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最強の成長するユニークスキル異界の心臓で、異世界無双 ~エルフ美少女に愛され養われ、精霊美少女にも愛されてハーレム状態~  作者: 手ノ皮ぺろり
第一章『精霊の森』五幕『異端の来訪者』

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その想いの源は?

 それからは何事もなかったかの様に事は進み、アイシャとは違って難なく地上へと上がり、ミッションは達成された。


「ふう。無事に持って来たぜ」


 「ありがとう」とアイシャは籠を受け取り、早速それを食卓に置いて中身を取り出し始める。

 またシチューの残りにつけて食べるのかな? さっきは気持ちがどんよりと沈んでて、そんな事を考えてる余裕がなかったけど、残さず食べてしまったから、あの堅いパンを直接かむ事になるのか……。


「じゃじゃぁん! これは最後まで残してあったとっておきでね! なんと! 木の実入りのベリーパンだよっ!」


 乾燥させたエルヴンベリーが入ったパンって事かな? あの甘酸っぱく瑞々しい味を思い出すと自然と唾が出てきた。


「はい、カイトと、ジジちゃんにもあげるね。とっても美味しいパンだからぁ。心して味わってね!」


 ベリーパンは地球のメロンパンの様な形状で、赤い木の実が表面にも幾つも顔を出していた。中にはさらに多く包まれているのかと思うと、食欲が大いに刺激される。手触りはこれまでの堅いパンと比べると柔らかく、噛むのにもそれ程の苦労はなさそうだ。


 アイシャからパンを受け取ったジジは不思議そうに見つめ、一通り匂いを嗅いだ後に、おもむろにかじりついた。顎を動かすその表情が、目が輝きを帯びる。


「ふむ!? これは――! 確かに真に美味じゃ!」


 アイシャは自分もパンを頬張りながら嬉しそうに答えた。


「そうでしょ? この甘酸っぱいベリーの味と、少しだけ塩の効いたパンとのハーモニーが絶妙で癖になっちゃうんだよねぇ。……都でも人気のパン屋さんの看板メニューなんだっ! 買うのは大変だったんだからっ! 開店してもすぐに売り切れちゃうからぁ、お店が開く前から行列が出来てるんだよっ! でも、その苦労に見合った戦利品なのだっ! 美味しくて保存も効いちゃうなんてエルフに生まれて良かったぁ、って思っちゃう!」


 二人の感想を聞きながら口を付けようとしていたら、早々に平らげてしまったジジがこちらを羨ましそうに見ているのに気付いた。

 いくらなんでも早食いすぎるだろう!?


「んな!? お、俺の分を狙ってるのか!?」


 ジジは肯定も否定もせずに無言でこちらを見つめ続ける。その瞳は普段よりもひとしお輝いて見えた。


 く、くそぉ。高貴なる何とか言ってる癖にとんだ野生児だぜ……! 他人の食料を狙うとは……!


 だが、先ほどの失態があるからな。アイシャの信頼は取り戻せたかもしれないが、こいつの分は……。


「はあ、分かったよ。……半分だけだぞ? 半分だけ分けてやる。それ以上はダメだからな!」


 目を輝かせてパンを待つジジに半分にちぎった片割れを渡してやる。

 すると「感謝するぞ」と言うや否や怒涛の勢いで食らいつき、瞬く間に平らげてしまった。

 そして再びこちらを物欲しそうに見つめる。


 だあああ!? これ以上は絶対にやらん! その視線を無視してパンにかぶりついた。

 その瞬間、絶妙な塩加減の生地の味と共に、ベリーの甘い香りが口の中に広がった。

 ひとかみすれば、木の実が潰れる心地よい食感が歯に伝わり、二度かめば、甘く爽やかな酸味が舌の上でとろけていく様だった。


「美味い! 確かにこれは絶品だ!」


 そんな俺の様子をジジは恨めしそうに見つめ、驚愕の行動に出る。

 何だ!? 隣から手が伸びて来て、パンを掴まれた!?

