ウィザード失格
あれから数週間が経過した。ヒロと鈴菜は今、テクノマギア社の社屋の前で人を待っている。
「紅愛の奴、大丈夫かな。相続放棄の成功率がどんなものか……俺は知らないが」
「大丈夫ッスよ。紅愛さんを見て、これ以上重荷を背負わせようと考える裁判官はいねぇッス」
「そうだと良いけどな……」
そんな話をしつつも、二人は不安を抱えていた。何やら紅愛は、実母が亡くなったあの日から手続きを進めていたようだ。それからしばらくして、彼女は彼らの前に現れる。
「どうだったんだ? 結果の方は」
そう訊ねたヒロは、妙に真剣な表情をしていた。紅愛は頬を綻ばせ、サムズアップをする。
「無事、相続放棄が出来た」
それは紛れもなく吉報だった。彼女につられ、ヒロと鈴菜も笑みを零す。
「君が救われて、本当に良かった」
「マリス団の奴らも全滅させたし、これで大団円ッスね!」
これで一件落着だ。残る問題は、あと一つといったところである。紅愛は元より、たった一人で妹の世話を焼いている身だ。
「ウィザードの仕事も、もうじき終わりかもな。後は、ヴィランの残党を倒すだけか。そろそろ、オレは次の仕事を探し始めることにするよ」
もうヴィランが現れないのは喜ばしいことだが、それはウィザードの仕事が失われることも意味している。それを理解した鈴菜は、どこか寂しそうな顔をしていた。
「またどこかで会えると良いッスね……紅愛さん」
「まあ、もう一生会えねぇってこともねぇだろ。オレたちは戦友だ――この先、何があってもな」
「おっす!」
これでもう、自分たちに戦う理由などない――三人はそう確信していた。
ヒロたちの前に一人の男が現れたのは、まさにそんな時だった。
「もうマリス団は潰れた。キミたちに、魔法石は必要ない」
――天真だ。ヴィランが現れなくなってもなお、彼は三人から魔法石を奪うことに固執しているらしい。そんな彼に対し、ヒロは真正面から反発する。
「まだヴィランの残党が残っているかも知れないだろう。社長が会社を残しているのが、何よりの証拠だ」
「その辺の残党くらい、ボク一人が捻り潰してやるさ。さあ、魔法石を渡しなよ」
「断る。鈴菜と紅愛も、俺と同じ気持ちのはずだ」
そう推測した彼は、鈴菜たちの方に目を遣った。彼に続き、彼女たちも不満を口にする。
「そうッスよ! ヴィランの最初の出処すらわかってねぇのに、マリス団を倒しただけじゃ安心できねぇッス!」
「鈴菜の言う通りだ。マリス団の連中がどこから生まれたのか……それすらも定かじゃねぇんだ。オレらの知らねぇ誰かが、またヴィランを生み出すかも知れねぇだろ」
マリス団を倒してもなお、その謎は未だに解明されていない。それゆえにヒロたちは、魔法石を持ち続けなければならないのだ。
彼らが魔法石を差し出さない以上、天真に残された手段はただ一つだ。
「だったら、実力行使に出るしかないね」
そんな結論を下した彼は、錠剤の入ったシートを取り出した。それから彼は数錠の錠剤を飲み、臨戦態勢の構えを取る。もはや話し合いは通用しないだろう。ヒロ、鈴菜、紅愛の三人も、咄嗟に身構えた。そんな彼らを睨みつけ、天真は己の口元を拭う。
「……変身」
眩い光を放った天真は、ウィザードの衣装に身を包んだ。彼に続くように、三人のウィザードたちもすぐに変身する。それから天真を睨みつけ、ヒロたちは口々に発言する。
「あれから、俺たちは強くなった。俺たちはもう、君にだって負けない」
「アンタはウィザード失格ッス。だから社長にクビにされたんスよ!」
「オレたちの力は……ウィザードの力は、私利私欲を満たすためのものじゃねぇんだよ!」
何やら彼らは、マリス団との戦いで自信を培ったようだ。
「だったら見せてもらおうか。本当のウィザードというものを」
そう返した天真は、妖艶な笑みを浮かべていた。