調査報告書① 桃が割れています
エミリーが再起動した翌日、
村で開かれる朝市で買い物をする事になった。
しかし、僕たちが欲しかったクッションなんてものはどこにもなかった。
こんなこともあろうかと、エミリーに頼んで、
3Dプリンターで炭素繊維で作りだした、
カーボーンフェルトのドーナツクッションを作成してもらった。
けれど材料不足のため、2つしか作ることが出来なかったので、
今日も僕のお尻は痛い思いをしなくてはならない。
まぁ、女性優先というのは当たり前だろう。
それに、僕の尻は既に割れているので、
今更クッションを新調したところでもう手遅れである。
材料を現地調達できれば、
金属製の製品なども作り上げることが出来るようなので、
プリンター用の資材もできる限り探してみようと思っている。
「このクッション、変わった形で薄いんだけど衝撃が和らいですごくいいね。よくこんなの村の朝市なんかで手に入れられたね」
「ふたつしか無かったんですけどね。結構安かったんですよ」
苦しい言い訳となるが、
プリンターで作りましたなど、
言ったところで信じてもらえるはずもない。
御者台に座るアンも心なしか嬉しそうにクッションを使っている。
その分、僕のお尻は今日も割れ目が大きくなっている。
まぁ、アバターのカラダなのだから、
多少無理をしても大丈夫・・・のはずだ。
「明日には聖都の城壁が見えてくるよ」
「じゃあ明日には到着できるんですね」
「聖都は五重構造になっている城壁都市なの。ひとつ目の城壁ウォールバルカを通過しても麦畑しか見えなし、居住区のあるウォールタリンを超えるまで二日くらいかかるかな。その先は市民権を得た一部の人たちと聖職者、そして聖騎士を中心とした軍属以外の立ち入りが出来ないんだ・・・」
だから僕はサテラさんの奴隷として隷属契約が必要だった訳か。
男である僕が従者として付き従うのはあり得るかもしれないが、
アンみたいな女の子が従者というのは無理かがあったかもしれない。
僕が思っている以上にサテラさんにとって、
負担を強いているのかもしれない。
クッションくらいでは代償にはならないだろうが、
なんとか彼女を支える力が欲しい。
「サテラさんはどんな魔法が使えるんですか?」
「・・・ボーズくん。他人の魔法は聞いちゃいけないんだよ。まぁ、記憶が無いからしょうがないか。私が得意なのは氷魔法。あとは風魔法かな」
「僕って魔法を使った後、気絶しちゃうじゃないですか。あれって魔素を全部使い切っちゃったからかなんでしょうか。どうやったら威力をコントロールできるんですか?」
「うーん、難しいなぁ。例えば自国の言葉って勉強して覚えたわけじゃないよね。日々の生活で自分の成長とともに自然に覚えるものでしょ。それと同じなのかな。ボーズくんは記憶を無くしているから、そのヘンが忘れちゃったとしか思えないんだけど・・・」
この世界で作られてから1ヵ月しか経っていないという事は絶対に秘密だ。
「それよりボーズくんが変態・・・じゃない、ヘンなのはレベルの事だよ」
・・・今、変態って言ったよな。
「何度もキミを鑑定してもレベルは1のままなの。魔族2体を瞬殺したのにレベル1って絶対にありえない。あれだけでもレベル40には到達していなきゃおかしいのに・・・」
・・・それは僕の人間としてのレベル40を現しているはずだ。
「それにあの魔法の出力。聖都の大魔導士でもあのレベルに達しているのはレベル50以上の大司教様くらいしかいないんだよ・・・」
「レベル50っていうのが、高いのか低いのかが分かんないんです」
大きなため息をついてこの世界のレベルについて教えてくれる。
宗教国家コルトラカルヴェ。
そしてその前身である王立国家時代を含め1000年の間に、
人族が到達できた最高レベルを100として数値化しているのがレベルらしい。
その最高レベルに到達したものこそコルトラカルヴェ建国の王祖「サルデュス」なのだとか。
なんでも魔王と戦ってこの世界に平和と繁栄をもたらした「勇者」であり、
宗教国家となる以前の貴族は、勇者に付き従った従者の末裔。
まぁ、このヘンはファンタジーの世界でよくある話であり、
この世界でもそのようなベタな歴史が積み重なっていた訳か。
本来、魔法やスキルの他にレベルを聞くことも失礼な事らしいが、
無知な従者を憐れんでなのか、サテラさんは自分のレベルを教えてくれた。
「私のレベルは27。聖鎧による魔法付与で10くらいステータスは上がるけど、素のままでも私の年齢でこのレベルって言うのは立派な方なのよ」
ちょっと自慢げに腕を組んで見せるサテラさん。
その寄せ上げられたすさまじい戦闘力も物言わず自慢している。
「石の家のマーサさんはどのくらいのレベルだったんですかね」
「そうね、レベル35ってところかな。若い頃は50くらいありそうだったなぁ・・・」
「レベルって下がることもあるんですね」
「レベルアップするから強くなるんじゃなくて、強くなったからレベルが上がるんだよ。レベルっていうのは、神の恩恵をどれだけ受けているのかという物差しにしかすぎないの」
ゲームの世界では、レベルアップすれば急激に力が湧いてくるんだけれど、
元の世界でもこの世界でも、そんなに都合の良い強さなんて言うものは存在していないという事だ。
「だから、レベル1であの魔法が使えるっていうのは世の中の摂理を無視しているわ」
確かにこの世界の摂理をまったくもって無視している。
なんだかサテラさんの視線が疑っているように感じられた。
悪意というか、僕がなにか秘密を隠しているのでは無いかという疑念だ。
彼女が鑑定のスキルを持っているから、
出まかせな嘘をつく訳にはいかない。
もっとも彼女に嘘をつきたくないというのも事実である。
自分自身、このカラダや能力について知らないことが多すぎる。
もとの世界の知識を有効に使って、
嘘ではない「推測」を使って説明すれば、
サテラさんの鑑定スキルに対応でき、
かつ彼女に嘘をつかないですむのかもしれない。
「例えばなんですけど、僕のスキルに「隠ぺい」って本当のスキル能力が分からないようなものがあれば辻褄が合わないってことないですかね」
「そんなスキルがあるって聞いたことが無いけど、もし本当だったらレア中のレアスキルだよ!」
「確信なんて無いですよ。あくまでも仮説・・・」
「いーえ、わたしも色々考えついたけど、そんな発想思ってもみなかったわ。キミの仮説が一番スッキリきたもの。本人がそういってるんだし、聖都についたら早速大賢者様に鑑定してもらおうね♪」
・・・結構ちょろいなサテラさん。




