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♯29 そして男は超人を目指す……

「フレイム・ダッチマン、外道が逝くは地獄也! 引導を渡してあげるわ」


「この愚か者が……そこまでして、私の超人への道を阻むか!」


 套路とハルパーが連続でぶつかり合う。

 イリス達と分かれて、屋根の上にあがってすぐにこの戦いは始まった。

 月下で繰り広げられる神速の技の数々が、天を這う雷光のように交差する。


「アナタがやろうとしていることは、神への冒涜等というものではない。宇宙創成以来続く『神と異能の歴史』に、巨大なブラックホールを開けようとしているようなものなのよ!?」


「ハッ、それがどうした! 超人の顕現によって滅ぶ程度の歴史など、いっそ滅んでしまった方が良い!」


「なんですって!」


 フレイムは彼女の攻撃を躱すや、月を背に語りだす。


「神と異能……どちらも有史以前より切っても切れぬ間柄だ。だが、逆にそれが人間の性根を腐らせた。異能の力を神の加護、神の叡智とのたまい、神は人間を……自らを崇拝させる奴隷として大地に根付かせた。人間もまたそれを良しとし、神をこの宇宙に今も尚のさばらせている」


「なんという暴言ッ! アナタはそれでも、神に託された力を持つ、"神託者"なの!?」


 アフサーナは怒りのあまり叫んだ。

 彼女にもまた信仰があり、神を侮辱することは即ち、自らの存在そのものを穢されたことを意味する。


「……この隷属主義者がッ! 世に蔓延る神への崇拝も、神殺しも、そして人間同士の戦争も……、所詮は神々共の遊戯の一環であるとなぜ気が付かん!? 神の奴隷としてではなく、1つの生命として大地を闊歩したいとは思わないのか! あらゆる神の束縛を、あらゆる人間の持つ認識を超え、この宇宙に生きようとは思わないのか!? 神を、克服しようとは思わないのか!」


 この怒涛の発言により、アフサーナの頭の中で、なにかが切れる音がした。

 凄まじい跳躍のもと、月光で輝かやかせたハルパーを振るう。

 フレイムはそれを鉄甲で弾くように防御していった。


「アナタのやっていることは、神……いや、この世の全てに対する冒涜よッ! あらゆる奇跡を踏みにじり、あらゆる希望を砕き潰す……。アナタが目指している超人の力とは、神と異能への暴虐の力よ!」


「まだ言うか! ……確かに文明の発展には必ず奴隷がいる。だが、その奴隷を生み出すサイクルは、未来永劫人間の可能性を食いつぶす悪種なのだ! それを統治するのが人間の王と神々だ。貴様はそんなものに、奇跡や希望をこい願うというのか! 隷属を誓うというのか? そんなものは彼奴等が作った集団幻想の類に過ぎん!」


 普段では見せないほどの激昂を見せるフレイム。

 お互いの体術にも熱が入り、パワーとスピードが増していく。

 両者1歩も譲らぬ打ち合いに、おびただしい火花と金属音が飛び交った。


「なるほど、あれから腕を磨いたようだな。……だが、その程度でこのフレイム・ダッチマンに敵うと思うなよ!」


 一端距離を離したところで、神託『Missing-F』を発動。

 いくつもの幻影がアフサーナを殺しにかかる。

 だが彼女も負けてはいない。

 こと神託戦において、フレイム以上の厄介さを秘めた能力を有しているのだから。


「……『アジ・ダハーカ』!」


 次の瞬間、彼女の身体が半透明になり、幻影の攻撃が全てすり抜けていった。

 そしてそのまま、フレイムの元へ走り抜ける。

 バッと拳法の構えを取り、攻撃に備えるが、なんとそのまま彼女は彼の身体をすり抜けてしまった。


「なにっ!?」


「私の神託には、こういう使い方もあるのよ」


 背後まですり抜けたと同時に神託を解除。

 実体を現したアフサーナは、フレイムの首目掛けて一閃を放つ。


(くそ、あらゆる物体・干渉をすり抜けるこの神託は健在か! いや、以前よりも技に磨きがかかっているッ!)


 寸でのところで回避し、屋根を転げるように移動する。

 両の拳を顔前に構え、片膝をつくように足を広げる。

 切妻屋根の多いこの場所の地の利を生かそうと考えた。

 アフサーナの殺傷能力は以前よりも格段に上がっている。

 だが、冷静に対応すれば活路は見出せる、と思ったそのとき。


「私の武器がハルパーだけと、思わないで!」


 踊り子のような薄布の陰から取り出したのは、なんと最新式の回転式拳銃だ。

 撃鉄を親指で倒しながら照準をフレイムに定める。


「どこに持ってたそんなもん!」


「女の秘密よ……ッ!」


 殺意と共に、4発連続で放たれる。

 屋根を転がりながら弾丸を躱していき、影となる部分に身をひそめた。

 

「アナタの拳法の腕は知ってる。そして、神託の力もね。……でも、この遠距離でコレに叶うかしら?」


(銃を操る神託者が近年増えてきているとは聞いている。だが、奴がアレを用いるとは……やれやれ、よっぽど私を殺したいらしいな)


「奇襲をかけようとしても無駄よ? 私の故郷、『ジプシア』の民は……風で相手を探知する能力に長けているわ」


 砂漠の中にある国の出身である彼女は、強大な砂嵐の中でも的確に索敵出来る感覚能力を有している。

 ゆえに、フレイムの行動が読めた。

 影に隠れながら、回り込んで襲おうとしたのを感知されたのだ。

 昔使った手段だったが、2度は通じなかった。


「……弾を装填し直したわ。さぁ、第2ラウンドといきましょう? 月に看取られながら死ねるだけでも、ありがたいと思いなさい」


「ふ、ほざくなよ小娘。これ以上、貴様に時間を取られているワケにはいかんのだ!」


 影から飛び出し、先ほどと同じ構えでアフサーナと向かい合う。

 ――――幻影と透過。

 そして、回転式拳銃の猛威。


 2人は月下に舞うように躍り出て、猛ける信念をぶつけ合う。


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