08
ダイニングの扉をくぐると、柊達以外は全員揃っていたので、急いで空いてる席に座る。
本日の朝食は白米にお味噌汁、焼き鮭に出し巻き卵、きんぴら、豆腐、おひたしの小鉢が3種類に浅漬けと梅干しに納豆など、おかずが盛りだくさんだ。
柊は流石に全部は食べられないので、少なめのご飯と焼き鮭と出し巻き卵以外は欲しい人に回す。灯からお礼に好物の鮭を少し貰い、お腹いっぱいになった。
朝食を終えたら飛沫と一緒に書庫に戻って、先ほどの続きに戻る。
手伝いを申し出た杏路と面白がった灯と燕も参加して、イタリアだけでなくドイツやフランスの資料まで持ち出して皆が行った事のある場所の話を聞く。
柊の聞き取りの練習もかねて、灯がドイツ語、飛沫が中国語、杏路がフランス語、燕が英語、柊が覚えたてのイタリア語で話していたので、途中で様子を見に来た奏が顔を引きつらせた。
「邪魔して悪いが、頼むから日本語で話してくれ」
「何かありましたか?」
「いや、ただの様子見と伝言だ。本家から杏路宛に電話だと」
「分かりました」
杏路は手にしていた資料をカウンターに戻し、足早に部屋を出て行く。
「全員違う言葉で話してる様に聞こえたが……」
「ん、聞き取りの練習に」
「良く出来んな、そんな事」
「慣れたら以外と大丈夫」
「さらっと燕が混ざってるのが驚きなんだが」
「流石に全部はしゃべれないっすけど、聞き取るだけなら何とかってトコですかねー」
「地味にハイスペックだよな、お前」
「奏は何なら話せるんだ?」
「俺は英語とドイツ語は話せますかね?読み書きだけならもうちょっと行けます。論文読み込む為に必死になって覚えたんで」
奏は広げられた資料を捲りながら、差し入れのバスケットを空いたスペースに乗せる。
「綾瀬からレモンバームとみかんゼリーの差し入れです」
「これひぃ様がテレビ見て食べたいって言ってた六花堂の限定品っすよー」
「良く買えたな」
「来る途中で店に寄ったら、ちょうど海月さんが出て来てばったり会ったんっすよねぇ。店長と知り合らしくて特別に午後の販売分から譲ってもらっちゃいました」
「それはラッキーだったな」
「まぁ、食べたがってるのがひぃ様じゃなきゃ協力してくれなかったと思うんで、ひい様のおかげっすね」
柊が飛沫と灯と一緒にカウンターの上の資料を隅によせて空けたスペースに、奏が小さめのみかんゼリーとスプーンをバスケットから人数分取り出し、燕はちょうどいい大きさに切り分けられたレモンバームを乗せた皿を配る。
絶妙なバランスのレモンの風味と柔らかな酸味、しっとりふわふわな生地にアクセントとして練り込まれた柑橘ピールの食感を堪能していると、燕が柊に不思議そうに尋ねる。
「そう言えば、蒼士さんが朝食中にひぃ様の事ちらちらと見つめてましたけど、何かあったんすか?」
柊が朝の出来事をそのまま話す。
灯と飛沫は呆れた様に息を吐き、奏と燕はあちゃーとでも言いたげな表情を浮かべた。
「あいつはガキか」
「大方仲直りがしたくて、話しかける機会を伺っていたんだろうな」
「別に、喧嘩してないよ?」
「向こうが一方的に気まずく思ってるだけだから、柊は気にしなくていいぞ」
「どうせ敬愛する灯様が溺愛してんのが面白くないんだろ」
「あの人の場合、敬愛っていうより崇拝って感じですけどねー」
「あー、」
「子供が嫌いな理由だって、弟に大好きな母親取られた気になって嫉妬してるだけなんだろ」
「本当、くだらないっすよねぇ」
何時も笑ってる燕が一瞬無表情になって、冷たく吐き捨てる。
「何か、あった?」
「あの人血の繋がった兄貴なんですよ」
「全然そうは見えないけどな」
「あっちは父親似で俺は母親似なんで」
「本当仲悪いよな、お前等」
「中身が似てるから余計に反発すんだよなぁ」
「同族嫌悪か」
「確かに似たタイプなのは認めますよ。まぁ、俺はあそこまで愚かなつもりはありませんけど」
「今更なんだが、何が原因でそんな事になったんだ?」
「言われてみれば俺もざっくりとしか知らねぇな」
「別に珍しい話でもないっすよ?離婚後に日本帰って来た母親が妊娠してた事が分かったのと、体の弱かった俺の看病で会う約束が何回か流れたとかそのくらいの話っすから」
「あ?思った以上にくだらねぇな……」
「そもそも何故母親と一緒に行かなかったんだ?」
「向こうの婆さんが嫌がったみたいっすよ」
「それにしたって、蒼士が望めば置いて来る様な人では無いだろう」
「確かに、あいつなら元旦那ぶっ飛ばしてでも連れ帰りそうだよなぁ」
「言葉もあまり分からない上に全く知らない土地に行くのはアレだったんじゃないっすか?知らないですけど」
「それが理由ならただの自業自得じゃねぇか」
「で?お前の方はなんでそんなに嫌ってんだ?」
「俺はあの人が全部捨ててこっち来た影響であっちの親戚から粘着されたのが原因っすかねー」
「それまでは?」
「あの人の方が会うの拒否してたんで、無関心ですかね?」
「修復の余地がねぇな」
「必要性を感じた事は今の所皆無っすね。あ、別にひぃ様まで仲良くするなって意味じゃ無いっすよ?ただ俺は絶対仲良くは出来ないって意味なだけで」
「おーい、本性見えてんぞー」
「良いんっすよ、ひぃ様にはとっくに見抜かれてるんで」
燕はそう言って笑いながら、自分のお皿から切り分けたレモンバームを柊の口に入れる。
「奏さん所は兄弟仲どうなんっすか?」
「普通に仲は良いぞ」
「奏さんって上ですっけ?」
「いや、末っ子だ」
「意外だな……てっきり長男かと思っていた」
「って事は、ひぃ様の守役組って下が多いって事っすかね?」
「そう言われればそうだな、綾瀬は一人っ子だし祈りも杏路も弟だし」
「確か珊瑚も弟っすよね」
「柘榴ってどっちだ?」
「あ?あいつは葉の守役にいる棗の弟だぞ」
「上の兄弟って杏さんしか居ないんすねー」
「俺んとこは逆に長男ばっかだぜ」
「そうですね」
「へぇー、飛沫さんって兄弟いるんっすか?」
「弟が1人いるな」
「でも兄貴って言うより父親っぽい感じですよね」
「まぁ、実際こいつ娘いるしな」
「えっ!?飛沫さんって結婚してたんっすか!?」
「いや、結婚はしてない。緋野の素質を持つ子供を引き取っただけだ」
「独身でも引き取れるんっすか?てっきり既婚者だけなのかと思ってたっす」
「本人の希望だったからな」
そこに電話を終えた杏路が帰って来た。
「電話、誰からだったっすか?」
「葉様から残りの守役候補は何時から合流させるかの確認ですよ」
「何時からっすか?」
「8月の第2週が杏、第3週が柘榴、第4週が珊瑚の予定です。休暇希望は何時が良いか2人も考えておいて下さいね」
「じゃあ俺は、弥生と相談すっかなー」
「俺等も後で相談しないとっすね」
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