乱入
天真は三本の糸を放った。その矛先はそれぞれ、ヒロ、紅愛、そして鈴菜の方へと向けられている。
「俺たちにはもう、そんな攻撃は通用しない!」
強気な宣言をしたヒロは、己の手元に炎の剣を生み出した。彼の一振りにより、眼前から迫る糸は瞬時に断ち切られる。一方で、鈴菜と紅愛はビームを放ち、目の前の糸を焼き払う。今の三人が束になれば、天真に勝つことも夢ではないのだろう。
「こちらからも仕掛けるッス!」
そう叫んだ鈴菜は、星型の光を連射した。天真はすぐに繭を生み出し、迫りくる攻撃から己の身を守る。そこで今度は、紅愛が動く。
「そんな繭、焼き払ってやるよ」
彼女は光線銃に魔力を注ぎ、凄まじい火力の光線を放った。繭は焼け落ち、天真の姿が露わになる。無論、この隙を逃すヒロではない。
「今だ!」
咄嗟に間合いを詰めた彼は、炎の剣を振り下ろした。彼の斬撃の軌道を可視化する炎は、天真を押しながら火力を増していく。
「なるほど。少しはやるようだね。それなら……」
ヴィランとの戦いで成長してきたのは、ヒロたちだけではない。天真は無数の糸を縫い合わせ、巨大な人形を作り出した。直後、人形はその大きな右手で紅愛を掴んだ。
「くっ……離せ! 離せ!」
彼女はそう叫んだが、その身は化学反応によって熱を帯びていく。その光景を前に、鈴菜は慌てて星型の光を乱射した。しかし人形の巨体には、彼女の攻撃がまるで通用していない。人形は左の掌から何重もの糸を放ち、彼女を捕らえた。
「まずいッス……」
今の鈴菜には、抵抗の術など無い。彼女は糸に手繰り寄せられ、人形の左手にその身を握られた。これで今動けるのは、ヒロと天真だけである。
「図に乗るな! 天真!」
その場に、ヒロの叫び声が響き渡った。彼は即座に剣を振り、円弧型の炎を二発ほど飛ばす。一方は人形の右腕、もう一方は左腕を切り落とした。これで一先ず、鈴菜たちを解放することが出来る――ヒロはそう確信していた。
その時だった。
人形の両肩から、何重もの糸を束ねたような繊維が伸びてきた。繊維はそれぞれの腕と結合し、人形を五体満足の状態にまで修復した。これは、ほんの一瞬の出来事である。唖然とするヒロを指差し、天真は笑う。
「さあ、取引だ。彼女たちを解放して欲しければ、ボクに魔法石を渡すが良い」
「何故、君はそうまでして……俺たちから自分がウィザードであることを奪おうとするんだ?」
「何度も言わせないで欲しいね。ウィザードはたった一人――ボクだけで良い」
二人がそんな会話をしている傍らで、大きな手に捕まった鈴菜と紅愛は科学火傷に苦しんでいる。鈴菜たちの体の節々に走るノイズは、彼女たちの変身が解ける寸前であることを物語っている。
「君だけは……絶対に許さない!」
ついに、ヒロの怒りは頂点に達した。彼は剣の刀身に灼熱の炎をまとわせ、天真の方へと駆け寄っていく。
「何度やっても同じことだよ、ヒロ!」
天真がそう叫んだ瞬間、その隣に立つ人形の腹部からは何重にも束ねられた糸が放たれる。剣を構えたヒロと、人形から放たれた糸は、凄まじい勢いでその間合いを狭めていく。しかし彼らには、その一瞬の出来事がスローモーションのように感じ取れた。
――両者の間に一人の少年が割って入ったのは、その直後だった。
少年の右手は剣、左手は糸の束を受け止めていた。その場にいる全員が、その少年を知っている。
「逢魔……?」
予期せぬ出来事を前に、天真は目を疑うばかりだった。彼は不服そうな顔でフィンガースナップをした。直後、糸で出来た人形はその場から消え、鈴菜と紅愛が解放される。彼女たちもまた、この事態を前に動揺を隠せなかった。そんなウィザードたちを嘲るように、逢魔は呟く。
「久しぶりだね、ウィザード諸君」




