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最強の成長するユニークスキル異界の心臓で、異世界無双 ~エルフ美少女に愛され養われ、精霊美少女にも愛されてハーレム状態~  作者: 手ノ皮ぺろり
第一章『精霊の森』六幕『成長の始まり』

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パジャマくんくん生パンツ

 森の中に、降り注ぐ朝日を受けて輝く巨大な建造物が見える。その上部は、森の木々よりも高く伸びていて、一見すると城の様にも思えたが、外観から邸宅である事が窺える。巨大な木を柱がわりにでも使っているのか、建物の屋根からは枝葉が伸び、朝露をつけて輝く。その最上階にあたる場所に設けられたバルコニーに、一人の男性が佇んでいた。


 その視界には、広大な森とその先に広がる農地と村々、それを囲み南北をどこまでも長大に貫く壁、そしてその要所にある巨大な砦らしき建造物が、内側に大きな影を落としていた。農地には、巨大な風車がついた建物が点在する。

 その壁の先には、広大な草原が広がっていて、霞むほど遠くに、また別の壁が築かれているのが見えた。

 それらの景色を一望できる場所に立ち、男は独りごちる。


「今日も、あちらの砦には動きはない様だな……。この平穏が続けばいいのだが」


 呟いた男性の耳は長く、一目でエルフである事が窺える。その茶色の髪は短く切り揃えられていて、身分の高さを匂わせる、上等な生地の衣服を身にまとっていたが、その上には鈍い輝きを放つ金属製の胸甲が剥き出しで、あべこべで奇妙な衣装にも思えた。その装束は持ち主の常在戦場の意識を表しているのかもしれない。

 

 男の髪と衣服が吹き付ける風を受けて、はためく。先ほどの呟きから察するに、自らの置かれた平和な時間を噛みしめているのだろう。

 しばらく目の前の光景を眺めていたが、背後の室内よりドアをノックする音が響き、同時に声が聞こえた。


「おはようございます、旦那様。都より書簡が届いております」


 男は振り向き、ゆっくりと部屋へ戻り、扉を閉め「入れ」と返事をした。一拍おいて「失礼いたします」と挨拶しながら、エルフの女性が入室し、ドアを閉め、お辞儀をした。男は部屋の中央の、意匠のこらされた四角いテーブルの前に置かれたソファに腰かける。


「何だ? こんなに早朝に送られてくるとは、火急の用件か? 都からと言ったな? 誰からだ?」


 美しい金色の髪を結い上げてまとめた女性は、手に持っていた紙を両手で広げながら、何事かを呟いた。すると、紙の一部が赤く光り、焼き付く様に文字が浮かび上がって行く。


「都の警備隊の長からです。事実の確認に時間を要したが、確実となったために、早急に連絡を取りたいとの事です」


 そして、その書簡は男の手に渡される。男は、目を左右に走らせながら、しばらくは黙ったまま読み続けていたが、その表情が驚愕の様相を取り、紙を持つ手指が震え始める。


「ば、馬鹿な……! そんな事が!?」


 女性は、心配そうに尋ねた。


「その驚き様……。大変な事態なのでしょうか?」


 男は、紙に指を食いこませ、力を入れて歪めた。やがて、震えを表す声が、短く区切られながら語り出す。


「大精霊域の付近で、帝国兵らしき者が目撃されたそうだ……。その、侵入経路に、我が領を通ったのは間違いないと……!」


 男は片手で両目を覆い、慄く。


「守備隊よりそんな報告を受けた覚えはない。だが、事実、侵入されていたのだ! 帝国から、精霊の森に入るには、我が領を通るしかない……! 父上が亡くなられて五十八年……! よもやこの様な事態が起きようとは! 取り返しのつかない失態だ。どう償えばいい!?」


 取り乱した男は、縋る様な視線で待機していた女性を見つめたが、すぐに迷いを払う様に、頭を振った。


「霊信の間へ向かえば、誰に取り次がれ、何を言われるかは想像がつく……。この書簡によれば帝国兵は何者かと交戦し、負傷して撤退したらしい。恐らくは、それを絶対に逃がすなと命が下るだろう……」


 しばらく黙って聞いていた女性は、少し迷っていた様だが、おずおずと話し始める。


「それではしばらくの間、守備隊の人数を増やしてはいかがでしょうか? 警戒網を強めれば、自ずと虫はかかるはずです」


 男は諦めた様に、力なく首を振る。


「ダメだ。父上が亡くなられてからこれまで、軍備よりも、壁の拡張、農地の開拓と穀物の生産量の増加、安定を優先してきたのだ。……そのために、元は兵士だった者も、多くを農業へ従事させている。あの者たちにいまさら戦えと言うのも酷な話だろう。それに、領内の警戒に当たらせるにも、与えられる装備も十分にはない」


