♯64 大聖堂の地下深くで
イリスが大聖堂から上手く逃げ出せた後、バイパス・ロードは突然の召集を受ける。
なんでも作戦会議を本格的に始めるそうだ。
「ククク、既に入り込んでいるとも知らずに……聖女様もやたらと呑気だな」
イリスがいた地下違うまた別の地下通路へと進む。
衛兵が守る巨大な門を潜り、あの巨大な地下空間へと入った。
中には白銀の座に聖女が座っている。
――――名を《ユアンナ・アウイナイト》
レイド・ザイルテンツァーの同志であり、彼の為なら協力も惜しまない。
彼女もまた彼に心惹かれている。
それは淡い恋心にも近い。
神に仕える聖なる女として、添い遂げたい等とは……。
(であるからこそ、私は出来うる限り彼の力になりたい。その為には……フレイム・ダッチマン、そしてイリス・バージニアッ!)
彼女は知れず硬く拳を握りながら、主戦力たるメンバーを一瞥する。
石見銀三とレイド・ザイルテンツァー。
そして、聖女ユアンナの懐刀的存在。
聖なる三星。
ソォデ・ビィム神父。
修道女バイパス・ロード。
――――そして。
「……作戦なんて必要なのか? どうせ奴等は来るんだ、見つけたら即殺す。これでいいじゃあないか」
この修道都市の兵隊長。
傲岸不遜にして厚顔無恥。
丸太のように太い腕と足に分厚い筋肉に覆われたスキンヘッドの神託者。
「……"カルバート"、口を慎みなさい。これは我々だけでなく、今や世界の問題でもあるのです」
「ハッ、なら最初から兵士を配置させときゃよかったんだ。そうすりゃ一網打尽だった」
カルバートと呼ばれたこの男は、椅子に座りながらテーブルに足を乗せ始める。
腕を組んでここに居る誰も彼もを見下すような目で、自信に満ち溢れた態度をとっていた。
「そもそもだ……なぁんでこのガキの尻拭いに、こんな面倒な手順踏まなきゃならねぇんだ聖女さんよぉお!」
「無礼ですよカルバート。この方は、世界を欲望と闇から救う為に立ち上がった勇者なのです!」
だが、カルバートはそれがどうしたと言わんばかりに鼻で笑いながら、椅子を降りてレイドに近づく。
「フン、なぁにが勇者だ。女のひとりも守れん出来損ないのガキだろうがッ!」
「なんだと!?」
レイドは思わず激昂する。
立ち上がり、彼の嘲笑を睨み返した。
「ほう、怒ったか? ……来いよ、殴れよ。男なら力で黙らせてみろよオイッ! 怖じ気づいたか?」
「このやろッ……!」
「よさねぇかいッ!」
カルバートが挑発しレイドが必死に堪える中、石見銀三が怒鳴る。
ドスの利いた低声が響き、カルバートはレイドを押しのけ今度は彼に標的を変えた。
「老いぼれが図に乗りやがって……。知ってるぜ? 侍ってのは『極東フェンシング』ってヤツが得意なんだろ? オイ、見せてみろよ、今ここで」
「なぁにガタガタ抜かしてんだコノヤロー。文句があんならかかってこい馬鹿野郎!」
一触即発の空気に、ユアンナが止めに入ろうとするがカルバートも石見銀三も聞く耳を持たない。
カルバートはボクシングスタイルの格闘術を得意とする。
一時期は拳闘士のチャンピオンに成り上がったほどだ。
その強烈な一撃は、男女問わず、名だたる達人達を屠ってきた。
拳法家、剣士、そして異能者も彼の前にノックアウトされたという。
「爺、俺様の実力を知ってて言ってんのか?」
「……ガキから飴取り上げる程度には強そうだな」
「……俺様はな、達人だの神域だのと抜かす武人達を、この拳でぶっ飛ばしてきた。大陸拳法も極東剣術も全部だ!」
興奮気味に大胸筋と上腕筋に力をいれ、銀三を威嚇するように睨みつける。
だが、彼はそんなカルバートを鼻で笑い続けた。
「オイオイ……、俺のことを雑魚だっていいてぇのか? 面白れぇ」
「お、お前達! 仲間内で争うな! 今はそのようなことをしている場合か!?」
ソォデ・ビィムがいても立ってもいられず、2人の間に入った。
だが互いの剣呑な雰囲気は断ち切れそうにない。
そこで、先ほどから沈黙を保っていたバイパスが、ある提案を出す。
「聖女ユアンナ。この2人を戦わせて見ましょう」
「バイパス・ロード……、アナタともあろう人がなにを? 理由はなんです?」
「このまま諌めた所で、互いに不和が残るのは明らか。……であれば、いっそスッキリさせましょう。どちらが強いのかをね」
バイパス・ロードは含み笑いの中で、地上を指差す。
この提案に2人は快諾した。
どちらが強いのかをハッキリさせる……ッ!
ただそれだけの意志を抱いて。




