呪術
半分溶けかかった遺体は、飛び降りたビルに住む占星術師のアイーシャ・モノルということが判った。
ビルの彼女の部屋は、常識を遥かにかけ離れた場所となっている。室内は、占いの小道具で埋め尽くされ、単純で暗い色のカーテンが世界との接触を断つかの様に窓を覆っている。
部屋中のあらゆるところに置かれた蝋燭は、つい先程まで主人がいたかのように明々と点き、私服警官が入ってきたことにより、外気で炎を揺らさせていた。
室内の真ん中に置いてある焦げ茶の丸い食卓には、数枚の人物の写った写真と全く見たことのない文字で書かれた上質な紙が乗っていた。
「この写真…」若手の刑事――ファリーナ・シャルは写真に目を向ける。「上院議員のソファラフルだ。」
「どれどれ。」年嵩の刑事――ジェイムズ・パリッシュも写真に注目する。「本当だな。他の写真の人物はわからんが」
「恋占いでもやってたんですかね」
とシャルがぼそりと間の抜けたことを言う。こんな暗黒感漂う部屋で恋占いとは結び付かない。
「これは"呪い"だな。」
今まで難しい表情の刑事――ディオス・レングアがゆっくりと言う。
「21世紀になるのに、"呪い"てすか?」
シャルの疑うような口調に、レングアは確信を持ったように断言する。
「"呪い"には時間や歴史など関係がない。」
この部屋に入ったときから、レングアは彼女の死に嫌なものを感じ取っていたのだ。この場所は幼い頃健在だった祖母と同じ波動が渦巻いている。
祖母は亡くなる半年前まで、昔ながらの"呪術師"であった。家の奥深い場所で、籠って依頼された術を行っていた。
「ここまで不気味なものは、久しぶりだな。」
パリッシュは戸惑い、顎を掻く。
(この事件には闇が存在するな。果てしなく大きな闇が)
それを理由付けされるのが数枚の写真と呪詛が書かれた紙片。紙片には目には見えない激しい波動をばらまいている。
「っ?!」
写真の一枚に、見覚えのある人物がいた。長身で余分な筋肉をつけていない運動選手のような体格。鋭く射るような眼差しで、普通の一般人でないとわかる。
―――何故、マクティアナンが?―――
そう思った瞬間、目の前が暗くなりある場面が脳裏に浮かんだ。
ひとりの人物がアィーシャに写真を見せ、呪術を依頼していた。依頼人は何故か暗いもやにかかって判別出来なかった。
「おい! 大丈夫か?」
突如立ち眩みにあったかの様に床に膝まづくレングアに驚いて、パリッシュが駆け寄る。激しい吐き気のせいで喋ることが出来ないレングアは、大丈夫と手を振って示した。