 男は再び片手で両目を覆う。


「私には、この地を守ると言う、重責がある。だが、六十年前の戦では、後方からの支援が遅れ、前線の兵の中には餓死するものまで出た。父上が亡くなられた一因はあの戦での負傷でもある。受けた損害と、あの時いだいた想いを忘れた日は一度もない。……軍備には金がかかる。加えて我が領には、あの壁を拡張し、保守に務める責任もある。資源が圧倒的に足りていないのだ!」


 だんだんと言い訳じみて来るが、少し離れた位置に立つ女性は黙って聞き続けた。


「その責を我らだけに負わせ、壁の内にいる者たちは、安穏として、私腹を肥やす者までいる……! この不公平を覆し、領民を守るにも、まずは農地の拡大が最優先だったのだ!」


 男は落ち着いて来た様子で「すまん、取り乱した。もう下がっていいぞ。ここで聞いた事は、他言無用だ」と待機していた女性に言った。女性はお辞儀をし、挨拶をしドアの外へと去って行く。


「まさか、こんな事になるとは……。何としても捕らえねばならんのだろうな。しかし――」


 そこで言葉は切られ、室内には苛立たしく足を踏み鳴らす音が響くのみとなった。




※ ※ ※ 




 広々としているわりに、家具や装飾の少ない部屋は寒々しい印象を与えた。その中央には、円卓が置かれていて、幾つも並ぶ椅子は空席ばかりだったが、一人だけが座って手紙を広げていた。

 その白髪の老人の耳はエルフの象徴である長さを備え、衣服は頭髪と同じく白く緩やかで、部分的に金の模様が入っていた。

 老人は何度も頷きながら手紙に見入り、呟く。


「ほう、大精霊域ふきんで帝国兵が……。ふむ、これは、エーデルガルド殿は災難でしたな。皆さんもそう思いませんかな?」


 老人は手紙に目を落としたままそう呟いたが、円卓の他の椅子には誰も座っている様子はなかった。奇妙な独り言は続く。


「エルフは生来より、目、耳、鼻が良く、索敵に優れた者が多い。専門的な訓練を受けていればなおさらです。それらの警戒をかいくぐり、一度も発見される事なく通り抜けるとは……。相手は相当な手練れでしょうな。そう、思いませんかな?」


 今度は老人は顔を上げて周囲を見回したが、やはり誰の姿もなかった。一呼吸おいて、言葉は続く。


「しかし、今、その逃げ出した相手が、我が領に含まれる大瘴域を通過中であるとは、想像でしかない。……そのために、あの危険な場所へ兵を差し向けろとは。道理の通らぬ話ですな。我が領で毎年、大瘴域によってどれほどの被害が起きているのか、ご存じないと見える。……ふむ。エーデルガルド殿には酷な話でしょうが、彼に一任するとしましょう。皆さんもそう思われるでしょう?」


 三度、何もない空間に言葉は投げ掛けられ、静まり返った円卓は、不気味に、目に見えない反響を起こしている様に思えた。




※ ※ ※ 




 突然の固有精霊の発現に驚きを隠せなかったが、名前を付けて愛着も湧いて来た事もあり、おもむろにベッドから起き上がり、床へと足を伸ばしたが、ふと疑問がよぎる。精霊たちは俺の動きに追従し、頭の後ろを追いかけて来る。


「でもさ。こいつらのこの外見、何の精霊なんだ?」


 右にいたアイシャに尋ねたが、首を傾げて思案している様子だ。


「そっちの子は土だと思うけど、一般的な土の精霊の姿とは違うかも。もう片方の子は……泥? かなぁ。でも、泥の精霊なんて聞いたことないや」


 アイシャは不思議そうに首を傾げるばかりで、的を射た答えは期待できそうになかった。

 二人が着替え終わるのを待つため、寝室の外へ出ている間も、精霊たちは辺りを漂いながらついて来る。本当に良く懐いたペットみたいだな。


 部屋の中からは二人の声が聞こえる。


「まったくはよう着替えぬか、儂はとうに終わったぞ」


「ジジちゃんは、パッと衣装かえちゃうんだから当然でしょ? またそんな綺麗な服きてずるいよっ!」


「くふふっ。これは儂とカイトとの愛の結晶じゃ、そなたには不釣り合いな衣よ」


 いや、誰もそんな事いってないからな。


「な! 何いって! カイトはそんな事おもってないもん!」


 うんうん。


「ふん! それは、そなたの思い込みに過ぎぬわ! ……それよりも、男を誘う淫らな身体よの。カイトもその身体でたらしこんだのか?」


 どこか淫靡に聞こえるジジのその発言に、想像が迸り、興奮を抑えきれない。

 うおおお!? アイシャの裸を直接みてるのか!? くっ! どこか、どこかに隙間はないか!? 壁の板をつぶさに観察し、穴を探すが、あるはずはなかった。

 あの力を使えば、この程度の壁、簡単に飛び越えられるだろうが、俺の社会的な一線も飛び越えてしまうよな。そうなれば、ジジと同じ穴の狢だ。


「ジジちゃんっ! そ、それ以上いったら。本気で怒るよっ!」


「くふふっ。また儂と力比べでもするのかの? むやみに発育がよいだけの赤子には勝ち目はないぞ……!」


 ちっがぁうっ! 赤ちゃんは俺っ! 『豊かな実り』を、独占するのは俺の役目だぁぁぁ! ばぶばぶぅ!


