表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の成長するユニークスキル異界の心臓で、異世界無双 ~エルフ美少女に愛され養われ、精霊美少女にも愛されてハーレム状態~  作者: 手ノ皮ぺろり
第一章『精霊の森』六幕『成長の始まり』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/163

土精霊とマナ

 意識を失い、倒れた少年を背中から支えた少女は、別段あわてた様子も見せず、少年に穏やかに話しかけた。


「カイト。カイトよ。ふぅむ。身体に特に問題は見られぬ。ただ眠っておるだけの様じゃな」


 そして、少年を地面へと横たえ、その身体の中心に掌で触れた。


「やはり……。通ったばかりの導管を使いすぎたか。魔力の欠乏が原因の眠りじゃな。しばらく目覚めぬやも知れぬが……」


 少女は辺りを興味深そうに、見回したが、再び少年に目をやり、愛おし気な瞳で見つめた。


「ふむ。眠っておるカイトを、捨て置いて、辺りを廻るのも忍びないのう。……仕方ない、儂もしばらく眠りに就くか」


 その言葉の終わりと同時に、少女の身体は、少年へと吸い込まれて、消えて行った。


「うむ。……うむ! やはりここは、居心地が良いのう」


 その声を最後に、場には人の声は消え、木々のざわめきや、鳥獣の類の鳴き声が響くばかりであったが、しばらくして、直ぐ近くに建っていた一軒の家の扉が開き、一人の老人が姿を現す。

 老人は、周囲を見回しながら、何かを探している様子だったが、家の側面に倒れている少年を見て、安堵した様だ。


「ふむ。気になって様子を見に来てみれば……。恐らく、初めての魔法の使用によるマナ欠乏だな。この陽気なら風邪ひく心配もねぇだろうが……。ここらは特に危険な訳でもねぇしな」


 老人は特に心配した様子も見せず、宙を仰ぎ見て、顎に手をやった。


「さて、どうするか……。下手すれば一日くれぇ、眠りこける可能性もあんな。日暮れ近くまでに、目覚めなかったら、アイシャのやつを呼び出して、連れて帰らせるか。あの道具、しばらく使っていなかったが、まだまともに動作するといいが……」


 そう独りごちた老人は、少年の側にあった木製の柵に目をやり、驚いた様子を見せ、ほどなくしておかしそうに笑った。


「ははっ。まったくお節介な小僧だぜ。だが、感謝するぜ」


 そして老人は「それじゃ、俺ぁ戻るか」と言い、家へと帰って行ったが、途中で木柵を一瞥し「他にも幾つも穴が開いてやがんな。出来たら他も塞いでくれたら助かるぜ」と誰に言うでもなく呟いた。


 そして、再び扉が開かれ、閉じられる音が響き。その場には、また周囲の環境の音のみが残された。




※ ※ ※ 




 瞼の裏を刺激する、眩しい光に眠りを妨げられ、ゆっくりと両目を開いた。


「あれ? 俺、いつの間に眠ってたんだ。……うん? 何か身体が重いな――」


 頭を上げると、乗っていた何者かが素早く胴体に飛び移り、そのまま胸、腹部へと力強く踏みつけながら逃げ出して行った。


「うえ!? な、何だ!? 今の奴!」


 右腕にも重みを感じたため、そちらを見ると、小さなネズミが腕の上でくつろいでいた。

 こいつ、俺が起きたのに、逃げ出す気配がないな。……さっき頭に乗ってたのもこいつの仲間か?


「おい! お前、俺の身体はお前のベッドじゃないぞ!」


 右腕を動かし、払いのける。

 ネズミは、こちらをちらりと一瞥し、すぐさま森の中へと帰って行った。


「はあ、油断も隙もねぇな。……でも、ほんとに何で寝てたんだっけ?」


 「確か、修行の途中で――」そう呟いて、起き上がろうと身体を折り曲げた所で、腹あたりから突然、何かが飛び出て来た。そして、両脚に柔らかな感触を覚える。


「んなあ!? びっくりした! ……何だ。ジジか……。こいつ、また俺の身体の中に入ってやがったのか! てか――この感触!」


 腹から飛び出したジジは、上半身のみが現れていて、その豊かな『銀閃の双丘』が、両脚を柔らかく、圧迫していた。


「おわぁ!? や、やべぇ!? こ、こ、こんな所をアイシャに見られたら!」


 ん? 良く考えると、ここにアイシャは居ないし……。うひゃおう!? もしかして、この感触を味わい放題――!?


