)つ聞(き)かせてくれ。なぜ俺(おれ)たちを助(たす)けた」


 ハルトの問(と)いに、クロムは出口(でぐち)へと歩(ある)き出(だ)しながら、短(みじか)く答(こた)えた。


「未完成(みかんせい)の明日(あした)を見(み)てみたいと……私(わたし)の回路(かいろ)が判断(はんだん)しただけだ...... 。感傷(かんしょう)に浸(ひた)る時間(じかん)は短(みじか)くすることだ。管理者(かんりしゃ)を失(うしな)った守護者(しゅごしゃ)』たちが、すでにこのエリアへの絞(しぼ)り込(こ)みを開始(かいし)している。…… ハルト、その身体(からだ)に慣(な)れておけ。 この先(さき)、お前(まえ)が手(て)にした力(ちから)が必(かなら)ず必要(ひつよう)になる!」


 ハルトはクロムの背中(せなか)に向け(むけ)て、力強(ちからづよ)く頷(うなず)いた。


「クロムありがとう」


 鉄(てつ)の檻(おり)から解(と)き放(はな)たれた魂(たましい)。


 新(あたら)しい肉体(にくたい)と、変(か)わらぬ意志(いし)。


 管理者(かんりしゃ)なき荒野(こうや)を駆(か)ける、新生(しんせい)ブレイバーの物語(ものがたり)が、血(ち)と油(あぶら)の匂(にお)いとともに、ここから再起動(さいきどう)する。


 施設(しせつ)の外(そと)には、夜明(よあ)けの冷(つめ)たい風(かぜ)が吹(ふ)き荒(あ)れていた。

 



(第(だい)27話(わ)に続(つづ)く)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。