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♯27 龍の灰より出ずる烈人、リー・ゼンフ

 最初に動いたのはフレイムとアフサーナ。 

 フレイムが人間離れした跳躍で家の壁を蹴りながら屋根の上まで上がる。

 アフサーナも舌打ちしながら、それを追いかけた。

 

 フレイムとアフサーナが退いたおかげで道が開けたのもあり、ミラはその方向へと駆け抜ける。

 ルインも慌ててついていくが、サンブーカの放つ矢で何度か射抜かれそうになった。

 

「入り組んだ通路に入り、射撃から身を守らんとしたか。……よかろう、実力の差を見せつけてやる」


 サンブーカは慌てる様子もなく、韋駄天の如く追跡した。

 この場に残るのはリー・ゼンフとイリスの2人だけ。


「余裕、ダナ? ……イルス・バーズヌア」


「イリス・バージニア、よ。名前くらい覚えろ」


「ソノ、必要ハ、ナイ。……オ前ハ、ココデ、死ヌ」


 偃月刀を中段に構えるリー・ゼンフ。

 彼の視認できるほどの闘気が、イリスの身体を歓喜に震わせた。

 彼が、本物の"龍"に見えたのだ。


「シャァアアッ!!」


 初手はリー・ゼンフ。

 風車のように振り回した偃月刀がイリスに伸びる。

 空を斬る音と同時に、青白い炎のような闘気が刀身を包み、それが龍の形をかたどった。


「……ッラァアアッ!!」


 対するイリスは、虎伏の構えから繰り出す強烈な袈裟斬り。

 偃月刀とぶつかり、火花を散らす。

 そこで武器の連続的な打ち合いになると思いきや。


「シュッ!」


 イリスが行動に出た。

 至近距離からの零縮地。

 音もなく消えた彼女に目を見開くリー・ゼンフ。

 対応しようにも零縮地を見切る術はない。

 そして、彼女が消えたということは、"彼女に斬られた"ということを意味する。

 ――――零斬ぜろぎりである。


 イリスの刃が、リー・ゼンフの胴を一文字に斬り、後方へと抜けた。

 確かに斬ったのだが……。


「ナルホド、今ノガ……零斬、カ」


「……鎖帷子くさりかたびら、か。しかも、普通のものではないわね」


「カリメア南北戦争カラ、銃ノ進化ガ、著シク、ナッタ。俺ノヨウナ、近接戦闘型ノ人間ニハ、世知辛イ世ノ中ダ」


 カリメア南北戦争。

 世界に誇る『カリメア大統国』で十数年前に起こった大規模な内戦だ。

 2人の政治家の対立をきっかけに開戦し、北と南の両軍が5年にわたり多くの死傷者を出しながらも続いたという。

 今まで"邪道"だとか"弱者の持つ武器"とされてきた銃が、世界で初めて大規模な戦争で使用され、その実用性を大いに確かめる絶好の見せ場となった。 

 異能者も非異能者も平等に撃ち抜く様は、地獄そのものであったとされている。

 この戦い以降、1発ずつしか撃てず、精密性にも欠けていたマスケット銃は段々姿を消し、連射性と精密性に富んだ銃が、いくつも開発され続けているのだ。

 その代表的なものが、回転式拳銃。

 通称『リボルバー』と言われる最新式のものである。

 

「それで身に着けたのが、魔力を編み込んだ鎖帷子ってわけね」


「ソウダ、……ダガ、ドウイウワケカ、オ前ノ剣デ、ズッパリト、斬レテシマッタ」


 リー・ゼンフが斬られた部位を覗き込むと、煙を上げながら鎖帷子が抉れているのが見えた。

 幸い、肉体には届かなかったようだが、これが彼の闘志を熱く燃え上がらせることになる。

 イリスが神託者への憎悪の末に会得した秘伝『怪異殺しの極意』

 それが鎖帷子の魔力を削ぎながら抉ったのだ。

 

