ルリエナ海戦3
ヨル艦隊上空3000m 蒼龍艦爆隊・・・。
江草隆繁大尉に率いられた九九式艦上爆撃機6機は1隻の5万t級戦艦に狙いを定めた。そして江草の機体から順に降下を開始。単縦陣で続くことで被檄墜率と引き換えに命中率を上げる。直掩機の護衛はおろか、まともな対空兵装すら装備していない敵艦には、現状この戦法は非常に強力である。
「全軍突撃!」
江草は機体を一度上昇させ、左に1回転させながら約80度と極めて直角に近い角度で急降下する。エンジンの出力は絞ってはいたが当然重力と合わさり加速するが、主翼のダイブブレーキとフラップを展開し降下速度を抑制。これらによって生み出される高い低速性は、敵艦への照準を容易にする。
そして、江草等は敵艦の前部砲塔前端から後部砲塔後端までの重要防御区画に自機の降下速度、敵艦の速力、風向きと風力を計算した上で爆弾を投下する。が、それはあくまで座学での話し。実戦になれば彼らにそんな事をしている時間は無い。よって最も頼りにするは、己の経験から編み出される直感のみ。
「コース良し・・・。」
計器系の高度計は500mを切ろうとしていたが、そんなもの江草には見えていない。彼が覗き込む爆撃照準器越しに映る敵艦の大きさのみで距離を測っていた。
「投下!!」
250kg爆弾を胴体に固定しておく爆弾投下装置のレバーを固定から開放の位置まで押し上げる。
機体が僅かながら持ち上がる。それに合わせ絞っていたエンジン出力を開放し、操縦桿を引き、機体を水平になるまで引き起こす。
そして投下された爆弾は・・・。
バゴォン
「命中!!」
見事、船体右舷の中央部に命中した。後続が投下した爆弾も5発の内4発が命中。江草の戦果と合わせると命中率は脅威の80%越え。
後部銃座に座るリーチャ人の新兵は興奮気味であったが、江草はいたって冷静に敵艦を見つめた。
「機関部まで貫通しなかったか・・・。速力が全然落ちないな。」
爆弾が命中した場所の下には機関室がある。艦船に致命的な損害が出るかと思ったが、以外にもそんなことはなく、おそらく第1甲板に火災が発生した程度の損害しか与えられなかったと江草は推察した。
その後周囲を見渡す。
「鉄で出来ているのに、燃えるなんて・・・。」
さっきまで興奮していたリーチャ人新兵も目の前のことにすっかり熱が冷めた。
だが江草は別部隊が攻撃した戦果も確かめる。
「3万t級、3隻大規模火災。5万t級4隻小規模火災。・・・か。」
奇襲に成功した割りに戦果は乏しく、江草は落胆するが・・・。
ボゴォォォォン
3万t級巡洋戦艦の1隻が、1番砲塔と2番砲塔の間から巨大な火の玉を噴出し、1番砲塔から艦首に掛けてを捥ぎ取り、出来上がった破孔から急速に、大量の海水が艦内に浸水。前に向かって横転しながら沈んでいく。
その様子を見ていた江草は・・・。
「訂正。3万t級1、撃沈。」
面子が保てる戦果に僅かながら安堵した。
そして、機体を反転させ帰投させるが、ふと海面を見るとそこには、自分達が爆撃した5万t級戦艦目掛け突撃する3機の九七式艦上攻撃機がいた。操縦席に誰が座っているか分からないが江草はこう囁く。
「美味しい所はくれてやるよ、友永。絶対に沈めろ。」
飛龍艦攻隊・・・。
「勿論だとも、江草さん。」
虫の知らせか、はなまた一種のテレパシーか、聞こえるはずの無い江草の声が友永には聞こえた気がした。
海面から100mにも満たない超低空から、燃え上がる敵戦艦目掛け友永大尉が指揮する3機の九七式艦攻が突撃する。胴体には、この世界で日本のみが持つ『九一式航空魚雷』を抱えて。
「コース良し・・・。」
雷撃の教範では、敵艦の艦首に発生する波の幅と高さで敵艦の速度を割り出すが、やはり友永も自分の勘を頼りにしていた。
そして、友永大尉の脳内に何処からともなく響く「今っ!」と言う声。その声は彼にしか聞こえない。友永はその声に従い・・・。
「投下!」
魚雷を発射した。
切り離された魚雷は着水と同時にスクリューが起動。雷速48ノットで海中を敵艦目掛け疾走する。
魚雷を投下した後、友永は機体を上昇させ敵艦の艦橋の目の前を横切るように離脱する。
ダダダダダダダダダダダダ
後部座席に座るミナッツはその一瞬を突いて艦橋に向けて九二式七粍七機銃を乱射するが・・・。
「戦果を確認しろ!」
友永は射程圏外に通り過ぎたにも関わらず撃ち続けるミナッツを静止させ、与えられた任務を全うするように促す。
「-ッ!!」
バゴンッバゴンッ
「2発命中!」
遠巻きに聞こえた爆発音で我に返り、すぐさま報告する。
魚雷は船体の中央部と後部に命中し、右に大きく傾いていく。敵艦に排水している様子も反対舷に注する様子も一切なく、ただただ力なく海に沈み行くのを待っているだけであった。
「5万t級、2隻撃沈。2隻大破。3万t級、3隻撃沈。1隻大破。」
第1次攻撃隊の戦果は12隻の戦艦の内5隻を沈め、3隻は戦闘不能。残る4隻に損傷を与え、残りを第2次攻撃隊に引き継ぐ。
一方、岸部たちの零戦隊はヨル艦隊の外周に展開する蒸気帆船の群れに襲い掛かっていた。
ダダダダダダダッダダダダダダダダダダダダッ
編隊は20機ずつの集団に分かれ、一定の間隔を保つ蒸気帆船の間を軽快な挙動ですり抜け、機首の7.7mm機銃と主翼の20mm機関砲で殲滅していく。木造装甲で止められるはずも無く、貫通した曳光弾が弾薬に命中しては炎上し爆発四散していく。
「弾尽きるまで撃ち続けろ!」
だがやはり数だけは多く、両銃の弾薬が底を突いても多くがまだ健在であった。
そして遠目に引き上げて行く艦爆隊と艦攻隊の姿を見つけた。
「ここまでか。全機帰投するぞ!」
その後を追って零戦隊も上昇を開始。第1次攻撃隊の戦闘は終了した。
「戦闘機隊は何処だ?」
制空権を確保しているはずの零戦が一機も見えない。そんなことあってはならない筈なのに、友永も江草も戸惑いを隠せないが・・・。
「居ました。後方から上がってきます。」
本来上空で待機しているはずの戦闘機隊が上昇してくる。こうなったら大体想像が付く。
友永は無線機を取り出す。交信相手は・・・。
「そっちの戦果はどうだ?岸部。」
岸部大尉だ。
「<蒸気帆船を狩っていた。確定500、未確認1500って言ったとこか。>」
「そうか。じゃ、それと併せて司令に報告しておく。」
帰還の途に付く第1次攻撃隊と、1時間遅れで発艦していた第2次攻撃隊がすれ違う。




