03
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灯の行きつけの喫茶店で杏路と一緒に頼んだチーズマカロニグラタンと奏の頼んだティラミスを少し分けてもらって遅い昼食を済ませると、柊達は離れではなく団体戦が行われていた総合グラウンドへと向かった。
柊達の乗る車が会場に着いたのは、時間的には表彰式と閉会式が終わった頃だったので、多くの関係者達で賑わっていた。先に降りた奏の手を借りて、柊は車から降りる。
周りにいる人間は全員朽木家の人間かその守役なので、微笑ましげに眺めたり目が合うと小さく手を振られたりする事はあっても不躾に眺められたり好奇の視線に晒されたりする事も無いので柊は安心して人混みを擦り抜けて自分の守役達がいるブースに辿り着いた。
杏路と手を繋いで近づいて来る柊に気が付いた燕は、真っ先に走り寄って行って柊の両脇に手を差し込んで柊の体を空高く持ち上げると、そのままその場でくるくる回りながら声を張り上げる。燕の行動に、同じく柊の姿に気が付いた人達は駆け寄ろうとしていた足を止め、顔を見合わせた後は微笑ましげに二人の様子を眺めながら雑談に戻る。
「ひぃ様、ちゃんと優勝しといたっすからねー」
燕はそう言って回転していた体を止めて、抱っこに切り替えた柊の顔を覗き込む。
「ありがと」
「いえいえ、体はもう大丈夫っすか?」
「ん、もう平気」
そう言って柊は、燕の首筋に自分の腕を回しそっと抱きしめた。
「大丈夫、急に消えたり、しないから」
周囲に聞こえないように囁かれた柊の言葉に、燕は小さく息を詰める。周りの人間が気付かないくらいに震えた腕で、柊の小さく頼りない体を燕は力強く抱きしめた。
燕の様子に気付いた杏路はさりげなく周りの視線から遮るよう移動し、燕の背中に掌を当て、奏は笑って燕と、ついでに柊の頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。
周りから見るとただ仲間内でじゃれているだけのように見える様子を呆れたように眺めている蒼士の頭を、その後ろにいた灯が勢い良く叩いた。
「っ何をする!」
いきなりの事に文句を言おうと振り返った蒼士は、自分を叩いたのが灯だと知って続く言葉を飲み込み、困惑したように見つめた。
灯は声を出さずに蒼士にアホと言ってもう一度軽く頭をはたくと、柊達のいる方へ歩いて行ってしまった。……余計に混乱する蒼士を放置して。
その様子に気が付いた柊は、燕から見えないように灯に親指を立ててみせた。
気が付いた奏と杏路も蒼士の混乱ぶりにひっそり笑っている。
「さてと、帰るか」
「そうですね」
燕が杏路に借りた櫛で整えた頭を再度ぐしゃぐしゃにしながら、灯が声を上げる。
「今日の夕食は柊ん所の優勝祝いだからな、俺のおごりだ!好きなだけ食っていいぞー」
「まじっすか、灯様太っ腹ー」
「おう、帰りがけにデパート寄るから、何が良いか考えておけよ」
言われた燕だけではなく周りにいた柊と灯の守役まで一部で歓声を上げている。
「確か近くに華村のデパートがあったろ?」
「え!そんな良いとこ行くんですか?」
「こんな時に贅沢しねぇで何時すんだよ」
そう言ってニヤリと男臭く笑った灯に、燕が腕の中の柊ごと笑って抱きつく。
「今なら灯様に抱かれても良いっす」
「よし、今夜は俺のベットで待ってろよ」
「マジっすかw」
「良い夢見してやんぜ」
後ろからやって来た飛沫が呆れたように燕から柊を取り上げる。
「子供の教育に悪いので、その手の冗談は他所でやって下さい」
飛沫はそれ以上は言わずにスタスタ駐車場の方へ歩いて行く。
灯はその後を着いて行きながら、ようやく思い付いたように頷くと呟いた。
「あいつ柊が転生者って知らねぇわ」
「え、言ってないんっすか?」
「普通に忘れてたな」
「そうなんですか?弥生さんは気付いてそうでしたが」
「あいつは先に言っといたんだよ、何かあった時に便利だからな。飛沫には後で言っとこうとして忘れてた」
