04
杏路の言葉を聞いた燕は柊の体を膝の上で反転させると、向かいに座った灯から渡されたコートを着せる。ついでに自分のマフラーもしっかり柊の首に巻いて満足げに頷いた。
「特別に貸してあげるっすよ」
「……ありがと」
柊がもふもふのマフラーに顔を埋めながらほわりと笑うと、燕に無言で思いっきり抱きしめられた。もちろんきちんと力加減はされているので柊はそのままじっとしておく。
「良いからお前も、さっさと出ないと置いてかれるぞー」
車から降りた奏にあっさり柊を引き剥がされた後に、燕も急いで車から降りた。
先に歩き出した灯と弥生の後を柊を抱いた奏と燕がゆっくりと追いかける。
「食品は地下だな」
「何食うかちゃんと考えてるんだろうな?」
「とりあえず肉と糖分さえあれば、何でも良いっすよ」
「まあ、そんなもんだよなぁ」
「ここって、何か俺等でも知ってそうなとこ入ってましたっけ?」
「四季グループ系列の店が入ってんぞ」
「確か今の時期だと期間限定で桔梗屋のきなこもちクレープが入ってなかったか?」
「えー、何処っすか」
灯達が案内板の前で固まってわちゃわちゃ話していると、後続の車から降りて来た人達も合流したので、結構な大所帯になった。
「この人数が固まってっと邪魔だな」
「連れて来といて酷い……」
「とりあえず、車組を更に2つに分けるか」
灯は柊を奏から抱き上げて杏路に渡し、後続の人間も適当にまとめる。
「こんなもんだろ?」
「え、俺等この3人で行くんっすか?」
飛沫と一緒に行動する事になった燕が声を上げる。隣の奏も若干気まずそうにしている。
「何だ、嫌なのか?」
「あーいや、何でもないっす!」
燕が慌てて飛沫に向かって否定している横をすり抜けながら、灯はそう言いおいてさっさと中に入って行く。それを見た他の人間達も案内板を確認してから動き始めた。
「買ったもんのレシートはちゃんともらってこいよー」
最後にそう締めくくって灯は柊を抱っこした杏路を連れて適当に歩く。
「俺達はどっか入って茶でも飲むか」
「フードコートなら1階にありますが、飲食店街なら7階ですね」
「上がんの面倒くせぇから1階でいいだろ」
前にも来た事のある杏路の案内に従ってデパートの中を進んで行く。
「もっと混んでっかと思ったが、そうでもないな」
「普通のデパートなら福袋とかで混むのかもしれませんが……」
「あー、まぁこのレベルの店じゃそんなもんやんねぇだろうしな」
雑談を交わしながら辿り着いたフードコートは、清潔感があって落ち着いた雰囲気だ。
「何か食いたいもんあるか?」
灯りに言われて入っている店舗を見渡してみたが知っているお店の名前はあまり無いので良く分からなかった柊は杏路を見る。
「そうですね、前に頂いたチョコレートのお店なら如何ですか?確かここのジャンドゥーヤ、お好きでしたよね?」
杏路の腕の中で柊が軽く頷くと、灯はその店に向かって歩き始める。
「じゃあそこにすっか」
「灯様は甘いもので宜しいのですか?」
「ついでに隣でバーガーでも買うから気にすんな……お前も食うだろ?」
「えぇ、ではお言葉に甘えます」
柊達が有名なチョコレートブランドのお店を覗くと、他にもチョコレートを使ったスイーツが色々と並べられていたので、灯と柊はドーナツとプチケーキをいくつか選んだ。
トレーは運びにくいので持ち帰り用にしてもらい、杏路が紙袋を受け取る。灯を追って杏路と柊が隣の店舗の中に入ると、カウンター横のメニュー表の前で立ち止まっていた。
「ガッツリ行けんだろ?ポテト大盛りにしようぜ」
「大丈夫ですよ」
「知ってたか?大盛りだけチーズ2倍に出来んだよ」
「いえ、知りませんでした」
「俺はベーコンチーズにでもすっかな……決まったか?」
「はい」