 精神はにわかに色めき立つが、両脚に乗ったジジからは動きがあり、おもむろに寝返りをうった。そして、その瞳がゆっくりと開かれ、こちらを見据えた。


「おお、カイト。もう目覚めておったのか、思ったよりも早かったのう」


 あ、何かすっげぇ、残念な気分。だけど、何があったのか確かめないとなぁ。


「おい、俺、寝てたのか? 何でだ?」


 ジジは腹から半分でたままで答えた。


「魔法の使用を連続して行った事による、魔力の欠乏じゃ。初めての者は、よく気絶するらしいぞ! 儂が見たのはおんしが初じゃがの」


 当然だろうが、初めて聞く話だった。特に気分が悪くなった訳でもなく、身体に不調が出たわけでもないので、それほど気にする必要はないか。

 ジジは俺の身体を見回し、何かに気付いた様だ。腕や膝あたりを不思議そうに凝視して来る。


「ふぅむ? カイト。おんしの身体にあったはずの傷が見当たらぬのう……? そういえば、昨日おった傷も朝には完治しておったな」


 問われて少し口ごもりながら、あの治癒能力の事を話し始めた。


「実は、俺にはあの力いがいにも、妙な治癒能力があって、寝て起きたら大怪我も治ってるんだ。……アイシャは、これもずっと働く保証もないからって、気にしてたみたいだけど、こんなに短い睡眠でも効果があるんだな……」


 ジジは全身を現し、口元に手をやり、何かを考えている様だ。

 そして、再び俺を見回した。


「ふむ? 使いきったはずの魔力も、充填されておる様じゃな。いくら睡眠を経たとはいえ、余程きたえた魔法使いでもない限り、それほど早くには魔力も戻らぬはずじゃ。……カイトよ。おんしは、やはり多くの運命に縛られておる様じゃの」


 うん? マナも、もう元に戻ってるのか? 普通ならもっと時間がかかるってことか。

 疑問は尽きないが、立ち上がり、再び修行に戻る事にした。


「さてと。さっきのネズミたち、菜園には入らなかったみたいだけど、良く見ると、他にも幾つも穴が開いているな。修行ついでに塞いでしまうか」


 先ほど穴を塞いだ時を思い出しながら、一連の動作をなぞっていく。


「目を瞑ってても、光が見えるのは何か慣れないなぁ」


 さしずめマナが絵の具で、精霊素はキャンバスって感じか? あ、でも思った通りの色が塗れるかは、修行しだいになるのか……。多層的な立体のキャンバスなんて地球じゃなかったかも? 俺もゲーマーのはしくれ。幼いころからゲームをしていれば、自然と作る事にも興味を持つ。……それで、自分で考えたキャラクターを描いてみたりしたけど、全然うまく行かなかったんだよなぁ。


 思考が脱線している事に気付いて頭を振った。いや、ダメだ。修行に集中しないと……!


 ジジはそばについて来て、その様子を熱心に見守っている様だった。

 しばらく繰り返し、作業をするうちに、柵に開いた穴は全て塞がれて、不格好ではあるが、小さな動物の侵入も防げるだけの機能を取り戻した様に見えた。


 頭上をみやると、太陽はほぼ真上に位置しており、朝おきてから数時間は経過しているのが窺えた。そういえば、何か腹が減って来たな……。アイシャは、食べる物がなかったら家に帰って来てもいいって言ってたけど、何か効率わるい気がするな。頼まれてた塩の事もあるし、師匠に聞いてみるか。図々しいと思われるかな?


 修行を中断し、デルライラムの家の玄関に向かい、ノックした。


「何だ? もしかして、カイトか!?」


 家の中では、慌てた様子の足音が響き、扉が勢いよく開かれ、デルライラムが姿を現した。その目は驚きで大きく開かれていた。


「お前、もう目を覚ましたのか……!?」


 デルライラムのただならぬ表情から、先ほどのジジの言葉を思い出して振り向いたが、彼女は既に俺の身体に隠れている様で、後ろにはいなかった。

 デルライラムは驚いた表情は崩さず、腕組みして何かを考えている様だったが、しばらくしてゆっくりと話し出した。


「驚いたぜ。普通ぁ、こんなに早く回復しねぇはずだが……。まあ、いい。もう昼時だ。もしかして、腹が減ってんじゃねぇのか?」


 師匠はお見通しだったみたいだ。正直に話すと、家の奥へと入って行き、何かを探る音が聞こえて来る。そして、一枚の大皿を持って、戻って来た。その上には、食べ物が乗せられていた。


「ほらよっ。曲がりなりにも、今ぁ、俺の弟子な訳だ。修行中くれぇ飯の面倒も見てやらぁ。そんなにイイモンでもねぇだろうが、腹は膨れるはずだぜ? ……それと、こいつはアイシャに渡しな」


 皿と塩を受け取り「ありがとうございます、いただきます」と返した。デルライラムは自分も昼食をとるつもりなのか、短く挨拶して家の中に戻って行った。


 家のドアから離れ、森の側に残っていた切株へと腰かけた。すると、ジジが鼻をひくつかせながら、全身を現した。


「ふんふん。何やら香ばしい匂いがするぞ。……冷めておる様じゃが、それは、焼いた獣の肉じゃな? じゅるり」


 ジジは今にも口の端から涎を垂らしそうになり、皿に盛られた数切れの肉を見つめた。


「だ、ダメだぞ! これは、俺が師匠からもらった飯なんだからな! お前には欠片もやらねぇ!」


 ジジは口惜しそうに、しばらく昼食を眺めていたが、やがて諦めたらしく、俺の隣に大人しく座った。


「まあよい。おんしは修行中の身じゃ。それを掠め取ったとなれば、今後の成長に響くやも知れぬ。今は、譲ってやるぞ」


 いや、譲るも何も最初から俺のだからな!


