09
ちょうどおやつも食べ終わったので、奏は弥生と相談して来ると部屋を出て行った。
飛沫と杏路と燕もスマホのスケジュール表を照らし合わせて相談を始める。
柊は灯が映画が見たくなったと言うので、途中でリビングのソファーでぼんやり寝転んでいた祈も連れて、一緒に地下の遊戯室へ向かう事にした。
地下室にあるシアタースペースはまるで小さな映画館の様だ。
本格的な音響設備が整えられ、大きなモニターの前にはリクライニングソファーが並べられている。
古い物から最新の物まで幅広いジャンルの映画が揃っているので、どれを見ようか迷う。
3人で気になる物をピックアップしていると、睦月がワゴンを押してやって来た。
「飲み物と軽食の配達です。おつまみも用意しましたが、お酒は召し上がりますか?」
「サンキュー、カウンターから何か適当なの取って来てくれ」
「祈はどうします?」
「じゃあ、何か甘いの〜」
「柊の飲み物は杏路がワゴンの下に色々入れてたので、そこから好きなの選んで下さい」
「ん」
柊がワゴンの下の扉を開けると、カルピスがと炭酸飲料が数種類ずつ用意されている。
初めて見かける味がいくつかあったので、その中からさくらんぼ味のカルピスを選んだ。
飲み物を出すついでに、灯と祈の為に用意されたおつまみと軽食も机の上に並べる。
ミックスナッツの入ったグラスに、生ハムとサラミと4種類のチーズの乗ったお皿、フライドポテトとナゲットの盛り合わせに、ポップコーン(塩バター、チーズ、キャラメル、チョコレート)など、睦月を入れたとしてもこの人数で食べるには多めに感じる量だ。
「沢山あるね」
「大丈夫、あぁ見えて睦月はかなり食べるから」
「そうなの?」
「まぁ、見てれば分かる」
カウンタースペースからいくつか見繕ってきた睦月が戻って来て、お酒の用意をする。
柊のカルピスもミルク割りにして星形の氷を浮かべてくれる。
灯が室内を暗くし、祈がモニターをセットする。
大きな画面に映し出されたのは、最近ネットで話題になっていたホラー映画だ。
誰もホラーは苦手じゃ無い様なので時折雑談や感想を挟みつつ、軽食を食べたりおつまみを少し分けてもらったりしながら鑑賞する。
「思ったより楽しめたな」
「細かい所まで丁寧に演出されていたんで、とても見応えがありました」
「小道具もかなり凝った物が多かったね〜」
「心理描写も完璧だったね」
「そうですね、特に主人公が親友のアパートへ向かう途中のシーンは印象的でした」
「これって続編もうやってるんだっけ?」
「いえ、確か来週からだったはず……」
「これ見ちゃうと、早く続きが見たくなるね〜」
「下にある映画館のプレミアムシート予約しておくか?」
「残念だけど、明日には帰らなきゃいけないんだよね〜」
「どうせまた来んだろ?ならそん時に取れば良いじゃねぇか」
「それもそうだね〜」
「次何見る?」
「今度はアクションとかにしますか?」
柊は大人達が相談している間に、お手洗いに行く事にする。
手早く済ませて遊戯室に戻ろうとしたら、扉の取っ手に手を掛けては引っ込める動作を何回か繰り返し、溜め息をついて振り返った蒼士とバッチリ目が合った。
お互い無言のまま時間が流れる。
暫く待ってみたが動く様子が無いので脇をすり抜けて部屋に入ろうとすると、蒼士が柊の腕を掴んで引き止めて来たが、目が合うとすぐに掴んだ腕は放してくれた。
柊が何か用があるのかと見上げてみても、蒼士は眉間に皺を寄せて黙っている。
「なに?」
「いや……」
蒼士は何かを話しかけたが結局口を閉じ、いっそう眉間に皺を寄せて柊の手に大きめの紙袋を乱暴に押し付けると、そのまま何も言わずに足早に立ち去った。
蒼士が何をしたかったのか良く分からず、柊は少し首を傾げてから室内に戻る。
