10 *8月の第2週
柊が灯や守役の皆と読書をしたりプールに入ったり浜辺で散歩したり映画を見たりと休みを満喫しているうちに、8月の第2週が始まった。
守役は交代で2週間づつの夏期休暇が認められているので、守役の顔ぶれが変わる。
柊の守役は、新しく杏が合流し、奏と燕が継続。杏路は休暇中。
灯の守役は、飛沫と睦月が継続。蒼士が休暇に入り、弥生が休暇中。
杏路はこちらで残りの休暇を過ごす様なので、ついでに杏も連れて戻って来る。
別荘の管理人のルイスを入れて9人が正式な滞在人数になる予定だ。
*
早く目が覚めてしまった柊が灯の腕の中でまったりしていると、柊のスマホが振動した。
ロックを外し画面を確認すると、杏路から到着を知らせるメッセージが入っている。
出迎えの為にベットから出ようとすると、灯を起こしてしまった様だ。
「……今何時だ?」
「6:12だよ」
「まだ早いだろ、もう少し寝てろ」
「杏路から着いたって連絡来た」
「あ?もう着いたのかよ」
軽く溜め息を付いて、灯がベットの上に起き上がる。
「まだ、寝てても良いよ?」
「どうせ7:00には起きるんだ、今起きた所で変わらねぇよ」
灯はそう言うと柊のおでこにキスをして、クローゼットのある方へ立ち去る。
柊もベットから降りて、着替えの為に向かいの部屋へ移動する。
「おはよ」
「おう、はよ。早いな」
「杏路から連絡来たから」
「あぁ、柊の所にも送ってたのか」
納得の表情を浮かべながら、奏は柊の着替えを取りに行く。
「暇ならそこのみの虫起こしといてくれ」
そう言って奏が指差した場所には、薄い上掛け布団に頭から足の先まですっぽりと包まって丸くなって眠る燕がいた。
「燕、朝だよ」
柊が優しく揺すりながら声をかけると、おもむろに2本の腕が伸びて来て柊を上掛け布団の中に引きずり込んだ。
「ん〜」
「燕、起きて」
「あと40分……」
もぞもぞと柊を抱き込みながら唸る燕の頭を戻って来た奏が叩いて、柊を取り返す。
「下に杏と杏路もう着いてんだよ、良いからさっさと起きろ」
「いたっ、奏さん酷いっすよー」
「いつまでも起きてこないのが悪ぃんだよ」
燕の文句を軽く鼻で笑って、奏は柊をそのまま抱き上げて洗面所へ。
柊が顔を洗って持って来た服に着替え終わったら、仕上げに奏が髪型を整える。
今日は少し伸びた髪のサイドを編み込んでハーフアップにした髪型だ。
「奏さんって、器用っすよね」
「まぁ、ちびっ子どもにせがまれて色々やらされたからな……」
奏はついでに燕の跳ねまくっている寝癖も簡単に整えてやる。
廊下で灯も合流してから1階リビングを覗いたがいなかったので外に向かうと、玄関を出てすぐのロータリーにちょうど車が入って来た所だった。
先に出迎えに出ていたルイスが車の後部座席の扉を開けると中から黒髪にブルーグレーの瞳をした長身の男性が降りて来て、そのまま車のトランクの方に向かった。
ルイスと燕が荷物を下ろす手伝いに向かった所で、運転席から杏路も降りて来た。
「おはようございます」
「おはよ」
「一応、あそこでトランクの荷物を下ろしているのが兄の杏です」
「ん」
台車に荷物を積み込む杏は長髪を三つ編みにして後ろに垂らしたツナギ姿で、何となく眠そうな目をした、目元の黒子が色っぽい雰囲気を纏った美人さんだ。
「荷物かなり多いみたいだが、何があんなに必要なんだ?」
「中身はほとんど自分で作った電子機器やら工具ですよ。兄は重度の機械オタクなんです」
「また面白いのが増えたなぁ」
灯が笑ってる所に、杏が大きめのアタッシュケースを手に近づいて来た。
「悪い、精密機器だったから自分で下ろしたくてな」
「気にしなくていいぜ」
「改めて、俺が草薙 杏だ。よろしく主様」
「よろしく」
「申し訳ないが、暫く世話になる」
「あぁ、好きなだけいて良いぞ」
「助かる」
その場で全員の自己紹介と軽い雑談を交わし、館の中へ入る。
杏の荷物を運び込む為に守役組は2階に向かったので、灯と柊はリビングでのんびりする事にする。そこに車を車庫に入れたルイスが戻って来てリビングに顔を出した。
「早いですが、朝食を準備しますか?」
「いや、コーヒーだけ入れてくれ」
「かしこまりました」
ソファーに寝転んだ灯の上に引き上げられたので、そのままの姿勢で一緒に本を読む。
ルイスがすぐに灯のコーヒーと柊の為の甘いミルクティーをテーブルに置いて立ち去る。
先に杏が降りて来て、リビングで仲良く本を読む灯と柊の向かいのソファーに座った。
「仲が良いですね」
「羨ましいだろ」
「はい」
「正直だな」
「御二人には隠しても無駄なので」
「まぁなー」
そこに杏の分のコーヒーを入れたルイスと、2階から降りて来た燕が合流する。
「コーヒーでよろしかったですか?」
「あぁ、ありがとう」
「燕様の分もすぐにご用意致しますね。ミルクティーでよろしいですか?」
「出来たら甘めでお願いします」
「心得ております」
「甘い物が好きなのか?」
「好きっすよ。今いる人だと、ほとんどがそうじゃないっすかね?ひぃ様と灯様も結構な甘党っすけど、飛沫さんと奏さんもかなりの甘党っすからねー」
「そうか、土産に九州名菓を持って来てあるので後で食べてくれ」
「あ、マジっすかー、ありがとうございます」
「俺の事は呼び捨てで良いぞ。敬語もいらん」
「じゃ、遠慮なく。九州名菓って通りもんってやつ、あります?」
「杏路に頼まれたから少し余分に買ってあるぞ」
「あぁ、なら良いっす」
「好きなのか?」
「俺じゃなくてひぃ様がっすけどねー」
「そうなのか」
隣に座った燕に合わせていた視線が柊の方を向いたので、本から顔を出して小さく頷く。
灯は柊の背後で押し殺した様な笑い声を上げて、柊を乗せたまま起き上がる。
「柊の人見知りは全然直んねぇなー」
「……僕も思ってる」
柊としては気付いたら発動しているので気を付けた所で直る訳じゃないのが難しい所だ。
「まあ、警戒心があるのは良い事じゃないっすか?」
「警戒しなきゃならねぇ様な奴を守役にはしねぇだろ」
「それはそうなんっすけどねー……ま、相性もありますから」
灯は柊がバリア代わりにしていた本をテーブルに置いて、柊の体の脇の下に手を入れ持ち上げ、正面に座る杏に差し出す。
差し出された柊が吃驚して固まっている間に、杏の膝の上に移動していた。
「ここにあるのはもう読み終わってんだろ、そいつと他の本でも取ってこい」
「朝食は8時なんで、それまでにはダイニングに集合って事で」
そう言って燕が杏の背中を押して立ち上がらせ、丁寧に床に下ろされた柊と杏の手を繋いで2人の背中を押す。灯と燕に笑って見送られて、杏と柊はリビングを後にする。
「この本は何処の本棚から持って来たものなんだ?」
「1階の遊戯室」
「案内をお願いしても?」
「良いよ、こっち」
柊は繋いだ手を引いて、遊戯室の方へ杏を誘導する。
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