調査報告書① とある買い物をいたしました
荷馬車は「石の家」の開拓村より少しだけ規模の大きい、
チェザーレ準司祭枢機卿開拓村に到着した。
あたりはすっかり日が落ちて暗くなっている。
サテラさんは、荷主である農奴頭の家まで事情を説明することになった。
荷馬車は、僕たちが目指していた砦の先にある、
バルカの町まで作物を貢納しに行く予定だったらしい。
この村も元貴族の領主が所有する開拓村であり、
村人の多くが農奴である。
つまりこの農村に縛られた領主の所有物なのだ。
移動の自由は制限されているが、
農園から見込まれる貢納の義務が果たされていれば、
村の中での生活は自由度は高い。
その仕組みは「石の家」のある開拓村と同じだ。
この開拓村は比較的若い人たちが多いような気がする。
貢納の量が少ない村からは、賦役といって、
若い人たちが肉体労働に駆り出される。
収める量が少なければ、
カラダで納めろという事なのだろう。
村の生産能力の事情にって格差があるのだと、
あとでサテラさんが教えてくれた。
サテラさんが農奴頭の家に入って間もなくすると、
家の中から慌てた様子の家人たちが飛び出してきた。
荷馬車に積まれた遺体の中には、
農奴頭のものも含まれているらしい。
まぁ、足以外はどこがどのパーツなのか、
原型を留めているような状態ではないのだけれど。
しばらくすると、農奴頭の弟と名乗る人が、
サテラさんと僕に礼を言ってきたのだけれど、
当主の突然の不幸にもてなすこともできないため、
今夜のところは村にある宿に泊まるように勧めてくれた。
最初は固辞していたサテラさんだったが、
僕の方をみて思い直したらしく、
今夜の宿の提供を受け入れた。
僕を気遣ってくれるのは嬉しいのだけれど、
彼女だって相応の傷を負っているし、
農奴頭たちの遺体を回収した際に付着した血が、
服や白い肌を黒く汚している。
お互いに屋根のある宿が確保されたというとはありがたいのだけれど、
その陰で亡くなった人の悲しみがあるって現実が、
胸の奥底で静かに騒がしい。
この村の宿は「石の家」と同じく、
1階にある食堂が居酒屋を兼ねており、
宿泊客や常連客と思われる村人で繁盛していた。
部屋も「石の家」と同じく、狭い間取りにベットがひとつだけ。
それでも最低料金の相部屋に比べれば極めて清潔であり、
一泊の料金は銅貨5枚とまぁ、それなりの料金である。
さすがに着替えは持ち合わせていないので、
水浴びで汚れを落とし食堂にやってきたサテラさんは、
僕たちと同じ麻の服を纏っていた。
宿の小間使いの子にチップを渡し、
サテラさんの服の洗濯を頼んでおいた。
主人を奴隷服のまま聖都に帰すなんて事は出来ない訳で・・・
食事は豆を煮込んだスープと黒パン。
味付けが塩だけってうのはマーサさんの料理と変わらなかった。
不味くはないが旨いと言える代物でもない。
どんな生き物の内臓なのかわからないけど、
臓物の煮込みだけはまぁまぁかな。
サテラさんは臓物が苦手らしい。
さっきからスプーンで器を掻きまわしているものの、
いっこうに口が開かない。
こまり顔のサテラさんも素敵だ。
「・・・まったくひでぇ話だなあ」
大きな声とともに、大柄の男たちが食堂にやってきて酒を注文する。
40~50代と思われる男たちは、
農奴頭の不幸を聞きつけて顔を出した近隣の農奴頭たちのようだ。
最近、魔獣や魔族の襲撃がなかったらしく、
一応に今後の輸送への警備について話し合っている。
たまたま居合わせた僕たちが魔物を退治は出来たのだけれども、
次にまた同じ敵が襲ってこないと居合う保証はないのだ。