灯はカウンターの中で杏路と柊の組み合わせにポーっとなっている店員の目の前で掌をひらひらさせ、注文をすませる。杏路と柊は待っている間に先に戻って良いと灯に言われたので、杏路と柊は店からさほど離れていない場所で空いている席に座る。
柊を隣の椅子に座らせた杏路は持っていた鞄から取り出したおしぼりで柊の手を拭いて、紙袋から取り出した温かいロイヤルミルクティーを柊に渡すと灯と自分の分のホットコーヒーをテーブルに置いた。
少し経った所で灯が両手にトレーを持って出て来たので、柊は心の中で呼び掛けてから小さく手を振る。気が付いた灯は真っ直ぐ柊達のいるテーブルに近づいて来た。
「おー、待たせたな」
「私の分まで運んで下さって、ありがとうございます」
灯は何も言わずに笑ってトレーを机に滑らせてから、柊の頭を撫で、椅子に座った。
「柊も食えそうなら先にこっち食え」
さっきは起きたばかりであまり食べられなかったので、柊は灯の言葉に頷いた。
「揚げたてだから気をつけろよ」
そう言って灯はたっぷりのチーズが掛かった大盛りの皮付きのポテトをフォークに刺して、全体を覆う程かかったチーズを落とさないように気を付けながら柊の口元に運ぶ。濃厚なチーズの絡むほくほくのジャガイモは絶妙なバランスの塩気でとても美味しかった。
「美味いか?」
柊が灯からフォークを受け取って小さな口でもきゅもきゅ食べながら頷く。
「こっちもいるだろ?」
そう言って灯が指したバーガーは柊の小さな口では入りきらないくらいボリューミーなので、灯と杏路はナイフで少しずつ切り分けてから一口づつ柊に分けてくれる。
ちなみに、灯が頼んだのはふわふわのバンズにレタスとチーズたっぷりの肉厚なパティ、トマトと分厚いベーコンが挟まったベーコンチーズバーガーで、杏路が頼んだのはしっかりとしたバンズに照り焼きチキン、たっぷりのレタスとオニオンリング、スライスしたサラミをこれでもかとぎゅうぎゅうに挟んだチキンとサラミの照り焼きバーガーだ。
柊がゆっくり食べている間に、灯と杏路はあっという間にトレーの上を片付けてしまった。綺麗な動作で食べ進めていたので気が付いたら無くなっていて柊は少し吃驚した。
食べ終わったトレーを重ねて、杏路が紙袋からドーナツとプチケーキを取り出す。
「お、燕からメールだ」
「何か言っていますか?」
「買い物はもう済んだからこっち来るってよ、大会で動き回ったから腹が減ってんだと」
「私と奏の分の昼食も食べた筈なんですけれどね」
「とっくに消化しちまったんだろ」
柊は灯に渡されたドーナツを両手で受け取り、小さな口で齧りついた。柊の食べたドーナツはもちもちの生地の中に濃厚なチョコレートソースが入っているものだ。
中に入っているチョコレートソースはジャンドゥーヤで、そろそろお腹いっぱいになって来た柊がもう一口ねだるくらいには好みの味だった。
食べ終わった柊達が飲み物を飲みながらまったりしていると、買い物の終わった燕達が合流した。どうやら全員で来たみたいだ。柊達のいるスペースの周りの空いている席に荷物を置いて、各々好きな場所に並びに行った。
夕飯までは3時間程しか無いので大抵の人間は軽食かデザートを1つくらいで済ませていたが、大食いの面々は灯と杏路のようにガッツリ頼んでいる。
「3人はずっとここにいたんっすか?」
「どうせお前達が俺等の分も選んでるだろうからな」
「まあ間違えじゃないっすけどねー……あ、ちゃんと杏路さんの分も選んであるっすからね!」
「そうですか、ありがとうございます」
「きなこもちクレープ、ひぃ様の分も買ってあるっすからねー」
そう言って燕は付け合わせのマッシュポテトの最後の一口を、柊の口に入れる。
「ん……ありがと」
「ごちそうさまでした」
*ブックマーク&評価&感想、ありがとうございます。