 やべぇ!? このまま手をこまねいていては、また奪われるぞ!? 食え! 今すぐ俺の野生に火を付け、食らい尽くすんだ!


 だが、時すでに遅く、かぶりついた瞬間に、横からジジの唇が重なった。


 んなぁ!? な、何してぇ!?


 血色の良い艶やかな唇がすぐ隣に見え、パンの端っこを強引にちぎり取って行った。

 その行いにアイシャも血相を変えて立ち上がり、場は騒然とする。

 あまりの出来事に鼓動は少し早くなっていたが、執念で残りのパンを食べきった。

 ふう。何とかこれ以上は奪われずに済んだぜ。何? 今のは、間接キスじゃないかって? くくく、この数日で俺の精神は鍛えられ研ぎ澄まされたのだ。この程度では動揺――。


「隙ありじゃあ! まだ頬に欠片が残っておるぞ!」


 その一声と共に、ジジは俺の左頬を舐めた。湿り気を帯びた生暖かい感触が頬を下から上へとなぞる。


 う、うわあああ!? 何してんだこの発情精霊!?


「もう! もう! 何なの!? ジジちゃん!? そんなえっちな事ばっかりして! ご飯の時くらいみんなで穏やかに楽しもうよっ!?」


 うわぁ、アイシャもマジでキレ気味だよ。


 ジジは全く悪びれた様子もなく平然と答えた。


「うむ。真に美味であった。御馳走とはこうでなくてはな……! またこのパンを儂に捧げても良いのだぞ?」


 「はぁ」アイシャは額に手を当て、呆れた様子でため息をついた。

 何ていうか、心中お察しします。

 俺はジジを睨み、言葉を荒げる。


「お前ぇ! 何歳なんだよっ!? 子供かぁ!? 偉そうなことばっかり言うくせに、全然マナーがなってねぇな!? この野生児! 発情野生児!!」


 この言葉を投げかければ、ジジを反省させられるかと思ったが、読みが甘かった。先ほど発情精霊と呼ばれた時は、静かな凄みを感じたが、発情野生児には何の感慨もなかった様だ。


「儂を誰だと心得る。くふふっ。儂は在るがままを行い、何者にも縛られぬ……! ヒトの子の様に、年齢なぞに意味はないわ……!」


 アイシャは、疲れ切った様子で椅子に座り直した。


 ふむぅ。この二人、さっきの件で上手く行くかと思ったけど、道は険しく長そうだな……。

 まあ、ジジの奴の性格は掴めて来たけどな。こいつ、肉体を持った事で欲望に忠実になりすぎてるな? 精霊の姿だった時は、理知的な側面が多く見られたが、今じゃ食欲と性欲の発露が酷すぎる。思春期の俺でも引くレベルだぜ。

 何か上手くたしなめる方法があればいいんだがな。


 問題点は多いが、食事も終えたし今は師匠の所へ急ぐか。

 二人の様子を窺うと、ジジは満足した様に、腹をさすっていて、アイシャの方は心労が全身から滲み出る様な不気味なオーラを纏っていた。


 こんな状態で出かけるのも気が引けるが、約束は守らないと。


「あのさ。俺、そろそろ師匠の所へ行こうと思うんだけど、君からは何か伝言とかあるかな?」


 恐る恐るアイシャに話しかけるが、すぐに明るい顔に戻り、答えが返ってきた。


「あ、そうだよね。魔法の修行……頑張って来てね! 後ね、家のお塩の備蓄が底を突きそうなんだ。ええとね。はい! この瓶を持って行って、デム爺にお塩を分けてもらってきてくれたら嬉しいなっ!」


 「分かったよ。師匠に頼んでみる」と小瓶を受け取って、身だしなみをチェックし、棚に畳んで置かれていたあのボロキレを手に取る。こんな物、本当は使いたくないけど、あそこを通るには必須だしなぁ。


「昨日くんで来た新鮮なお水があるから、水筒に入れてあげるねっ。本当はお弁当も用意してあげたいんだけど、携帯に便利そうな食べ物もなくなっちゃってるから……。お腹が空いたら家に戻って来てもいいからねっ」


 アイシャは何処か嬉しそうにしながら奥の水瓶へと向かった。

 ここで今まで大人しくしていたジジに動きがある。


「待て、カイト。その修行とやら、儂も同行するぞ!」


 ええ!? こいつがついて来たりしたらまともな修行にならない未来が見える……!