この村でも、夜通し見張り番が村の出入り口を見張ることになっていた。
「・・・それで助かったのはガキがふたりだけって本当か?」
「ああ、一人は農奴頭の奉公人だったけど、もう一人は頭の弟のところの奉公人だってよ」
「年はどちらも14才だっていってたなぁ」
「生きて帰れても、ふたりで明暗が分かれちまうとはなんとも・・・」
あの荷馬車を操車してくれた子は14才だったのか。
見た目は随分幼かったように思えたのだけれど。
奉公人といっても、身分としては奴隷の奴隷なのだ。
栄養状態は決して良いとは言えなかったのかもしれない。
宿泊している僕たちの飯でさえも、
薄い塩味のスープにいつ焼いたか分からん拳骨せんべいみたいな黒パンだ。
煮込み料理に関しては、どんな生き物の臓物なのか、
聞いた瞬間リバースしてしまうことだろう。
あの少女たちも大変な目にあった後だ。
僕だって精神のバランスが変になるくらいなのだ。
彼女たちのむメンタルケアはどうなっているのたろう。
「サテラさん。明暗が分かれるってどういう意味ですかね」
僕の質問がよほどおかしかったのか、
まじまじと僕の目を見てその真意を伺っているようだ。
「主人が死んで奴隷が生き残るっていうのは、あり得ない事なんだよ」
「それはまぁ、僕もサテラさんが飛び出して行っちゃったときは焦りましたからわかりりますよ。ご主人様を守れない奴隷なんてありえないって思いました」
「ありがとうボーズくん。キミとは聖都までの期間限定の主従関係だけど、すごく嬉しかったよ♪」
「なんなら僕をサテラさんのお婿さんにしてくれたら一生忠誠を使いますけどぉ!よろしければ靴を舐めます」
ぐさっ。
左手の指と指の間にフォークが突き刺さっている。
「・・・ほんの冗談ですよ」
一瞬だがすごい殺気を感じた。
忘れていたが、彼女は聖騎士。
すごく強い女性だった。
「それで主人を守れなかった奴隷はどうなるんですか?」
「・・・忠義を果たせなかった奴隷は売られるのが常よ」
「売られるって、新たな主人にってことですか?」
「・・・もっと酷いところってしか言えない」
サテラさんの顔色みれば、
どんなに酷いとこなのかは容易に想像することが出来た。
奴隷制度が存在するこちらの世界では、奴隷に人権はない。
それが常識であり、奴隷の女の子を心配している事の方が非常識なのだろう。
そんな非常識な事を質問してしまった僕はもっと非常識であり、
サテラさんにも嫌な事を説明させてしまった。
魔物に襲われて酷い目にあう女の子。
助かったとしても酷い目にあう女の子。
ふたつの運命の分岐をどう選択したとしても、
ココロとカラダの両方に大きな傷を残す事しかないんて、
なんと不自由な選択肢なのだろうか。
「そうそう、農奴頭の弟さんが馬を提供してくれるって。キミにもお礼がしたいって言ってたわよ」
そういうと、テーブルの上に置かれた麻袋から、
魔物を退治した時得ただろう深紅の魔石が5つ。
僕の目の前に差し出された。
「キミの成果。レベル30オーバーのリザードマン5体を一瞬だよ。いったいどーゆー魔法なの?それに今回のは自動追尾の魔法だったよ。レベル30の魔法使いでもギフト持ちにしか出来ない芸当なのに・・・」
「この魔石って幾らくらいになりますかね」
「うーん、聖都だと、この純度の魔石は1つ金貨5枚~8枚くらいになるかな。全部合わせると30枚にはなると思うよ」
「サテラさん。お願いがあるんですけど・・・」
「欲しいものがあるの?この村にお店があればキミの好きにしていいよ」
それじゃ遠慮なく。
「あの奴隷の女の子買ってもいいですか。金貨30枚以内で僕のモノになりますかね?」
「・・・最低」




