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♯30 人が先か、神が先か

 最初の攻撃はアフサーナ。

 余裕をもってフレイムと距離を取りながら、一方的な弾丸の雨を降らす。

 対して、素早い動きで距離を詰めながら躱すフレイム。

 屋根の上を跳びあがり、転がり、這いまわり、変則的かつアクロバティックな動きで射線から逃れ続ける。


「ちょこまかと……ッ!」


「拳法には、こういう戦い方もあるのだッ!」


 銃弾の装填が必要になったのを見計らい、一気に攻めてかかる。

 転げまわりながらの拳足攻撃。

 力強い足技と飛び蹴り。

 回転と跳躍が生み出すパワーとスピードがアフサーナに襲い掛かった。


「この、程度……ッ!」


 防戦一方。

 ハルパーや体術でいなし、神託で回避するが、反撃の隙が見つからない。

 神託『アジ・ダハーカ』で攻撃をすり抜けることはできても、いったん解除しなければこちらから攻撃しても当たらないのだ。


(やはり接近戦ではまだ実力に差があるわね。……でも、だからといって勝てないわけじゃあない。この男に勝たなければ……、世界はとんでもない方向へと変わってしまうッ!)


 アフサーナの瞳に激しい闘志が宿った。

 踊り子のように身体を捩り、くねらせ、ハルパーによる斬撃と蹴り技を繰り出していく。

 負けじと繰り出してきた攻撃にフレイムもまた押され始めた。


「フレイム・ダッチマン! 悪魔の使徒! アナタのような冒涜者がいるから……弱者を平気で虐げる者がいるから……ッ! 世界はいつまでたっても変わらない! いつまでも強者が血に塗れた歴史を繰り返すのよ!」


「まだいうかこの怨恨と善を名乗る者(ルサンチマン)が! 人間とは常に頂点を目指すもの! その過程で冷酷なまでの決断を下すことは当然の行いだ。"開拓"とはそういうものだ! 神に飼いならされることなく、凝り固まった善悪の基準に囚われず、惑わされることなく、自らの進むべき道を切り開く……その"開拓への意力"を持つ者こそが、歴史を創造つくるのだ!」


「そんなものは、強者の詭弁よ! 弱者を食い物にするための、言い訳でしかない!」


「だから貴様等の信じて愛してやまない"神"がッ! 人間を食い物にしているというのだ! そして貴様の言う血に濡れた歴史を作る者というのは、常に"神の力"を己の背後に置き、正義と平和の為などとぬかす馬鹿者共のことをいうのだ!」


「うるさいッ!」

 

 素早く距離を離した彼女は、神託で屋根をすり抜け家の中へ。

 そしてそこから撃ちだされる凶悪な弾丸達。

 彼女はフレイムの位置を把握できる。

 対してフレイムは遠距離武器など持ち合わせていない。

 銃弾から逃げるように屋根から屋根へと移動していく。


(クソ、逃げても私の位置は把握できるらしい。どんどん撃ってくる。確かに私は銃などは持たないが、手段がないと思うなよ)


 『Missing-F』発動。

 弾丸が飛んでくるその方向にある家に目掛け、無数の幻影を飛ばす。

 あれが魔弾や魔銃といった類であるのなら兎も角、あれは見る限りだたの回転式拳銃。

 異能の力が圧し負けるなどという道理はない。

 無論、イリスのような極意の継承が銃でも出来るのなら話は別だが。


「フン、我が故郷『カリメア大統国』の偉大なる発明である最新式銃を使って、私を殺しに来たその蛮勇は褒めてやる。だが青いな。この私に勝とうなど……」


 幻影の猛攻により、崩れ落ちる家を別の家の屋根から見ながら、フンと鼻で笑う。

 だが次の瞬間、フレイムの右頬に鋭い痛みと紅い線が刻まれた。

 弾丸が通り過ぎたのだ。

 だが、それ以上に驚いたのが、地上からこちらを狙うアフサーナの姿だ。

 所々から血を流しながらも、銃口をこちらに向け、硝煙を上げていた。


「どうやって生き延びた? いや、そんなことはどうでもいい……奴は生き残った。どういう理屈であれだ。……そしてそれは同時に、"ちゃんと絶命させろ"という課題でもあるのだッ!」


 そこでフレイム・ダッチマンは一計を案じる。

 我が神託『Missing-F』の"もう1つの特性"。

 

「もう撃たないのか?」


「…………」


「フフフ、どうやら弾切れらしいな。……いいだろう、待っていろ。今、下に降りる」


 そう言うや踵を返し、屋根の奥へと姿を消す。

 ほんの数秒して、家の陰から出てきた。

 神託者同士の争いということもあり、近隣一帯はほぼ無人状態。

 家の中に籠る者や別の場所へ避難する者もいる。

 この国の軍も急な戦いに対応が酷く遅れていた。

 そんな中の2人の静かなひととき。

 フレイムが満身創痍のアフサーナに近づく足音が響いていく。 


「どうした? 悪魔はここにいるぞ? その剣で私の首を、はねてみよ」


「……随分と余裕ね。まさか、まだ私に勝てるとでも?」


「んん~? 残念だが、もう勝利は確定しているのだよ。……なんならハンデとして、手を使わずに戦ってやろうか?」


「なんですって……ッ?」


「手では不満か? では、足技を封じるか? 欲しいだろう? ハンデ?」

 

 ニヤニヤと邪悪にほくそ笑むフレイムのこのセリフに、アフサーナは鶏冠に来た。

 力を振り絞りフレイムに斬りかかる。

 フレイムは終始ニヤついていた。

 しかも抵抗の意志も見せない。

 それが更にアフサーナを激昂させ、満身の殺意を以て、彼の首をかっ斬った。

 殺した! ……そう思った直後。


(……えっ?)


