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ミトスター・ユベリーン 立ち昇る太陽  作者: カズナダ
世界大戦
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残敵処理

 ゼル=ドスツバイ法国 神都『マザー・マジク』・・・。

 ゼル=ドスツバイ法国はヨル聖皇国の西半分やペル帝国同様、広大な魔法地脈が走り魔法研究に力を入れている。そのためヨル聖皇国でも使われている、魔力を何の変哲も無いただの石に宿すことで生み出される『護石』はこの国で発明された。

 火魔法の護石は灯りと暖に、風魔法の護石は盆地で風車を動かし地下水をくみ上げるのに使い、また水魔法と地魔法の護石を1:2の割合で地中に埋めることで作物の肥料にもなった。


 更に護石の軍事転用と言った魔力護石の活用で国力は東方世界の工業列強国を押さえ序列2位に君臨していた。


 だが格下とは言え、同じ魔法国家のペル=トリートリア帝国を滅ぼした大日本帝国の存在がこの国を狂わせた。


「こんなはずでは無かったのに・・・。」


 大司教カマルチャットは失意のどん底に居た。


 ヨル聖皇国の大日本帝国懲罰の呼び掛けに応じ、陸上戦力のおよそ2割に加え、海上戦力にいたっては半数にもなる大部隊を第3海洋界に差し向けた結果、返ってきたのは、ボロボロの戦闘船だけだった。そして、数万体も有った遺体の中にバンイヤスのモノもあった。


「バンイヤス様は、自ら御命を・・・。」


 側近であるバンイヤスの死に相応するものは一切得られなく、開戦前にあった戦意は完全になくなり、カマルチャットは邸の自室に閉じこもった。


 そして時が流れ、8月・・・。

 軍靴の音ともに法国の軍とはまるで違う者たちが北から歩いて来た。

 守兵は盾の頂点の凹みに槍を構え接近を抑制させた。


 大日本帝国は第1海洋界への反攻作戦と同時に、第2・第7海洋界にも進行。

 戦艦『伊勢』『山城』に護衛された輸送船団は、衛星大陸を無視し直接、本土のクレアシオン大陸に進出。陸軍1万5千を北の海岸から上陸させた。陸軍は上陸と共に一気に南進。戦車を先頭にトラック、さらに歩兵の銀輪部隊がそれに続いた。


 敵首都を目指した突進作戦で上陸からわずか8日で到着した。

 そして軍団長、荒木中将は長谷川少尉に1個分隊と旧ペル帝国の佐官を率いさせ、圧力をかけて降伏勧告を受け入れさせるよう厳命した。


 そして・・・。

「大日本帝国 陸軍少尉 長谷川満。ゼル法国 大司教 カマルチャットに面会である。」


 ゼル法国の守備兵は戸惑っているが、長谷川にそんなことは関係なかった。


「通せーーっ!!」


 腹の底から吐き出し、守備兵を一喝する。

 ひるんだ隙に全軍を前進させ、マザー・マジクに入城する。

 途中何度も静止されかけたが、小銃を携えた分隊兵がそれを阻み、長谷川は止まることなくカマルチャットの邸を目指す。


 進むにつれ平安時代の形式に似た造りの邸が見え始め、そこから何やら合唱する声が聞こえてくる。


「何かの祭りか?」


 長谷川は旧ペル帝国の佐官に真相を問う。


「時期的に言えば『豊拾祭ほうしゅうさい』に当たります。

 風の刻(正午)に人間やエルフ等の各部族の長が集まり太陽神『ラーソン』に豊作を祈るのです。」


 ゼルやペルの様な魔法国家の時計は言うなれば影時計で、12時から90度時計回りに風、水、地、火を基準とし、その間の時刻は、例えば1時の場合『風水の刻』、2時の場合『水風の刻』と言う具合になる。それに付け加え、太陽が出ていれば『陽』、月なら『陰』を頭につける。


「各部族の長が集まるなら丁度良い。そのほうが効果が高まる。」


 豊拾祭が執り行われている邸の門は開いておりここでも守備兵が立ちはだかったが、兵士に押しのけさせ長谷川は堂々と入場する。


 そこには人間のほか、エルフやドワーフ、鳥人種など、佐官が言ったとおり多種族が集まっていた。その数40人。10人の横隊が2段。門から御殿の登り階段までの道のりを挟んで均等に分かれていた。


 長谷川は祭りの最中にもかかわらず、真ん中を何の躊躇いも無く通り抜ける。

 その姿を見たものは合唱をやめ長谷川の背中に視線を向ける。


「ちょちょちょ!何考えてるんですか!?」


 思わず佐官も動揺し、長谷川の正気を疑う。


「そこで止まれーっ!!」


 御殿から響き渡るゼル法国要人の怒号に、ここまで足を止める事の無かった長谷川が、ようやくその足を御殿の登り階段の前で止めた。


「貴様!神聖なる豊拾祭の最中と知っての粧業か!?」


 他国、ましてや敵国の政など軍人である長谷川には関係なかった。


「我が名は長谷川満。

 大日本帝国陸軍、第21軍の将校斥候として、ゼル=ドスツバイ法国大司教、カマルチャット殿に面会を求めて来た者だ。」


 大日本帝国の名前にその場にいた全員が戸惑う。

 ゼル法国は偏向報道を行い、ゼル法国は既に日本の支配下にある衛星大陸の一つを占拠していると発表していた。自国が優勢でことを進めていると思っていたのに、まさか敵軍の兵士が本土に現れるとは夢にも思っていなかったのだ。


