第四十六話 闘技大会トーナメント その5
翌日
気配を感じて目が覚めた。
「ん?まだこんな時間か…」
いつもよりも早く目覚めてしまった。
モナもまだ起きる気配はない。
「あれ…シャーリーは?」
珍しくシャーリーがいない。
その代わり外から棒状の物が空気を切る音が耳を澄ますと聞こえた。
「まさかな…」
案の定音の正体は、シャーリーの素振りをする音だった。
「おはよう、珍しいなこんな早くにお前が起きてるなんて」
「おはよう、なんか目が覚めちゃったから」
「緊張してるのか?」
「それはするよ、だって今日の相手は多分ここで一番の強敵でしょ?緊張しないほうが無理あるよ」
そうだよな。
有効な手立てのない相手で、今までの圧倒ぶりを見て来たんだしな。
「なら少しその緊張解くか?」
「どうやるの?」
俺は剣を取った。
「久しぶりに簡単な手合わせでもすれば解けるだろ」
「いいね!じゃあ魔法禁止ね」
毎度おなじみね。
いつかわ魔法ありきでもやってみたいところだが…
「別に構わないぞ」
「じゃあ、行くよ!」
シャーリーと簡単な手合わせをした。
もちろん負けたけどな…
気づくと地上から日が差し込み始めて、あたりが明るくなってきていた。
二人で宿に戻るとモナが朝食の準備をしてくれていた。
「二人ともどこ行ってたの?」
「外で軽い運動をしてた」
「今日最後の闘技でしょ?大丈夫?」
「軽くだ軽く、な?シャーリー」
「うん!別に問題ないよ」
「そう…ならいいけど」
モナの作った朝食を食べ、俺たちは闘技場へ向かった。
シャーリーは控室へ、俺たちは客席へと向かった。
客席へ向かうとすでに何人かは席に座っていた。
俺たちは中間あたりの開いている席へ腰を下ろした。
「ここならよく見えるわよ」
「昨日の経験からここを?」
「そうね、昨日は後ろの方にしたんだけど見えにくかったのよね」
「それならここじゃなくて前の方にすればいいんじゃ?」
「近すぎず、遠すぎずで全体が見える位置がここなの」
「なるほどね」
まあ俺としては観れればどこでもいいんだが。
少し時間がたつと観に来る人が多くなってきた。
その中にはチタもいた…というか俺たちの隣に来た。
自分を負かした相手の戦いぶりをしっかり見たいらしい。
ということで三人でシャーリーを応援するとしよう。
―――
・シャーリー視点・
闘技場に着いてすぐ、二人とは別行動になった。
二人は客席へ向かったのだ。
私は控室へ向かい、闘技のための準備をする。
と言っても、昨日と同じく整備するぐらいなんだけど…
しばらくしてヴァレリアもやってきた。
「今日の相手はお前か?見たところ昨日のアルケウスの方が強そうだが」
「どうかな?私もアル君の仲間として君に勝ちに行くから」
「仲間なのか、そうかそうか。なら、失望させてくれるなよ?」
「私のこと舐めてると痛い目見るよ?」
「ほう?なら期待しておくとしよう」
やっぱり強者の自信ってやつなのかな?
でも、油断はしていない。
今この状況からでも隙が無いように見えた。
「皆様大変お待たせしました!今大会は32名の強者達から始まり、そしてその中で最後まで残った2名による最後の闘技が行われます!皆様もご存じでしょう、本日ぶつかる2名について!ヴァレリア選手はこれまでその圧倒的な身体能力で相手を圧倒し続けてきました!一方シャーリー選手は幾つもの激しい戦闘の中で勝利を掴み続けてきました。対極的な二人が本日の決勝でぶつかります!」
いつも通りの喋り。
それが聞けるのもこれが最後になるのかな。
「お二方様、出場の準備はよろしいですか?」
「うん!」
「おう!」
ヴァレリアの最初の位置は昨日と同じ中央だった。
だから私も同じようにした。
「仲間だからか?アルケウスと同じことをするんだな?」
「私だって最初からほとんどここだよ?」
「ん?そうなのか?知らなかった…」
この感じ、多分他の人の闘技とか見てないのかな…
なら私がどう戦うかも知らないかもね。
「決勝戦始めてください!」
開始と同時に拳が飛んできた。
けどチタの攻撃と比べたら…
「遅いよ」
攻撃を躱して切った腕が地面に落ちた。
「やるなお前」
けど、すぐにくっついた。
しかもダメージを負っているようにも見えない。
アル君はこんな化け物を相手したんだね…
ヴァレリアの攻撃自体は避けれるし捌ける、そして私の剣で斬れないわけじゃない。
「こうしたらどうなるの?」
「むっ!?」
腕を細切れにしてみた。
そうすれば再生するのに時間がかかると思った。
けれど実際は違った。
細切れにされた箇所は消滅して、切られた個所から再生した。
「お前やるな!楽しくなってきたぞ!」
「それはどうも!」
その後幾度もヴァレリアの体を刻んだ。
けれどことごとく再生されていった。
そして気づいた。
両断すればくっつき直し、細切れにすれば切断面から再生する。
つまり一ヵ所からしか再生していない。
ならば一度に同時に再生する箇所を作ったらどうなる?