「おかえり〜」
「ただいま」
「柊、何抱えてんだ?」
「わかんないけど、廊下で蒼士に渡された」
「蒼士に?」
「多分、お詫びの品だろうけど……何だろうね?開けてみよ〜」
「うん」
柊はずっしりと重たい紙袋のリボンを解いて中に入っている物を確かめる。
袋の中には色々な味の月餅に麻花やパンダクッキーなど大量の中華菓子が入っていた。
「ん〜?何でこのチョイス?」
「さぁ」
「多分考えてる内に何渡せば良いか分からなくなって、子供なら甘いお菓子とか思ったんじゃねぇの?」
「ありえますね……それにしても、この量は多過ぎですが」
「こんだけ大量の中華菓子、何処から持って来たんだ?」
「多分下のデパートで買って来たのでは?確か今は中国物産展が開催されてたと記憶しています」
「月餅だけでいくつあんだよ」
「これ、味が違うみたい」
「あ?」
「本当だ、こっちは白あんって書いてある」
「他にも黒あん、クルミ入り、ナッツ入り、ごま、チョコなど色々ありますね」
「食べ比べでもさせたいのかな」
「とりあえず、食べきれないなら今日の昼にでも配れ」
「大丈夫だと思う、奏と燕は甘いの大好きだから」
「自分も甘い物は好きですが、流石にこの量は無理があるかと……」
「そうなのか?」
「んー、このくらいなら多分、余裕だと思う」
「あの2人に食べ尽くされる前に、俺の分は分けといても良い?」
「ん、良いよ」
「共通認識なんですね……」
睦月と柊とで広げたお菓子を袋に詰め直している間に、祈が次の映画を準備する。
今度はアクション物の様なので、部屋はあまり暗くせず少しだけ音量を大きめにする。
大迫力の戦闘シーンやカーアクションを堪能して一通り感想を話し合ったら、ワゴンに荷物を片付けて昼食を取りにリビングへ移動する。
昼食は、映画に出ているのを見て食べたくなったと灯がリクエストしたボリューム満点のパストラミサンドとサーモンチーズやベーコンときのこなどのオープンサンドだ。
散らばっていた他の守役も集まって来て、自分達の分も頼みに行ってる。
「実はずっと食べてみたかったんだよな、これ」
「分かります、見ると食べたくなりますよね」
「似たのはあるけど、出て来る物と全く一緒ってなかなか無いんだよね〜」
「良く材料がありましたね」
「見てる映画のタイトルを確認して、用意しておきましたので」
「おかげで下のパン屋まで買いに行かされた」
「おつかれさまです」
昼食が食べ終わった後は、ソファーにいる奏と燕の間に座って紙袋を開ける。
「何っすか?その大荷物」
「もらった」
「もしかして中身全部菓子なのか?」
「うん」
柊は中に入ってるお菓子を奏と燕に順番に渡して行く。
「こんなに貰っちゃって良いんっすか?」
「食べきれないから」
「これ全部味が違うのか……柊はどれ食ったんだ」
「ごまとくるみは少し貰った」
「じゃあそれ以外だな」
「切り分けるの面倒なんで、回し食いでも良いっすよね?」
「どうせだから全種類味見しないと勿体ないしな」
「で、結局誰から貰ったんですか?」
「蒼士」
「……俺、今ならあの人許せそうな気がします」
「やっすい恨みだなぁ、おい」
「思うだけっすけどね」
大喜びで堪能している奏と燕を見て、灯と弥生と睦月は吃驚している。
「問題なく無くなりそうだなぁ?」
「本当に、お好きなんですね……」
「俺見てるだけで口ん中甘ったるくなって来た」
仲良く分け合っている奏と燕と柊の所に飛沫と祈が近づいて、仲間に加わる。
結局遠くで眺めてた他の人間も加わって皆で食べていたら、あっという間に大きめの紙袋いっぱいに詰め込まれたお菓子はほとんど無くなった。
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