 デルライラムから受け取った食糧を眺め、匂いを嗅ぐ。美味そうな匂いの出所は、主に焼かれた肉で、他は、生のままのキャベツと、堅そうなパンだった。

 これの一番うまそうな食べ方は……。ん? そういえば、フォークとかは渡されなかったな。もしかして、忘れてたのか。それとも、師匠は手づかみで食べるのか……。

 まあ、いいや。この大きめに裂かれた生のキャベツを、肉に巻き付けて……と! パンに裂け目を入れて、そこに挟んでもいいかもしれないけど、とりあえずは、これで食べるか!


 大きく口を開けて、キャベツに巻かれた肉を頬張る。適度に脂が混じっていて、噛むと口内に旨みが広がる。キャベツの方はかすかな青臭い味と適度な歯ごたえ以外は、ほぼ水を噛んでいる様な感覚だったが、肉と合わせると旨みを引き立てて、丁度いい塩梅になっていた。


 ん。それなりの味だな。特別うまくもないけど。アイシャの家では、もう二日ほど肉なしシチューだったので、この肉は重要な栄養源とも思えた。


 しばらくして、デルライラムから提供された昼食を平らげた。

 修行を再開するために、立ち上がろうとしたら、ジジが隣からしなだれかかって来た。

 んなぁ!? な、な、な、何だ!?


「のう、カイトよ。儂は、腹は減っておらぬが、喉が渇いたぞ? おんしの手持ちの水分を供するのじゃ」


 そう言って、水筒ではなく、下腹部を見つめ、太腿に触れた。

 すすす、水分ってどこのだよ!?


「な、な、な! またセクハラァ!」


 またジジのペースとなり、弄ばれそうになったが、家のドアが突然ひらき、デルライラムが姿を現し、ジジは慌てて俺の中に隠れた。


「よう。カイト。飯は終わったか? 終わったのなら、皿よこしな」


 慌てて「ごちそうさまでした」と言い、皿を渡す。すると、デルライラムは、その皿を手早く家の中に持ちこんで、すぐに姿を現した。


「おい。修行は進んでるか? さっきはマナ欠乏で眠ってたんだ。それなりに回数はこなしたんだろ? 見せてみな」


 デルライラムの言葉に「はいっ」と返事し、緊張しながら立ち上がり、目を瞑り、集中する。

 そして、何度も繰り返した通りに、地面へとマナを放ち、輝く糸を手繰り寄せた。右手には砂粒が纏わりつき、日光を受け、微かに光っていた。

 デルライラムは、それをつぶさに観察し、評価を述べて行く。


「ふむ。まだ微小な粒だが、基本はなってるな。……悪かねぇ。だが、大きさや厚みもそうだが、そもそも目的の鉱物を引き当ててねぇな。組成の分析については、あれだけの説明じゃ分からなかったか?」


 そう言うと、デルライラムは、自分でもまたやってみせて、その右手に纏った土の塊を、良く見える様に、俺の鼻先へ近づけた。それは、部分的に鈍い銀色の輝きを放っていた。見るからに硬質な表面の様相は、何らかの金属を思わせた。


「良く見てみな。一見すれば、ただの岩塊の様にも見えるが、これは――鉄だ。大地の深くに眠っていた鉱物を吸い上げるには、マナをより広範囲に浸透させ、鉄鉱床を探り当て、集める必要がある。……それに、ただ吸い上げたんじゃ、酸化している場合が多い。それを炭素と反応させて、純度の高い鉄に戻すにも土の精霊の力がいる」


 一気に話されて混乱していると、デルライラムは、別の方向を見て、再び話しだした。


「お前、あっちの菜園で、柵の穴を土壁で埋めてただろ? あれを井戸まわりの泥でやったのなら、その時に、精霊素が反応した姿と、その属性ごとの差違を見出したんじゃねぇか?」


 あのマナに反応した泥の塊が、微妙に異なる色合いで輝いていたのを思い出しながら、黙って頷いた。


「今、例にあげた。鉄、酸化鉄、炭素。どれも土の精霊の範疇だ。それらが存在すれば、確実に精霊素は土の力を励起する。だがぁ、それでも引き当てれば、僅かな差違を示す。それを見極めて、自在に融合、もしくは分離させる。それがハキスの肝なのさ」


 泥に含まれた水分を抽出するには、水の精霊の力もいったが、今の例えであれば、鉄を吸い上げて纏うには、土の精霊の力のみでも、微小な差違を見出し、自由に配合を変える必要があるのだろう。


 デルライラムの言葉は、簡潔だったが、その実現には途方もない壁が感じられた。あの夢でのもう一人の自分とのやり取りを思い出し、決意と共に砂粒をまとった右手を握りしめた――。


評価・ブックマーク・レビュー・感想などいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