「どうした?そんな攻撃だけじゃ俺には勝てないぞ?」
「そうだね。少しやり方を変えてみるよ!」
チタの動きを真似た。
地形を利用して高速で動く。
チタほど早くは無理でもこれならできる。
脚、腕、胴、首…
あらゆる箇所を両断して、さらに細切れにした。
これであれば再生する箇所が多いから時間がかかるはず。
再生の間にまたほかの箇所を切り続けて負けを認めさせる作戦だ。
「やるなお前!これなら私も…」
「喋ってないで早く負けを認めて?」
うるさいから顔も斬った。
すると再生が止まった。
むしろ消滅していく。
勝ったの?
でもこれ殺しちゃったことになるのかな?
なんて考えてた。
「本気を出してもいいかもなぁ?」
背後から声が聞こえた…
いったいどこから現れた?
さっきのは偽物だったとか?
背後からの攻撃を間一髪で回避した次の瞬間だった。
空を切った拳が地面に当たった衝撃で私は吹っ飛ばされ、岩に打ち付けられた。
背中に痛みが走った。
「さっきの攻撃は良かったぞ。正直負けを認めてやってもよかったんだがな」
「じゃあ認めてくれるの?」
「まだ本気で戦えてなかったからそれはやめた」
「じゃあどうやったら認めるの?あんなに切っても認めないなんて」
「すまないな、私は体の一部があればどこからでも再生できてしまうからな。だが、次同じ事が出来たら認めてやる」
「本当に?」
「本当だ。それに私に本気を出させたのは、直近でリオン以来だからな」
リオンって確か…高い所の客席から観てる人だっけ?
あの人そんなに強いんだ。
っと、それよりも今はヴァレリアに集中しないと。
だけどこれから本気で攻撃してくるみたいだし…
「簡単に死ぬなよ?」
そう言いヴァレリアが動いた。
スピードはさっきまでと変わっていない。
この攻撃も受けれ…
「っ!」
とっさの判断で、この攻撃はまともに受けてはいけないと思った。
受け流すことはできたけど、力が強すぎて完璧じゃない。
腕に痛みが走ったほどだった。
まともに受ければおそらく腕が使えなくなる予感がした。
その後は避けてカウンターを入れることしかできなかった。
ヴァレリアの力はすごいなんてものじゃない。
攻撃を避けると、余波で後ろにある岩の形が変わる程だ。
あんなもの受ければその瞬間に負ける。
―――カチン!
私の剣が掴まれてしまった。
ビクともしない…
「捕まえたぞ」
「離してよ!」
「そうはいかない」
腹部に強い衝撃。
「がはっ!」
吐血した、このままではいけない!
咄嗟に剣を手放して距離を置いたものの、今のダメージが大きい…
「いい判断だ」
―――バキッ!
咄嗟に防御した左腕の骨が折れる音、そして痛みと共に吹き飛ばされ倒れた。
その衝撃で頭が回らない、音が聞こえにくい。
ああ、負けるのかな…
「止まれ!ヴァレリア。闘技の決着はすでについている」
意識が…
―――
・アルケウス視点・
シャーリーは負けた。
リオンが声を上げることでヴァレリアは動きを止めた。
シャーリーは頑張ったと思う。
数えきれないほどヴァレリアに攻撃を浴びせ、その体を刻み続けた。
相手が相手なだけに勝利には至らなかったが…
まさか破片からでも再生できるとは思わなかった。
あそこまで細切れにされても尚生きている不死魔族の生命力。
本気になったヴァレリアのパワーはけた違いだったしな。
シャーリーは今治療中のはずだ。
後でしっかり労ってやらないとな。
ドンッ!
突然リオンが客席から飛び降りてきた。
「諸君!此度の闘技大会は楽しめただろうか」
歓声が上がる中、俺も楽しめたと思う。
いろんな奴の戦い方や強者に出会えたしな。
「優勝はヴァレリアと言いたいところだが」
ん?何かまだるのか?
「こいつは我が呼んだゲストだ。よって優勝はシャーリーとする」
え?どういうことだ?
会場も俺と同じ雰囲気が漂った。
「そして今大会で素晴らしい戦いぶりを披露した三名に特別な副賞を授与することにした。アルケウス、モナ、チタの三名だ、この場に参れ」
「行った方がいいの?」
「呼ばれたなら行くべきだろ」
まさかの俺たちだった。
いったい何をくれるというのだ?
とりあえず下に降りることにした。
「諸君らもこの三人の戦いぶりを評することに異論はあるか?あれば遠慮なく申してくれ!」
―――パチパチパチ
拍手が鳴り始め、やがてそれは大喝采になった。
「異論がある者はいないようだ。お前たち三人の戦いぶりはこの目でしかと見届けた。褒賞についてはシャーリーの容体が安定したらでよい、我の住まう所で渡すことにする。お前たちは仲間なんだろう?早く見に行ってやるがよい」
「そうさせてもらいます。行こうモナ」
「そうね」
許可ももらったしシャーリーの容態を早く見に行こう。
フィールドを後にする俺たちの背後でリオンは大会の閉幕を伝えた。




