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悪夢

残酷な描写があります、お気をつけてくださいませ

 部屋の中の空気に耐えきれなくなり、レングアは外へ出る。体内の空気を入れ替える意味で大きく深呼吸をした。どうやら気分は平常に戻ったようだ。

「あの…」

 レングア達に声を描けてくる者があった。柔和で堅実そうな壮年の男性である。彼は訝った表情を浮かべながら、レングア達に近づいてきた。

「この部屋になにかご用なのですか?」

「貴方は?」

 レングアは男性の質問に答えず、逆に質問を返す。

「私はこの部屋の住人の友人で、グレイス・ダグラスと言います。」

「このビルの住人?」

 またもやのレングアの問いにダグラスは苛つき怒号する。彼は質問しているというのに、目の前の男は全く答えようとしないからだ。

「そんな事はどうでもいい!! 私はこの部屋に何か用なのかと聞いているんだ!!」

 レングアとダグラスの様子に、レングアを呼びに出てきたシャルがため息を小さくつきつつ、口を挟んできた。

「この部屋のアィーシャ・モノルさんは、亡くなられました。」

「え。」

 シャルのダイレクトな言葉に、ダグラスの表情には色が無くなっていた。


◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇


 悪夢は限りなく、どんなに逃げようとも追いかけてきた。

 足はもつれ気味、呼吸はままならず、まるで水の中を走っているようだ。

 背後から伸びてくる腕。

 後ろからなのに、その腕が全く血の気のない真っ白な色だと確認出来る。捕まりたくない。捕まればどんな目に遭うかわからない。

 怖い。

 その心に反応してか、伸びてくる腕の速度が早まる。

 助けて!

 目の前には微かな光。

 誰かが、この場所から解放してくれようとしているのか。懸命にもつれる足を動かし、光の方へと進む。後一歩というところで、後ろの腕が頭に巻き付き力任せに地面に叩きつけた。

 彼の両手は無意識に助けを求めて、光に向かって手を伸ばすが、その手さえも行く手を阻まれ何者かに掴まれた。

 正体を見ると、そこには妖美を漂わせていた女性が、ゾッとするような冷笑を浮かべていた。


「っ!!」

 悲鳴にならない声をあげ、ミカ・ブリルスタインは慌てて身を起こす。

 全身冷や汗にまみれ、全力疾走後のように心臓は高鳴り、呼吸は荒くなっている。

 室内は森閑とし、眠りにつく前と何ら変わることはなかった。その様子に安堵するものの深くため息をつく。

「どうして、あの夢を……」

 夢の中の女性は、10年前に見た女性であった。


 10年前、ブリルスタインは軍に従軍していた。従軍牧師ではなく、正式な軍人としてである。

 彼の赴任先は、とかく自爆テロが横行していた。いちグループの若者たちが世界中にいきりたち、世界を自分達の思い通りの世界を強く推し進めるために、自らの身体を、命を投げ出していた。

 そんな荒廃した町に、何事にも囚われず静かに暮らす女性がいた。いつも経営している店先に花を飾り、人々に安らぎを提供していた。かくうブリルスタインも安らぎを貰っているひとりであった。

 ある日、あろうことかその店先で自爆テロが発生した。店は勿論大破し、店内で開店準備をしていた女性は爆風に巻き込まれ、全身に裂傷を受け無惨な死を晒した。

 ただ、何故か顔だけが無傷で見開いた瞳は彼を見つめていた。何かを訴えるではなく、酷い目にあったというのに実に静かで綺麗な瞳をしていた。

 



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