「断るとは言わせぬぞ……! 是が非でも行くからな!」


 アイシャは俺に水筒を渡しながら、ため息交じりにジジに声をかけた。


「はぁ。ジジちゃん……! 道中でカイトに変な事したら私が許さないからね……!」


 精一杯すごんで見せたのだろうが、ジジには全く通用していない様だった。


「くふふっ。道中の守りは任せるが良いぞ! その師匠とやらの下へ必ず五体満足で送り届けてやろう……!」


 はぁ。前途多難を予感させるが、そろそろ出かけるか。

 玄関のドアを開け、外へと踏み出す。背後からは「いってらっしゃい、頑張ってね」とアイシャの声が聞こえ、振り向きながらそれに答えを返す。

 ジジは、俺の後ろにぴったりとついて来ていたが、ドアを閉めたあたりで両腕を上げ思い切り伸びをした。


「うぅん! 日の光とはこれほど温かなモノだったのじゃな! それにこの森、四方八方から何やら興味をそそられる匂いが漂って来よる! そして、虫や獣のやかましいことよ! カイト! 儂は今、生を実感しておるぞ!」


 「はぁ、そりゃ良かったね」と冷淡に返し、歩き出すが、ジジは特に不満そうでもなく、無言でついて来ている様だった。

 しばらく草原を進んだ所で妙な違和感に気付く。


 うん? おかしいな、後ろからは草をかき分ける音が聞こえない……。あいつ、ちゃんとついて来てるのか?


 気になって振り返る。


 すると、目に入ったのは――。


 大きく開かれた胸元と『銀閃の双丘』――じゃなくて! いや、一番に目に入ったのはそうだけど!


「お、お前! 宙を飛べたのか!?」


 ジジは辺りを興味深そうに見回していたが、その言葉を受けて不思議そうに俺の目を見た。その身体は確かに浮かんでいて、背丈のある草の上を漂っている。着物の端が風に揺れ軽快な音を立てた。


「何じゃ? 飛んでおると何か不都合でもあったかの?」


 ジジは飛びながら近づいて来て、俺の目を覗き込む。自然と『銀閃の双丘』が眼下に迫り、目ではなくそちらを追ってしまった。

 ジジは俺の視線の先を知っていて隠す素振りも見せず、楽しそうに笑う。


「くふふっ。実に素直ではないか。降り注ぐ日の光のもとでは、嘘もつけぬのかの? ……それとも、あの小娘がおらぬからか?」


 そして怪しげな流し目でこちらを見やり、両手で『銀閃の双丘』を挟み込み、谷間を強調してみせて、ゆっくりと上下に揺さぶった。生唾を飲み込み、そこから目を離せず微動だにできなくなる。


「ここでは、あの小娘の邪魔もない。おんしが盛りたいのならば、儂は日光のもとでも構わぬぞ? 愛し合う男女がむつみあうに、寝所でなければならぬ法などない。ほれ、丁度ここには、身体の隠れる草が茂っておる。虫や獣には筒抜けやも知れぬが、ヒトの目には入るまいて?」


 艶めかしく脳を直接、愛撫される様な、誘惑の言葉が意識を欲望で塗り潰そうと試み、美しく大きな瞳が怪しく煌めき、俺の心の底まで覗き込むように、見つめて来る。

 ふっと、首筋に息を吹きかけ、今にも襲い掛かられそうになったが、欲望に呑まれそうな身体を無理やり動かし、左手で心臓あたりを思い切り掴んだ。


 俺の身体よ――。


 動け! あの力のスイッチを入れ、意識を覚醒させる。そして、すぐさま後方へと飛び退いた。「ハァ、ハァ、くっそ! こんな事で力を使わされるなんて!」動けなくなった自分にも呆れるが、再三の求めから察するに、こいつは本当に俺と『そういう事』をしてもいいと思っているらしい。

 何だ? 何故そんなに好意を持たれてるんだ……?


