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夕食の時間になったので、柊は読み終わった本を片付けて地下の遊戯室から奏と杏路と一緒にダイニングへ移動する。
ダイニングには本邸から帰って来た灯とアトリエに籠っていた弥生と柘榴も居た。
柊は杏路と手を繋いだまま灯の隣に座る。
「昨日は帰って来れなくて悪かったな」
「ううん、皆は元気だった?」
「あぁ、鬱陶しいぐらい元気だったぜ」
「そう」
「ギリギリまでは本家に居るみたいだったぜ、柊も最終日まではここに居んだろ?」
柊は少しだけ首を傾げて反対隣に座った杏路を見上げる。
「一応、その予定で居ます」
「なら帰んのは31日の午後で良いか」
「そうですね」
今後の予定を軽く話し合っている所にルイスが飲み物を運んで来た。
「まだ揃ってらっしゃらない方もいらっしゃいますが、食事の方はどうされますか?」
「別にそこまで腹は減ってねぇから揃ってからで良いぜ」
「かしこまりました」
まだダイニングに揃っていないのは杏と珊瑚と蒼士なので、柊は作業に夢中で時間に気付いてない可能性を考えて珊瑚にはメッセージを送っておく事にする。
「珊瑚か?」
「ん、今メッセージ送った」
「そんならすぐ来んだろ」
「蒼士は?」
「あいつなら厨房に居んぞ」
「そうなんだ」
柊が冷たい緑茶で一息ついていると、ダイニングの扉が開いて杏と珊瑚が顔を出した。
「補助器の調整してたら遅くなった、済まない」
「別にそこまで待ってねぇから気にしなくて良いぞ」
灯が片手をひらひらさせながらそう言うと、杏は安心した様に息を吐いて柘榴の隣に座った。珊瑚も灯の向かいの席に座って挨拶をする。
「お邪魔してます」
「おう、変に畏まらなくても気にせず好きに過ごして良いぜ」
「はい」
口が動いている訳じゃないのに声が聞こえる不思議に柊が珊瑚を見つめていると、気が付いた杏が丁寧に説明してくれた。
珊瑚が付けてるチョーカーには喉の動きと脳波を感知して音に変換する機械が埋め込まれているらしい。ちなみに流れている声は失う前の声の録音から組み立てたものだそうだ。
「と言っても、珊瑚の場合は元々ほとんど話さないから無くてもあまり困らなそうだけどな……」
「そうなん?」
「あぁ、基本的に無口無表情がデフォルトだからな」
「チャットでは結構話してるイメージがあるんやけど」
「ネット弁慶っつうのか?チャットと現実は別人ってタイプだな」
「さっき一緒に作業している間も表示された言葉と落差があり過ぎて、一瞬別人かと思ったからな」
「また面白いのが増えたな」
灯がそう言って笑った所で、ルイスと蒼士が厨房から夕食を運んで来た。
夕食の献立は、すき焼きだ。付け合わせには夏野菜の温玉シラスサラダとほうれん草の白和え、胡瓜、白菜、茄子の漬け物が用意してある。
ルイスはほっとくと肉しか取らない灯と蒼士の皿に野菜を盛りながら器用に自分の分もしっかり確保していて、弥生と奏と柘榴は静かに肉の争奪戦を勃発させながらもバランス良く食べている。杏と杏路はバランス良く食べているが量がおかしいし、珊瑚は地味に焼き豆腐だけを黙々と消費しているので、作った端から綺麗に無くなって行く。
ちなみに柊には、杏路が美味しそうに煮えた具材から柊が食べれるものだけをタイミング良く皿に入れてくれるので食いっぱぐれないで済んでいる。
「灯様も蒼士さんもきちんとお肉以外のものも食べて下さい」
「……分かってる」
「あ?好きなもん食わねぇで何食うんだよ」
「あっ、それは俺が温めてた肉だぞ」
「そんなん言われても名前が書いてあるわけじゃなし、早いもん勝ちやけん」
「そもそも、弥生さんはそっちの鍋から食べて下さいよ」
「杏と杏路の胃袋に勝てる訳無いだろ」
「珊瑚は豆腐以外も食え」
「お肉はあまり好きじゃないから……」
「柊、こちらはもう良い頃ですよ」
「ありがと」
大食い組も満足した頃にルイスがデザートの高級カップアイスを人数分運んで来た。
「珊瑚さんの差し入れて下さったアイスです。喧嘩しないで選んで下さいね」
「面倒くさいから自分の食べたい味を指差して被ったらじゃんけんって事でいいだろ?」
灯の掛け声で一斉に指を指すと、灯はマカデミアナッツ、ルイスはリッチミルク、弥生は甘夏、杏はラムレーズン、奏はグリーンティー、蒼士はストロベリー、杏路はラムレーズン、柘榴は黒蜜&きなこ、珊瑚はバニラ、柊はクッキー&クリームと綺麗にばらけた。
「おや、綺麗に別れましたね」
「こんだけ居たら普通は被る奴が出るんだけどな」
「珍しいですね」
気になる味を1口づつ交換したりして、仲良く食事は終わった。
後片付けの為に残ったルイスと杏路と蒼士以外の全員はリビングに移動する。
柊はテーブルの前で胡座をかいた灯の足の上に座らされた。
「こないだ頼んだ絵の試作品、ついでに貰って来たけどやるか?」
そう言って灯はテーブルの脇に置いてあった紙袋から大きな黒い箱を取り出す。
「頼んだ絵って何ですか?」
「柊のテディベアのお礼にナターリエんとこに送るパズルの絵だ」
「俺がアトリエで見せてもらった絵か?」
「そう」
「ナターリエ様ってパズルがお好きなんですか?」
「あぁ、かなりの数コレクションしてるぞ」
「初めて知りました」
「俺達も一緒にやって良いですか?」
「良いぞ。かなり難しめに作ったらしいからな」
片付けの終わったルイスと杏路も混ざって、完成の絵を知ってる灯と柊、スマホゲームに忙しい珊瑚以外の全員で挑戦する事になった。暫く奮闘していたが、かなり難易度が高く作られている様で、結局1時間半ほどかかっても全然完成しなかった。
「だめだ、難しすぎる」
「大体4/1程度と言った所でしょうか?」
「角のピース以外はほとんど分からねえな」
「これプレゼントした所で作れんのか?」
「もっと複雑な物も飾ってたから、大丈夫だろう」
「なんや、こんまいの見とったら目ぇ疲れてしも〜たわ」
「俺も」
「柊、珊瑚、お前等もやってみるか?」
灯の膝から降りた柊と声をかけられた珊瑚は床の上にピースを全部適当に並べて暫く眺めた後、迷う素振りも無く正確にテーブルの上のパズルの隙間を埋めて行く。
結局途中で手が止まる事もなく、7人で1時間半かけて頑張っても完成しなかったパズルを、柊と珊瑚はたった2人で20分もせずに完成させてしまった。
「俺等の苦労って……」
「どうやったらそんなの速度で完成できるんだ?」
「残部のピースを把握して頭の中で組み替えればできる」
「うん、無理だな」
「俺は方法よりも珊瑚が長文しゃべった事に驚いてる」
「長文って言う程でもないと思うが……?」
「うん、まぁあれや!出来上がった絵ば注目したらよか言う事やね〜」
「そうだな」
「この絵は何か意味があるのか?」
「猫と月が好きって、聞いたから」
その後はもう夜も遅くなっていたので、全員で大浴場に入ってから、急いで寝た。
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