 ――――首を斬った。

 だが、噴出するはずの血の代わりに、妙な光が漏れ出したのだ。

 一瞬なにが起こったかわからなかった。

 だが思考の間もなく、彼の身体が爆発した(・・・・・・・・・)

 爆発に巻き込まれ、枯れ葉のように地に身体を打ち付けながら、家に激突するアフサーナ。

 満身創痍の彼女には、肉体的にも精神的にも大きすぎるダメージだった。

 朦朧とする意識の中で、声が聞こえた。

 

「フフフ、根気良いのは結構だが、こうも無鉄砲だと笑いがこみあげて仕方がないなぁ? 特に、自分の能力を過信しキチッと使いこなせていない青臭いガキを見ると"特に"、な」


 アフサーナは声のした方へと視線を向ける。

 フレイム・ダッチマンがいた。

 それも、先ほどいた屋根の上で(・・・・・・・・・・)ほくそ笑んでいたのだ。


「幻影を攻撃手段として用いれるんだ。こういう使い方が出来てもおかしいことはないだろう?」


「き、貴様……ッ!」


 イリスやエーディンに使ったときのような幻影とは違い、さっきの幻影は本物そっくりだった。

 言葉のイントネーションも仕草も気配も全てが彼そのものなのだ。

 フレイムは、もう1人の自分を作り出し、それをアフサーナに差し向けた。

 当然、見分けることなど出来るはずもなく、彼女は攻撃し、幻影を起爆させた。


 それは最早、完全に爆弾と言っていいほどの代物だ。

 憎しみの対象を象った恐ろしい爆弾。


「確かに貴様は強くはなってはいるが、神託を含む自分の全ての力を、まるで使いこなせていない。……その未熟さを悔やみながら、死んでいけ!!」


 Missing-Fによる幻影攻撃をアフサーナに放つ。

 1体の幻影が拳を握りしめ飛来する中、アフサーナは回避しようとするが体が動かない。

 神託ですり抜け回避をしようにも、長くは維持できないのとタイミングが上手くつかめないという問題も彼女の中で発生している。


(クソ……)


「フフフ、自ら駒を動かし、相手の王を刈り取るまでがチェス。本来であればここで宣言なのだろうが、油断はならん。つまり……貴様の命を縊りとって、ようやく初めて私は、この勝負におけるチェックメイトを宣言できるッ!」


 狂喜に口角を吊り上げ、アフサーナの末路を見届けんとするフレイム。

 アフサーナは悔しさと悲しみ、そして彼に対する怒りの中である"突破口"を見出した。

 しかし、可能性は僅か。

 だが、彼女はこれに賭けた。


「……ッ!」


 幻影が拳をアフサーナ目掛け振り下ろす。

 飛来速度と拳打の速度が相乗効果を生み、まるで複数の爆弾が一気に暴発したような轟音を立て街を震わせた。

 振動がなくなった後、フレイムは華麗に地に舞い降り、アフサーナがいたところまで歩く。

 生き物の気配はない。

 完全に抹殺できたと思い砂ぼこりが消えるのを待った。

 だが、目に飛び込んできたのは思っていたのとはまるで違う結果だったのだ。


「どういうことだ……ッ。アフサーナの死体がない! 確かに高火力による攻撃はしたが……ここまで跡形もなくなるほどではないはずだッ!」


 フレイムの足元には巨大なクレーターが築かれ、周囲を木っ端微塵に変えていた。

 だが、それでもアフサーナの身体の一片がないというのはおかしい。

 クレーターに足を踏み入れ、探しては見るが見つからない。

 だが、代わりに妙なものを見つけた。


「……これは、水? 地面から……漏れ出しているのか? ……ハッ!」


 突如として、所々から水が噴き出し、クレーターに水たまりを形成していく。


「まさか……地下水!? それか下水管か……。どちらかはわからんが、どうやら……地面をすり抜けて、地下へと逃げ込んだらしいな」


 見事だ、と言わんばかりに静かに目を伏せる。

 そしてクレーターから出るや、深い呼吸を1つ。


「……これから、私を邪魔する者がどんどん増えていくだろう。だが、決してこの足を止めることはないッ! 私は超人となり、神が人間を統治する時代を終わらせる。無に還れ神々よ! 奇跡よ、神秘よ、灰となれ! 人類が貴様等の"正体"に気づく前にッ!」

 



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