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ミトスター・ユベリーン 立ち昇る太陽  作者: カズナダ
世界大戦
20/29

ルリエナ海戦2

 連合艦隊がヨル艦隊を発見して更に6日。いつ会敵してもおかしくなくなり、機動艦隊旗艦『翔鶴』以下7隻の空母は慌ただしく動いていたが、外からではまるで分からない。それもそうであろう。慌ただしく動いているのは、艦の中なのだから。


 第2航空戦隊 空母『飛龍』 格納庫・・・。

「全機雷装!大物が待ってんだぞ、急げ!」


 着々と進む九七式艦上攻撃機への魚雷装着を、本海戦の攻撃隊指揮官に任命された友永丈市ともながじょういち大尉は、端に置かれた木箱に腰かけて静かに見守っていた。


「・・・。」


「大尉殿はいつもそのような感じですね。」


 顔の向きは変えず目線だけを向ける。だが声を掛けてきた者は友永大尉の視界には入らなかった。しかし彼は声だけで誰だかわかった。


「ミナッツか?」


 友永大尉に声をかけたのは、元ペル帝国属国『ガルハ国』の新兵ミナッツ一等兵と・・・。


「ダングスも居ます。」


 ダングス二等兵であった。


「緊張されないのですか?」


 彼らは初陣と言う緊張感から表情は硬く身体も細かく震えていた。


 そんな情態を見かねた友永大尉は木箱から立ち上がり歩き始め、二人に付いてくるように促す。ミナッツとダングスはそれに付いて行く。


「緊張いているなら今はそれで良い。だが戦闘になればそうはいかん。小動物は緊張すれば動きが止まり、狩られる。俺達は狩られる側じゃない、狩る側だ。」


 友永大尉の言葉に恐怖しつつもの、ミナッツとダングスは彼の後を追い続けた。


「だがお前達はまだ機に乗っているだけでいい分楽だろうな。」


 九七艦攻は全機雷装。そのため魚雷の照準も投下もパイロットが行う。九九艦爆も同様だ。何故このようなことをしているかと言うと、今回の海戦には、敵国が空母を有していない事で、海上での空戦が発生しない。よってミナッツやダングスのような訓練生に戦場の雰囲気を身体で覚えさせるねらいが有ったからだ。


「楽と言われましても・・・。」


 海軍省がそう判断したとはいえ、やはり戦争。ミナッツ等新兵には些か荷が重いようだ。


「お前達は今後の海軍に必要な存在だ。この場で誓おう。俺はお前達を決して死なせない。」


 だが友永大尉の力強い言葉を受け、ミナッツもダングスの顔に僅かながら安堵の表情が写った。


 『全機発艦準備!』


 艦内放送と共に整備員の慌ただしさは更に増し、雷装の九七艦攻、爆装の九九艦爆、零式艦戦の順にエレベーターに乗せられては飛行甲板に並べられていく。


 友永達搭乗員も飛行甲板の脇で待機する。


「見つけたか?」


 友永大尉は同期の戦闘機乗り、岸部大尉に敵艦隊発見の有無を確認する。


「ああ。陸奥の水偵が電探で発見した。500km先に居るんだとよ。」


 敵艦隊は、本海戦に投入する艦載機の中で最も航続距離が短い九七艦攻で往復できる場所に居るようだが、第2航空戦隊指令・山口多門少将は「往復できるギリギリの距離での攻撃は効果小」と進言した。だが、機動艦隊指令の南雲忠一中将は攻撃の強行を決定した。


 『総飛行機発動!総飛行機発動!』


 飛龍の飛行甲板に並べられる36機の航空機のプロペラが、搭乗員の搭乗後、起動したエンジンによって高速で回転し始めた。後は操縦手が左手に握ったスロットルレバーを押し倒し出力を上げて発艦するのみ。


 『発艦始め!発艦始め!』


 飛龍の第1次攻撃隊の先鋒である戦闘機隊を率いる岸部大尉は、後ろを向き右腕をコックピットから出し、前腕を2周させ勢い良く前に突き出した。


 そして彼の機体は飛行甲板を滑走し始め、甲板の先端を過ぎたところで一瞬だけ落下したが、身軽な零戦は難なく上昇を始め、寮機、艦爆隊、艦攻隊と続き、全機発艦し終えると友永大尉は無線機に向かい指令を出す。


「全機、高度3000まで上昇!3000で編隊を組め!」


 40機の零戦を筆頭におよそ200機の第1次攻撃隊は、ヨル聖皇国の大艦隊目指し、ただ真っ直ぐ東に飛び去った。


 数時間後 ビルピッツワーグ・・・。

「もう海は見飽きた。」


 ミールツ准尉は部下3人と共にビルピッツワーグの第1甲板の端を歩き、聖皇国の艦艇や、それを取り囲むように航行するテル連邦、メル合衆国の蒸気帆船を見渡す。だが、ルテレベーラを出港してからと言うもの艦艇の配置に海面や空の様子など、まったく変わらない風景に飽き飽きしていた。


「そうは言われましても、ここには船と海と空以外何も有りません。」


 部下から突きつけられる現実に、ミールツは僅かに苛立つ。そんなことは分かっているとばかり、ふと太陽を見つめる。そしてようやく彼の目に、船でも海でも空でもない物が雲海の隙間から映った。


「なんだあれ?」


 水鳥の群れかと思う。部下隊も一様にミールツの向く先に目を向ける。彼らにもソレは水鳥の群れ程度にしか思わなかったであろう。


 だが、翼を目一杯横に広げ徐々に巨大になっていくソレは羽ばたいておらず、両足の間には丸い卵のような物を抱えていた。


「なっ!?まさか・・・!」


 最初は鳥と思っていたミールツも自分が知る『鳥』の形とはかけ離れた影絵に再び思考を巡らせた。


 徐々に影絵が拡大されていることは、自分達の方へ近づいていることを意味していると仮定でき、横に広げた翼は、空気抵抗によって降下速度を抑制する働きがある。だが、両足の間に卵のような物体を抱えれる鳥など存在しないし、何上水鳥なら海面下の魚目掛け翼を畳んで一直線に突っ込むものである。


 水鳥でないとするなら何か。両足の間に卵のような物を抱えれることが出来るのは、彼の知る所ではヨル空軍の急降下爆撃機『パルーガ』ぐらいである。


「ニホン軍機ッ!!」


 そう、『急降下爆撃機』パルーガぐらいである。

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