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コンコン、というノックに私達は顔をあげた。

扉からは既に誰かが顔をだしており、ノックの意味がなくないか?とつい思ってしまう。


突然現れたのは、少年だった。

深海を思わせる深い蒼の髪に、黄金の瞳。

少し茶色に近いその瞳もまた深みのある色をしており、やや吊り上がった眦が私の姿を捉えた。

ドキリ、と心臓が跳ねた。

堂々たる威厳みたいなものを感じた気がした。

おかしいな、まだ子どもだよね?


そして口角が上がる。

まるで面白いものを見つけたかのようなその笑みは、何故か私の背筋に冷たいものを走らせた。


「兄様」


ポツリと呟かれたティト様の言葉に、私はやはりと思う。

恐らく第二王子だ。

歳は10だった気がする。

もう少し歳上に見えるのは纏う空気のせい?


「ふーん。お前があの【氷銀の狼】と【無情の妖精姫】の娘か」


愉しそうに笑う殿下に挨拶をしなくては、と立ち上がったところで、何やらよくわからないことを言われた。

ひょ、氷銀の狼?無情の妖精姫?

娘って……娘が私ならお父様とお母様のことか!?

どういうことだ!

尋ねたい気持ちを必死に押し殺し、私はドレスの裾を広げ礼を取る。


「お初にお目にかかります。私はリアリィ・オーレアンと申します。お会い出来て光栄です」

「ハフィスト王国、第二王子、ディアス・アイゼ・ハフィストだ。流石あの二人の子どもだ。面白いな」


何をどう面白いととったのかわからないが、何だかこの人に関わってはいけない気がする。

この人の笑みは私にとって悪いことな気がする。

何故だ。


「殿下は何か此方に御用があったのでしょうか?」

「ああ。お前を見ておこうと思ってな」


はて、何故?

不思議そうな顔で見ているとそれに気付いた殿下が悪い笑みを張り付けたまま。


「あの二人の子どもだ。見にくるに決まってるだろ?」


いや、全然答えになってないんですけど。

怪訝な表情で殿下を見ていると、片眉を上げた。


「へえ。あの二人の子どもの割に表情があるようだ。子どもだからか?どちらかと言えば【氷銀の狼】の方に似てるか」


まあ、銀髪ですしね。

私は両親に比べて表情はある方だし(かと言って普通の子どもよりは無表情が多い)話もする方ですけどね。

どちらかというと口数が多いのはお父様の方だし、まあお母様が話す機会が少ないっていうのもあるかもしれないけど。


変わらず怪訝な表情でいる私にディアス殿下は「ちょっと着いてこい」と踵を返そうとしている。


は?と思ったのも束の間、慌ててその背中に言葉を投げた。


「申し訳ございません、ディアス殿下。私は今、ティト様とお話をさせて頂いておりますので、ディアス殿下に着いていくことは出来ません」


なんなんだこの王子様は!

突然やってきて着いてこいとか、しかもこんな危ない感じの人に私がホイホイ着いていくと思ってんのか!


思わず睨みつけてしまいそうになるけれど、相手は王族。

失礼がないようにと、淡々とお断りをする。


隣でビクビクしてるのが伝わってくる。

ティト様はディアス殿下が苦手なのかな。

まあ、あの俺様っぽいやつに高圧的に何か言われたりするのかもしれない。

そう考えるとディアス殿下が自分の敵のように思えてくるな。


振り返り、ディアス殿下はティト様を目を眇めて見た。


「ティトスの相手か。なら、ティトス。こいつを少し借りるぞ、いいな?」

「は、はい」


こらーーー!!!


ちらり、とティト様を見ればとっても申し訳なさそうな、泣きそうな顔でこちらを見ている。

うわ、こ、これじゃ怒れないわ。

なんか私が罪悪感感じるわ。

そうだよね、あんな威圧感たっぷりに「いいな?」なんて言われたら肯定するしかないよね!


「ほら、行くぞ」

「申し訳ございません、父からここでティトス殿下とお話するように申し付けられておりますので、この場を離れることが出来ません」


先程と同じように表情を変えずにお断りをすると、ディアス殿下がゆらりと此方を振り向いた。

表情の抜けた顔は先程の悪い笑みより恐ろしく、「おい」と掛けられた言葉はドスが聞いてて更に恐ろしい。

思わず体を硬直させた。


こんな10歳が存在していいの!?

待って、こんなガキに威圧されてどうすんの私!

でもでも怖すぎるでしょ、この人!!!


「てめぇは黙って俺に着いてくればいいんだよ。俺が来いって言ったら来るんだよ。わかったか?ああ?」


チンピラか!ヤクザか!親玉だな!?

それともジャイ○ンか!?

心の中ではツッコミの嵐だが、身が縮まる思いで思わず手に汗を握る。


「……申し訳ございませんが、殿下に着いていくことは出来ません」


驚いたようにバッとティト様が此方を振り向いたのが目の端に映る。

恐らく、あの状態のディアス殿下に歯向かったことが信じられないんだろう。

っつーか、なんで私があんなガキ如きにビビんなきゃいけないのよ!

王子だからって何でも思い通りに行くと思ったら大間違いなんだからね!


と言いつつ、不敬罪とかならないよね?とビクビクはしてる。

だってこの世界ではあり得るもんね、恐ろしい。

でも別に殿下を貶したわけじゃないし、言ってること間違ってないし、大丈夫だよね?ね?