「何じゃ! その様に必死に逃げずとも良いではないか。おなごから求められたのじゃ、ありがたく頂いておけば良い。それが、ますらおぞ?」


 うるせえ!? 何か知らんが、俺はヘンタイのセクハラには屈しないぞ!


「と、とにかく先に進むぞ! お前が飛べるのには、驚いたけど……。あ! そうだ、お前、師匠の前では隠れてろよ! 話がややこしくなるからな!」


 一気にまくしたてたが、ジジは涼やかな顔で受け流す。

 そして、先ほどとは違い悪戯っぽい笑顔で、俺に向かって突進してきた。


「な、なあ!? なにするつもりだぁ!?」


 避ける暇もなくぶつかられたと思ったが、衝撃は感じず、痛みもなかった。


 ただ、そこには――。


「え!? し、尻!? いや、脚もある。何で俺の腹に身体が刺さってんだ!?」


 一体どうなって!?


 慌てて状況を確認しようとすると、後ろから声が聞こえた。朗らかで少しも緊迫感はない。


「ほれ、何処を見ておる。こちらじゃ! ……ふぅむ。儂がそちらに行った方が良いかの?」


 そう言うと、俺に刺さった身体は回転し、腹あたりからジジの楽し気な顔が姿を現した。


「何を驚いておる。肉体を持って初めて会った時もこうであった。そうじゃろう?」


 その言葉に起きた時の騒動を思い出す。あ、確かに、こいつ、最初に俺の背中や腹から生えてたんだった!


「お前、身体があっても、物体をすり抜けられるのか!?」


 腹から右手がにょきっと生え、口元に添えられる。


「ふぅむ。さほどに便利な力ではない。儂がすり抜けられるのはおんしの身体だけじゃ。……ああ、愛し合いたいのならば、問題はないぞ? 何時でもどちらの状態にもなれるからな?」


 ジジはまた悪戯っぽい笑みを浮かべ、少し上に伸びた。いや、ずれた。

 瞬く間に『銀閃の双丘』が現れ、俺の腹を柔らかく圧迫する。


 うおおお!? な、何ですり抜けてるのに感触があるんだぁぁぁ!?


「ほれほれ! これはどうじゃ?」


 ジジは楽しそうに身体をくねらせ、またするりと全身を現した。


「これで分かったじゃろう? 隠れたければ、おんしの身体に全身を納める事も可能じゃ。何も問題はないぞ」


 何か釈然としないな。でも、とりあえず問題はないのか。

 踵を返し、動揺を悟られない様に、足早に歩き出す。


「行くぞ。もうすぐ小さな川に着くはずだ」


 しばらく草原を進むとほどなくしてあの川に着いた。

 ジジは水面を覗き込み、感嘆の声を上げる。


「おお! 魚じゃ! 生きておるのは初めて見たぞ! 良いのう、優雅に水中をたゆとうておるわ。死んだ姿からは斯様に風情のある生き物とは想像もできなんだ!」


 あれ? アイシャは確か大精霊域にも川があるって言ってた様な……?


「お前のいたとこにも、川はあったんじゃないのか?」


 ジジは刺々しい表情になり、こちらを睨んだ。


「あの川は死んでおる! おんしらヒトの子の行いでな! とても生き物が住める環境ではないわ!」


 ああ、森のエルフの都の排水で汚染されてるんだったっけ。アイシャがそんな事を言ってたな。でも、そんなに深刻な状態なのか。


「大精霊域の浄化作用で通り抜けた先では、生き物もおる様じゃが、儂はあそこから出た事がなかったからな」


 なるほどな。見る物すべて珍しいわけだ。

 ここでジジは先ほどとは打って変わって、口の端に舌を出し、鋭い目つきで水中を見た。


「のう。カイトよ。魚とはさぞ美味なのじゃろうな? ……決めた! おんしに命ずるぞ! あの魚を取ってまいれ!」


 はあああ!? さっきは風情がどうの言ってたのに、もう食欲に負けたのか!?