「次ハ、当タラナイ。今度ハ、コチラノ、番ダ!」


「……ッ!」


 活歩による、まるで瞬間的な間合い詰め。

 雄たけびを上げながら偃月刀で、龍のように空を薙ぐ。


「シャァァアアアアッ!!」


 スピードと鋭さが格段に上がった。

 零縮地をしようにも、武器の間合いや強烈な勢いで発動のタイミングがつかめない。

 躱すたびに砂埃が舞い、弾くたびに火花が散る。

 リー・ゼンフの氷の上を軽やかに滑るかのような猛攻をしのぎながら、冷静にイリスは機会を待った。

 そして、ついに機会は訪れる。


「ハッ!!」


 刀をおおきく振りかぶり、唐竹一閃。

 イリスの攻撃を偃月刀で防ごうとした瞬間、その斬撃によってバキリと音を立て武器が割れた。

 奴の持つ青龍偃月刀。

 それは神託で作り出した武器に他ならない。

 レイドの『エクスカリバー』を叩き斬ったように、リー・ゼンフの武器を斬ることも容易いこと。

 イリスはそう踏んだのだ。


「死になッ!」


 唐竹からの、横一文字。

 足を大きく開いて姿勢を低く。

 しなやかに伸びる刀身をリー・ゼンフに浴びせようとした。

 だが、彼女は信じられない光景を目の当たりにする。

 奴は、まるでそれがわかっていたかのように、次の手を打っていた。

 偃月刀が圧し斬られても尚、冷静さは欠かず。

 両の掌に集中した青白い炎から取り出したのは、なんと"2本の鉄鞭"だった。


「ハイヤァアアアアアッ!!」


 鉄鞭からなる神速の連続打撃が、刀を振るっている最中のイリスに命中する。

 躱す間もなく、受け身をとる暇もなく、その鋭利な鞭によって、身を砕くほどの痛みを全身に走らせた。

 

「ぐがぁっ!?」


 壁面に叩きつけられたことによって巨大な窪みを生む。

 その中で、一瞬意識が遠のきそうになったが、なんとか持ち直す。


「俺ノ攻撃デ、マダ立ッテ、イラレルトハ、……頑丈ナ奴ダナ」


「……くそ、特定の武器を使う神託かと思ったんだけど違ったか。……アンタのは、"武器そのものを作り出す"神託ね?」


 イリスの推察に二ッと笑みながら鉄鞭を構える。


「俺ノ神託名ハ、『ドラゴン・アッシュ』。自分ニトッテ、最強ニシテ最良ノ武器ヲ、創リ出スコトガ出来ル能力ダ。戦エバ戦ウホド、俺ノ武器ハ、強クナルッ! ……オ前ノソノ、異能ヲ斬ル技。今ノ俺ニハ、モウ通ジナイ」


「……言ってくれるわね。ふふふ、ますます斬りたくなったわ」


 口腔内に溜まった唾液と血を、ベッと地面に吐き出し、青眼に構える。


(フレイムとはまた違うタイプの武術家ね。中距離戦は圧倒的に不利。更に異能武器破壊は奴を余計に強める。ふふふ、ホント……神託者の男って、アタシを苛立たせるのが上手ねぇ)


(目ノ色ガ変ワッタ、ナ。……コレハ、闘気トイウヨリモ、憎悪、カ? ナンニシテモ、油断ハナラナイ。情報ニアッタ、零縮地ト零斬ニ、用心シテイレバイインダ)


 リー・ゼンフが注意しているのはあくまで零縮地と零斬。

 この技はどんな相手にも脅威である。

 彼はそのことのみを頭に入れていた。

 

 だが、彼にとっての真の脅威が、今、牙をむこうとしていた。

 イリスは、久々に出会った強い神託者に血沸き肉踊り、並びに嫌悪している。


 憎悪は、彼女でも歯止めが効かぬほどに加速していっていた。

 

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