*ドイツからの来訪者
週末に顔合わせをする事になったので、金曜日の夜から本家の離れへ泊まる事になった。
なので、柊達は学校が終わったらそのまま本家に向かう事にした。
ちなみに今日の守役は奏と杏路と珊瑚が担当している。
灯は1週間前からフランスに行っているので、本邸では葉が出迎えてくれた。
夕方前で夕食まではまだ時間がある為、柊は葉と一緒に近所の本屋へ手を繋いで向かう。
「少し、背が伸びたか?」
「1cmだけ」
「そうか」
「ん」
「顔合わせには私も同席するから何も心配しなくて良い」
「ありがと」
「灯も私もあの子の人柄は良く知っているし、柊もすぐに仲良くなれるだろう」
柊は返事の代わりに葉と繋いだ手に少しだけ力を込める。
葉が笑って握り返した所で、目的地に着いた。
本屋の中にある文房具売り場でレターセットを選んでいる葉の横から柊も覗き込む。
「誰に書くの?」
「フランスにいる灯と京にな、柊も何か書くか?」
「うん」
「そうか、気に入った柄を見つけたら持って来ると良い」
「わかった」
柊は頷いてから葉と繋いでいる手を離して自分の分のレターセットを探す。
柊は真剣に選んだ結果、便せんの隅に黒猫が描いてある物と、桜と小鳥のデザインされたクラフトタイプのレターセットにした。黒猫が灯で桜と小鳥が京に書く手紙の予定だ。
選んだレターセットを持って筆記用具コーナーでインクを選んでいる葉の元に行く。
柊が葉に声を掛けようとしたらちょうど振り返ったので、そのまま選んだレターセットを差し出す。受け取った葉は自分の分と一緒にカゴに入れてから柊の頭を撫でた。
「本も見て行くか?」
「大丈夫」
「なら郵便局で切手を買って帰ろう」
「ん」
「今は切手も色々な柄があるからな、柊が選ぶと良い」
手を繋ごうとしたが、葉の手は塞がっているので代わりに柊は着物の裾をそっと掴んだ。
柊は清算を済ませた葉と手を繋ぎ直し、郵便局へ向かって綺麗な海月の柄の切手シートを購入した後は、隣のコンビニで守役の分もデザートを買って帰る。
本邸に着くと才と夏目は仕事で、茜はクラブ活動で到着が遅くなると連絡が入っていたので、柊は葉と守役の奏と杏路と珊瑚と一緒に先に夕飯を済ませて早めにお風呂に入った。
湯上がりの少し火照った体で葉とゆっくり散歩をしていると、縁側に人影が見えた。
突然立ち止まった柊の視線の先を辿って人影に気が付いた葉は、縁側で寝転んでいる人に近づいて行く。柊は葉と手を繋いでいるので、必然的に一緒に近づく事になる。
側まで近づく内にはっきり見えてきた人物は、ダークグレーのスーツを着て緩くクセのある金髪を首の横で雑にまとめた男性の様だ。葉と柊の足音に気が付いたのか、その人は顔の上に乗せられていた雑誌をどかしてその場に勢い良く起き上がった。
『なんだ、葉さんか』
『着くのは明日じゃなかったのか?』
『チケットの予約を間違えられたんだ』
『そうか、災難だったな』
『まぁ、早まる分には大歓迎だから良いけどな』
そこまで話した所でやっと葉の影から自分を見つめる柊に気付いた様だ。
『写真で見たよりも可愛いな』
『……ありがとう』
『!ドイツ語、話せるのか』
『灯ちゃんに教えてもらったから』
『そうか』
『初めまして、柊です』
『俺はリヒャルトだ、気軽にリトと呼んでくれ』
『リトさん?』
『出来たら呼び捨てで呼んでくれ。敬語も別に使わなくて良いぞ』
『わかった』
『俺も柊って呼んで良いか?』
『良いよ』
リヒャルトは嬉しそうに笑って縁側から立ち上がって側に来る。柊が13才にしては高い身長とがっしりとした体格に少し驚いていると、脇に手を入れて抱き上げられた。
『思ったよりも軽いな』
頬に優しくキスをされたので、柊もお返しにリヒャルトの頬にキスを返す。
