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#26 暗殺の月と3匹の龍

 夜の街を彩る輝き。

 路地裏には届かねど、天に灯る月光が優しく降り注いでいる。

 だが、それはフレイム達を狙う者共の殺意と気配を消すには、あまりに純潔すぎた。

 

「……異能者の、気配ね」


 最初に気づいたのはイリスだった。

 狼のように鋭利な視線を、建物の上に向ける。

 

 月を背に、男女が3人。

 殺気を孕んだ眼光でイリス達を見下ろしていた。

 そして、路地裏から表通りまで出る道をふさぐように、軽やかな身のこなしで舞い降りてくる。

 月夜に舞うにはあまりにも美しすぎる暗殺者アフサーナ。

 それに続くように、功夫服の男と、先住民族風の男。


「久しぶりね、フレイム・ダッチマン」


「君か、アフサーナ。……いつの間に、私以外の男を作った? あの日の夜のことをもう忘れたのか?」


「忘れてないわ……10年前、私はアナタの凶行を止めるために暗殺しに行き、殺し損ねた挙句……ッ、純潔を奪われたッ!」


 イリス、ミラ、そして新聞記者のように目を輝かせるルインの視線が一気にフレイムに集中する。

 同性ということもあり、イリスとミラの目は、当然ながら冷たかった。


「……君達は本当に私をそういう目で見るのが好きだな。今はそれどころじゃあないだろう?」


「そうね、とりあえずこのクズはほっといて……。ねぇ、アンタの後ろにいるその男2人は? お友達にしちゃ随分おっかなそうな人相だけど?」


 イリスの挑発めいた笑みにも、アフサーナは動じない。

 そればかりか、フレイムを含む、この場にいるミラやルインにも殺意の目を光らせていた。


「フレイム・ダッチマン暗殺は、私1人じゃ手に余るわ。だから、同業者を2人雇ったの」


「へぇ、じゃあその2人、強いの? いいじゃん、やろうよ。そいつ等も神託者なんでしょ?」


「そうだけど?」


「じゃあ、斬るしかないじゃない」


 勢いよく抜刀し、右八相の虎伏の構え。

 人斬り、神託斬りとしての性が全身を疼かせてしょうがない。

 イリスから放たれる殺気がそう言っているようでもあった。


「イ、イリスッ! 戦うのですか!?」


「ミラ、アンタは下がってなさい。どれだけ実力があっても、その性根じゃあ邪魔よ」


 すぐにでも斬りたい、今すぐに殺したい。

 その願望と神託者への憎悪が強く、ミラの悲し気な表情など眼中になかった。

 すると、イリスに対峙するように功夫服をまとった男が前に出る。

 フレイムほど身長は高くないものの、猛獣のように鋭い目つきと、後ろで結んだ髪が特徴の男だ。


「オ前ノ、相手ハ、俺ダ」


 片言の言葉と同時に掌に青白い炎が収束し、中から青龍偃月刀を取り出す。

 風を薙ぐ力強い演武と共に、体内から気を集中させた後、男は勢いよく武器を構えた。


「大陸武術……フレイムと同じ、か」


「我ガ名ハ、リー・ゼンフ。俺ノ武ヲ、甘ク見ナイ方ガ、イイ」


 この男の神託の正体は依然と掴めないが、イリスにとっては関係ない。

 目の前に現れたのなら、いつものように叩き斬ればいい。

 彼女にとっては、それだけの話なのだ。


「ほう、リー・ゼンフ。『暗殺界の大龍』と言われた男を雇うとは……君も大分儲かっているようだな」


「減らず口を叩く前に、自分の心配をなさい。――――アナタの相手は、私よ」


 アフサーナはハルパーを、フレイムは両の拳を構えながら腰を落とす。

 

「"アジ・ダハーカ"、だったか? 君の神託が鈍っていないことを祈ろう」


「これに殺されかけたってコト、覚えてないわけじゃあないでしょう?」


 殺気が満ち満ちていく中、ミラとルインは先住民族風の男と対峙していた。


「小生は非戦闘員でござる! 非戦闘員を殺すなんてどうかなーと思いますがいかがかな?」


「……確かに、任務とはいえ女子供、ましてや非戦闘員を嬲り殺すのは少々心苦しい。だが、あのフレイム・ダッチマンと行動を共にしている以上、捨て置けん。覚悟されよ」


 目の前にいるのは、筋骨隆々の体躯と戦士としての誇りに満ち溢れた大男だ。

 斧やナイフ、弓矢などを携え、今まさに2人を殺そうと近づいてくる。

 とても暗殺者とは思えないあたり、彼女に雇われたのだろう。


「……目的はお金、というわけではないようですね」


「聡いご婦人だ……いや、この気配、ローブに身を包んではいるが、……サキュバスだな? なぜサキュバスがフレイムと行動を共にしているかは知らんし、聞く気もない。……せめてもの慈悲だ。苦しまずに殺してやる。そして、死体は手厚く葬ろう、約束する」


「いやいや、そのようなことを約束されましても……。っというか、ミラ殿はサキュバスだったのですな。いやぁ~妙な縁もあるものでござるな」


「そんなことを言っている場合ですか。ここは、私が防ぎます! アナタは避難をッ!」


 ミラがバッと身を引き締めるように構える。

 

「その構え、拳法……極東の島国に伝わる『空手』と言われる技術か?」


「……ここで、死ぬわけにはまいりません。無論、アナタも、ここにいる誰にも死んでほしくない」


 強い視線で訴えるミラに男は深い呼吸と共に弓矢を構える。


「その覚悟、称賛に値する。ゆえに、俺はアナタを女性ではなく戦士として見ることとしよう。……我が名はサンブーカ。俺の『アンフィスバエナ』の能力で貴殿等を手厚く葬ろうッ!」


 路地裏にて始まる、暗黒の戦い。

 それぞれの願望と狂気を胸に、戦いの火蓋が切られた。


 

 


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