 そして、長谷川はゼル法国が今おかれている状況を説明すると共に、


「現在、総兵力10万の我が皇軍が、マザー・マジク市内に向け、総攻撃体制を整えつつある。小官の未帰還もしくは本日1300(ヒトサンマルマル)までに無条件降伏を受理しない場合、マザー・マジクの守備兵は一兵と残らず駆逐する。その際、民間人の犠牲もいとわない。

 さぁ・・・。どうするぅぅっ!?」


 ゼル法国の要人に決断を迫った。


「ヒトサンマルマルとは、いつだ?」


「陽風水の刻です。」


 ペルの佐官に時間を聞いた。豊拾祭が始まった直後であった為、時刻は風の刻を少し過ぎたほどであったが、それでもわずか1時間しか余裕が無かった。


「まっ待ってくれ。

 ・・・そうだ!衛星大陸の『サンズィレット大陸』を割譲するから-」


 サンズィレット大陸は第2海洋界の北方の衛星大陸であったが、元の支配国『サーヴェルタ』とクレアシオン大陸を平定したゼル法国との戦争によって荒廃、今となっては何も無い砂漠が大陸面積の7割も占めているため、ゼルにとっては廃棄処分感覚でこの大陸の割譲を提案したが・・・。


「割譲案などどうでも良い!我々が求めているのは完全かつ無条件の降伏だ!するかしないかの簡単な返答に時間をかけるな!」


 長谷川はそれを一蹴。改めて降伏を迫った。


 そして御殿の奥から一人の男が現れた。


「・・・!カマルチャット様!」


 ゼファージン洋の戦いの結果を受け、失意の余り自室で塞ぎこんでいたゼル=ドスツバイ法国の大司教、カマルチャットであった。


「話は聞かせてもらった。」


 たった一枚の襖しか遮る物が無かったことと、それすら意味を成さない程の長谷川の声量に堪らず出てきたようだ。


「降伏を受け入れよう。」


 出てくるなり、カマルチャットは何と二つ返事で降伏を受諾した。

 彼としては、ヨル聖皇国の要請に反しようとこの国が滅ぶことは避けたい。その思いだけで導き出した答えであった。


「なら今すぐに白無地の旗を持って軍司令部に来い。」


 ゼル=ドスツバイ法国は無条件降伏。

 ヨル=ウノアージン聖皇国との講和までの間、第2海洋界全域は大日本帝国が実効支配し、講和条約にて領土の確定を行うことになる。


 また、キル=ズーベンオクト共和国も同様に日本軍の反撃を受け完膚無きにまで叩きのめされた。こちらは日本軍の攻撃に対して防衛線を築きわずかながらの抵抗を行ったが、日本軍の電撃侵攻を止められず首都『リソルパール』まで全防衛線を突破され、ル・クライシス首相はディスコリア大陸を脱出し、日本軍は首都に無血入場。キル共和国の第2権力者のラ・ビリサルが代理首相として無条件降伏を受諾した。

 この国の処理もまたゼル法国の処理と合わせて行われ、両国にはその間ヨル聖皇国の連合軍を相手にしなければならなかった。


 ゼル法国とキル共和国を9月初旬に降伏させたとは言え、大日本帝国には強力なヨル陸軍を打ち破れる兵器が艦砲か航空機しかない。だが、制空権が取れない以上航空攻撃にも艦砲射撃にも危険が伴う。敵機の反撃で戦艦や空母が撃沈されては元も子もない。

 突破口が見出せぬまま、無常にも時間だけが過ぎていった。


 そして同月半ば。第3海洋界東方の衛星大陸『ヴァーブレイア大陸』のノーグスパン泊地に1隻の駆逐艦が寄港してきた。その国旗はヨル聖皇国のものであった。

 敵であるはずなのに寄港出来たのは、旧ペル帝国の佐官からこの世界で『交戦の意思なし』を表す白と水色のツートンカラーの旗をメインマストに掲げていると言われたためであった。戦う気がないなら攻撃するわけにはいかない。ぺル帝国の佐官が虚言を言ったとしても、たった1隻では何もできないまま沈むだけである。


「一体何の用だ!?」


「これ以上の戦いは不毛だ。休戦を提案したい。」


 駆逐艦に搭乗していたヨルの外交官と思われる人物は、休戦を申し入れた。


 大日本帝国としてもこの申し入れは有り難いものであった。

 第3海洋界方面だけでなく、第2・7海洋界方面からも侵攻しようとしても、敵の陸軍や空軍に阻まれる。第一、そもそも3方面から同時進撃できるほどの余力は無い。戦争を無駄に長引かせるよりサッサと休戦し、講和したい考えがあったからだ。


 泊地司令部から海軍省を通じ外務省にこの事が伝えられ、外務省は徳田外務大臣の派遣を決定。護衛に戦艦大和と駆逐艦5隻を就けた。

 同様にゼル法国からカマルチャット大司教、キル共和国からラ・ビリサル臨時首相が休戦協定に参加することになり、戦争は徐々にではあったが、確実に終戦に向かっていた。

 オチなしのように思もわれますが、大日本帝国視点はこれにて完結します。


 これからは日本国視点(無印)と合流し、新作として話を進めていきます。

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