リヒャルトはそのまま葉の頬にもキスの挨拶を済ませると、日本語に切り替える。
「顔合わせは終わりって事で良いか?」
「そうだな、この週末を一緒に過ごして問題が無ければ才の所に居候させて貰うと良い」
「わかった」
柊は何となくリヒャルトのぐちゃぐちゃになった髪を整える。
緩く流した髪をまとめて綺麗にリボンを結び直すと、リヒャルトに額にキスされた。
「リトはキス魔だからな、嫌なら嫌とはっきり言って良い」
「その言い方だとまるで俺が変態みたいじゃないか」
「大して変わらないだろう?」
「俺はただ可愛いと思ったものに惜しみなく愛情表現をしているだけだ」
そう言ってリヒャルトが柊に笑いかけて来たので、柊は小さく首を傾げてみせる。
「まあ良い、夕飯は食べたのか?」
「いや、まだ食べてない。さっき着いたばかりなんだ」
「稲穂はどうした?」
「あいつなら部屋に荷物を置きに行った」
「せっかくだからこっちで食べると良い」
「わかった、連絡してみる」
リヒャルトは柊を右腕に座らせる様に抱え直すと、そのままスマホで電話をかけ始めた。
「稲穂か、今何処にいる?」
「庭で休んでたら葉と柊に会ってな、夕食は離れで取る事になった」
「ああ、だからお前もさっさと来い」
「俺は先に移動してる」
「わかってる、じゃあな」
電話の向こうではまだ話していたが、リヒャルトは最後まで聞く事無く通話を切った。
「じゃあ、行くか」
「2人で来たのか?」
「ぞろぞろいても鬱陶しいだけだからな」
「ヨナスはどうした」
「予定通りの飛行機で来ると思う」
「飛行機に乗る前にメッセージは入れた」
「なら良いが」
リヒャルトは縁側に放置していた鞄に雑誌を仕舞い、離れの方に移動する。
思ったより安定感があるので、柊は安心して抱っこされたまま移動する事にした。
柊達が離れの玄関をくぐると、杏路が外に出ようとしている所だった。
「お帰りなさいませ」
「何処か行くのか?」
「いえ、柊と葉様を迎えに上がろうと思っただけですので」
「何か問題でもあったか?」
「リヒャルト様が既にお着きだと連絡が入りましたので」
「そうか、会った時に連絡を入れておけば良かったな」
「問題ない様なので、お気になさらないで下さい」
「悪いがリトの分の食事を頼んで来てくれるか?」
「畏まりました。用意できましたら運びますので、リビングでお待ち頂けますか?」
「急に押し掛けて悪いな、リヒャルトだ」
「柊の守役筆頭で緋野 杏路と申します。よろしくお願いします」
「堅苦しいのは苦手でな……出来れば砕けてくれて全然構わんし、リトと呼び捨ててもらえるとありがたい」
「そうですか、ではリトと呼びますね」
「あぁ、よろしく」
リヒャルトは杏路が差し出した手を握ってから自然な動きで杏路の頬にキスをした。
「言い忘れていたが、それはキス魔だ」
「大丈夫ですよ、事前に情報は入っていますので」
笑ってそう言った杏路はリヒャルトの頬にお返しのキスをして、リビングまで案内する。
「灯か?」
「ナターリア様ですよ」
「おばあ様では、文句は言えないな」
「灯様からは"問題ない"とだけ」
そう言ってリビングの扉を開けた杏路はその場で軽く一礼した。
「では用意して来ますので、少々こちらでお待ち下さい」
「あぁ、悪いが頼んだ」
リビングでくつろいでいた奏がソファーに飲み物のセットをしながら挨拶をする。
「初めまして、柊の守役で奏だ」
「俺はリヒャルトだ。気軽にリトと呼んでくれ」
「了解」
リヒャルトは奏の頬にもキスを贈ろうとしたが、腕の中の柊がそっと口を塞いだ。
「おっと、悪いが俺の恋人は嫉妬深いんだ。ありがとな、柊」
「そうなのか、では握手だけ良いか?」
「あぁ、これからよろしく」
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