「おいおい。釣りの道具もないのに、魚なんて取れないって!」


 ジジは不満気にこちらをみた。


「素潜りで手づかみすればよかろ?」


 いや、普通の人間にそんな事できないから。


「ま、まあ。帰ったらアイシャに相談してみるよ。だから今は進むぞ。……あ、この朽ち木の橋だけど、渡る時に邪魔するなよ? 落ちたら大変だからな」


 ジジは何か思案している様子で、俺の背後へと回った。脇の下あたりに手がかけられ力を感じた。

 すると、身体が突然、浮き上がる。


「うわ!? どうなって!?」


 川を浮遊しながら左右を見渡す。おお、完全に飛んでる。こいつ、こんな芸当も出来たのか。


「この程度の距離ならば、おんし一人を運ぶくらい造作もないぞ。さほどに高くは飛べぬし、長距離は無理じゃがの」


 対岸へ着き、俺を降ろしたジジは何かに気付いたかの様に、鼻をひくつかせる。


「うむ? これは――。あちらから濃密な霊気を感じる……」


 へ? 霊気?

 質問する暇もなく、ジジは左手の森の木々の間へと入って行ってしまった。


「お、おい! 待てよ!」


 慌てて追いかけると、少し開けた場所に辿り着き、そこにはひとつの巨岩が横たわっていた。高さは三メートルほどだろうが、幅は十メートルはあった。表面は部分的に滑らかな場所が残っていて、削りだされた跡らしきものが見える。何らかの人工物であったのかもしれない。だが大部分は風化によるのか、でこぼことした荒い岩肌となっていて、土が堆積していて、草や木に覆われていた。張り出した根が血管の様に覆いかぶさり、不気味な巨大生物の死骸にも思えた。


 ジジはその所々に草木の繁茂した巨岩を、丹念に調べている様だ。

 突然こちらへ声がかかる。


「カイト、ここじゃ! ちこう!」


 何だ? そこに何かあるのか?

 言われるままに近づいてみると、岩の一部に文字の様な物が彫られていて、ジジは食い入るようにそれを見つめていた。


「何だ? 何て書いてある? 俺には読めないぞ」


 ジジは文字をなぞる様に、指先を動かした。


「無理もない。古代エルフ語じゃ、内容は――『我が眠りを妨げることなかれ。妨げし者には――』ふむ。ここで掠れて途切れておるな。……カイト、この続きが気にならぬか?」


 いや、突然そんな事いわれてもな。俺は冒険家でもないぞ。好奇心も普通だ。

 「ふぅむ。やはり儂の力では反応はないな」小さく呟きながら何事かを試している様だ。

 ジジは俺の答えを待つこともなく、言葉を続ける。


「カイト、右腕を上げて指先を伸ばすのじゃ」


 何だ? 疑問を感じながらも、言われるままに指を伸ばした。

 それにジジが顔を近づけ、噛みついた。


「いって!」


 鈍い痛みと共に、一滴の血が流れだす。


「何すんだ! お前!」


 ジジは無理やり俺の手を取り、岩の文字へと血を垂らす。

 すると、文字が紅く光り始め、左から右へと徐々に輝きで満たされていく。


「何だ? これ……」


 先ほどは掠れて読めなかった部分も紅く輝き、文字が浮かび上がって来た。

 それと同時に、不気味な石の擦れあう様な音が響き、地面が揺れる。巨岩に繁茂していた草木も揺れ動き、埃が立ち昇り始める。一際おおきな一本の木が支えを失くしたのか、音を立てながらへし折れ、倒れ伏した。周囲の木々にとまっていた小鳥たちが、驚いて飛び立っていく。

 しばらくして、地響きが終わり、巨岩の一部に地下への入り口が現れた。その暗い双眸がこちらを冷たく見つめる。


「くふふ。続きが読めたぞ。……『妨げし者には、相応の報いがもたらされるであろう』」


 ジジの言葉に背筋に震えが走る。この奥には一体なにが待ち受けているのだろうか――。


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