「クッ、いいな。やっぱ面白いなあんた」


スタスタと此方に笑いながら歩いてくるディアス殿下に思わず後退る。

え、なんでこの人近付いてくるの?

もしかして殴られる?え?なんで?生意気なこと言ったから?

冷や汗をかきながら、もうすぐ目の前まで来ているディアス殿下に私はギュッと目を瞑った。

「兄様!」とティト様の声が聞こえる。

ふわりとした浮遊感に驚いて目を開ければ、私はディアス殿下の腕の中にいた。


「な、何を」

「お前がぐだぐだ言うから俺が抱えて連れてってやるよ」

「いや、そうではなくて。何故そうなるのですか」

「はいはい。黙ってろよー」

「嫌です。降ろして下さい」

「はい、そうですかと俺が言うことを聞くとでも?」

「降、ろ、し、て、下さいー!」

「ハハ、残念。無理な話だ」


殴りたいけれど、殴ってしまったら不敬罪で訴えられかねない。

無理やり肩の部分を押すものの、5歳の幼女と10歳の少年じゃ力が違う。

ティト様がオロオロと心配そうに此方を見ているが、これに助けは求められるはずもなく。

ティト様の侍女も困惑の表情を浮かべるものの、ディアス殿下に逆らえるはずもなく。

最後にディアス殿下の供らしき青年を見るが、藍色の髪に、深い蒼の瞳をしている眼鏡の彼はとても知的そうな雰囲気を漂わせているが、主人の奇行に動揺する気配もなく、ただただ眺めているだけ。


おいコラ、主人の奇行を止めろや!

なんて思うけれど、まあ当然そんなことを言えるはずがない。

かと言って大人しく攫われるのも癪なので、目一杯抵抗はする。


「いい加減諦めて抵抗するのを止めろ」

「嫌です」

「可愛げがないな」


知的青年がス、と当然のように扉を開けて、そこから出ようとディアス殿下が廊下へ出た瞬間。

ーーー私は救世主に出会った。


「お父様!!!!」

「ディアス殿下、私の娘に何をされているのですか」

「あー……。ちょっと借りるだけだ」


お父様が現れたことにより、私の目はそれはもうキラキラと輝いたことだろう。

今のお父様は誰よりもカッコイイ私の騎士様に見える。

お父様の黒いオーラも私の危機が原因と考えればそれすら頼もしい。

そして私を攫おうとした誘拐犯はバツが悪そうにお父様から視線を逸らした。

敵から目を逸らした時点で負けということですわよ!!


殿下からひょいと私を奪ったお父様は私の頭、肩、腕、足を優しく払う。

えっと、何してるの?


「私の大事な娘に気安く触らないで頂きたい」


鋭い瞳を殿下へと向けるお父様。

きゃああああああああ!!!!

やっばい!惚れる!!

今のあれですね!

殿下に触られたところを穢れるから払ったということですね!!

そんなに大事にされていたなんて!

いや、愛されてるのは知ってましたけどね!

お父様の私を見る瞳は優しいし、お母様だって私を見る時ほわほわした温かいオーラ出してましたしね!!

私、愛されてる!!!


「なるほど。メイリィだけでなく娘も溺愛しているわけか。子どもを大事そうに抱き上げてるお前とか想像出来なかったが」


にやにやと笑いながら此方を見てくるディアス殿下。

うわあ、なにこの人。

悪趣味だわ。

嫌そうに殿下を見ていた私と殿下の目が交差すると、より彼の口角が上がった。

ぞぞぞ、と背筋に冷たいものが走ったので反射的にガシッとお父様の首に抱き付いた。


「ディアス殿下、私の娘に手を出さないで下さい」

「それは約束出来ないな。そいつと関わるとお前の珍しい表情が見れるし、そいつ自体にも興味がある」


ひえっ!!

狙われてる!狙われてるよ!!

私絶対お父様の弱味になってる気がする。

申し訳ないいいい。


「……では、仕事もあるので失礼致します」

「ああ。またな、リアリィ?」


!?

私の名前覚えてたのか!?

流石は王子だな。

というか、次はありませんけどね!!


「ご機嫌よう、殿下」


名前は言ってやんないもんね!

お父様に抱かれているため、礼は取れないので目礼だけ返す。


クッと喉の奥で笑いながら、ディアス殿下は知的青年を連れて、廊下の向こうへと歩いていった。


「大丈夫か、リア」

「お父様のお蔭で無事でした。ありがとうございます」


ふう、と脱力する私にお父様が気遣わし気に頭を撫でる。

もう、本当、お父様大好き。


部屋に戻ると顔面蒼白のティト様が駆け寄ってきた。


「ごめんなさい、リア様!大丈夫だったの?」


お父様と私を交互に見てくるティト様にお父様に助けられたことを伝えれば心底ホッとしている様子。

そんな真っ青なお顔させる程心配させて申し訳ない。


「よかった……。ディアス兄様には僕、何も言えないから」


そうだろうね。

あの俺様にこんな小動物が対抗出来る筈もない。

寧ろ保護の対象でしょうよ。


「大丈夫ですよ。それとリアで構いません。また私とお話して頂けますか?」


お父様に降ろしてもらって、俯いているティト様の顔を覗き込む。

びっくりしたお顔のティト様は私の言葉に笑顔で勿論と答えてくれた。


よかったよかった。

こんな可愛い天使ちゃんとお友達になるチャンスは絶対に逃せないもんね!




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