「ジジちゃん……!」


 そして、寝室からは激しく床板を踏み鳴らす音や、壁に何かがぶつかる音が響き、部屋が揺れた。向こう側で起きている事が容易に想像できる。とりあえず聞こえない様に話して欲しいな。悶々としながら終わるのを待ち続けた。


「はぁ。また喧嘩してるのか。懲りないなぁ。……早く着替えたいんだけど」


 しばらくして静かになり、ドアが開かれ、疲れた様子のアイシャが顔を出した。髪は乱れて呼吸も荒いが、衣服だけは綺麗に整えた様だ。着衣が乱れて色んな所がちらちら見えてる姿を、少しだけ期待してしまった自分に罪悪感を覚える。そうだ、『豊かな実り』を直接おがんだ事はないのだ。いつも包まれていて、あの服になりたいと何度おもったことか。


「はぁ、はぁ。ゴ、ゴメンね。カイト。待ったよね? もう入ってもいいよっ」


 後ろからはジジの声が響く。


「くふふっ。此度も儂の勝ちじゃな。小娘よ、しばし戯れた程度でその様とは、情けないぞ」


 アイシャは、勢いよく振り向いて「私はジジちゃんみたいに、暇じゃないんだからっ」と声を荒げ、それに「何じゃと!」と返る。おかしいな、この応酬、何度も見た気がしてきた……。


「ま、まあまあ。それくらいでいいだろ? 早く部屋を開けてくれよ」


 アイシャは鏡を振り返り、髪を手ぐしで素早く整え、部屋を開けてくれたが、室内を覗くとまだジジが陣取っていて、俺の生着替えを見る気でいる様だった。


 はぁ。ほんとにこいつは……。


「どうしたのじゃ? 儂の前で、遠慮はいらぬ! その肌を惜しみなく晒すが良いぞ!」


 「ほいほい、早く出て行った」とジジの身体に無遠慮に触れ、外へと押しやる。予想どおり突然さわられたジジは「きゃん」と可愛い声を上げ、何もできずに出て行った。


「くくく。もう二人の弱点を把握してしまったな……! 自分が恐ろしいぜっ!」


 精霊たちは俺について来ていたが、この二人に着替えを見られても何ともないな。早く終わらせてしまおう。

 おもむろにパジャマを脱ぎ、昨日ジジに作ってもらった服を手に取った所で、何か視線を感じ、振り返った。


「くふふっ。良いぞ、男らしさには欠けるが、実に美しい裸体じゃ……!」


 なんと、ジジが壁の仕切りの上からこちらを覗き見ていた。慌てて、掴んだ服で身体を隠す。


「何じゃ、何じゃ? おなごの様じゃな! おのこなら堂々とますらおぶりを示さぬか!」


 お、お前ぇぇぇ!

 反射的にベッドに置いたパジャマを投げつける。すると、それはジジの顔に被さり、彼女は嬉しそうに声を上げた。


「ほう! これは――! おんしの匂いが染みついておるぞ! 何と香しい!」


 そして、両手でパジャマを持って、遠慮なく嗅ぎまわる。

 しまったぁぁぁ!? 逆効果だったぁぁぁ!


「もう! 少し目を離したらジジちゃんっ! 何してるのおぉぉぉ!」


 アイシャの怒声が響き、ジジは力ずくで引きずり降ろされた。その間も鼻を鳴らす音が向こうから聞こえて来る。パジャマ、後で回収しないとなぁ。


「は、ははは。あいつには敵わないぜ……。ほんと」


 ほどなくして着替え終わったが、ここで邪な想念が首をもたげる。

 何も気付いていない風を装って、そのままの格好で寝室を出た。こちらに気付いたアイシャが嬉しそうに顔を向け、そして何かが目に入り、赤くなって固まる。


 うおっしゃあ! ドンピシャ! 心の中でガッツポーズをしながら、彼女に向き合う。


「カ、カイト……。その、言いにくいんだけど、見えてるよ? 隠そ?」


 あくまで分からない体を貫き「何の事か分からないんだけど?」と返す。するとパジャマを犬の様に、嗅ぎまわっていたジジがこちらを向き目の色を変えた。


「くふふっ! 何も問題はない! 実に良く似合うておるぞ!」


 あ、こいつに見られるのはどっちかと言うと、マイナスなんだけど!? で、でも――プラスの方が大きいかも!?


 もじもじと身体をくねらせながら顔を背けるアイシャを見やり、心の中では喜びと羞恥を同時に感じていた――。

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