「灯様……」
「まぁ、その内話しとく」
「いやー、でも、子供の教育って……」
「やめろ」
「あの強面から母親みたいな言葉放たれると、かなりのパワーワードっすよねぇ……」
吹き出した事を誤摩化す為に不自然に灯と奏が咳払いする音を聞きながら、柊と目を合わせた飛沫は困ったように薄く笑みを浮かべ、小さく息を吐いた。
「……この距離だと、全部聞こえているんだが」
柊は微笑んで飛沫の頭を優しく撫でてあげる。
「ありがとう、気にしていないから大丈夫だ」
飛沫はお返しに柊の頭を撫でてから、背後を振り返った。いきなり振り返った飛沫に一瞬焦った表情を浮かべた若干名を無視しつつ、灯に声をかける。
「車、どう分けますか」
「あー、そうだな……3つに分けっか」
「メンバーはどうしますか?」
「ここにいるのと後は弥生引っ張って来てこっち来た車乗れば良いだろ?後ろの奴らは空いてるとこ適当に詰め込んどけ」
「分かりました」
灯の言葉に頷いた飛沫は横にいた杏路に柊の体を預けて後ろの方を歩いている他の守役達の所に歩いて行こうとしたが、少し進んだ所で立ち止まってクルリと振り返った。
「あぁ、言い忘れていた」
進んでいた足を戻して、飛沫は奏と燕の肩に優しく手を置いて笑いかける。
「残りの休みは道場でお前達の稽古も見てやろう」
二人が反論する前に飛沫は肩を掴む手に力を込めて微笑んだ。
「勝って兜の緒を締めよ、と言うしな。遠慮はいらない」
そう言って飛沫は二人の肩をぽんぽん叩くと、今度こそ本当に立ち去った。
「えぇー……飛沫さん、もしかしなくても、怒ってました?」
「俺、緋野じゃなくて良かったわ」
「えー、それは無いですよ奏さん。一緒に逝きましょうよー」
「ぜってえ漢字が違うだろ、それ」
「気のせいですってー」
ぎゃーぎゃー言い合っている二人に、追いついた守り役達が不思議そうな顔を浮かべる。
灯が笑って「飛沫に稽古付けられたいやつは混ざって来ると良いぞー」と言うと、全員綺麗に目を逸らして近くにいる人間と会話を始める。
柊は杏路の腕の中から燕の頭に手を伸ばして優しく撫でる。
嬉しそうにパッと顔を上げた燕に柊が「頑張って、ね」と小首をかしげると、燕はショックを受けた顔をして杏路の足下にしゃがみ込んだ。
「と言うか話聞こえてたのか?」
「普通に、聞こえてたよ?」
柊の言葉に、燕が今度はどんよりした雲を背中に張り付かせ始めた。
「柊の話ん所も聞こえたか?」
「ん、大丈夫。結構最初の方で、気付いてたから」
「そうだったのか?」
「うん」
そこで飛沫の運転する車が柊達の目の前に滑り込んで来た。後続の二台の車は、蒼士と零が運転しているようだ。柊達が目の前の車に乗り込むと、飛沫は静かに車を発進させた。
柊が助手席に座った杏路が飛沫に代わってカーナビをセットしている所を燕の膝の上から眺めていると、右隣に座っている弥生が額に掌を当てる。
「まだ大丈夫そうだな」
弥生のひんやりとした掌に柊が目を細めると、右隣にいる奏が返事を返す。
「どちらかと言うと、問題なのは夜だからな」
「そうか」
弥生の手が柊の額から離れた所で、背後の燕が柊の頭にそっと顎を乗せる。
「ひぃ様、何て言うか育ったっすよねぇ」
「何でそれを実感すんのが今なんだよ」
「いやー、何かふと、前はもっと小さかったよなーって思ったんっすよ」
奏は笑いながら燕の頭を小突いた。
「いやだって、前は俺の胸のここら辺までしかなかったんっすよ?」
そう言って燕は自分の胸元を掌で示した。
「まぁな、俺が丹誠込めて育ててっからな」
「柊は野菜か」
「まぁ、一番柊の成長に貢献してんのは、杏路だけどな」
「あぁ……」
納得したように全員が頷いた所で、杏路は笑いながら口を開いた。
「ありがとうございます。それはそうと、もうすぐ到着ですよ」
*宜しければ「君の瞳が瞬く明日。」ムーンライトノベルズにて連載中です。
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