06
最後に、お化け屋敷に入ろうと言いだしたのは、やはりトシエだった。
「いやですよぉ」
彼ははげしく抵抗した。
「やめましょうよ、怖くないんですか?」
「こ、わ、く、あ、り、ま、せん」
彼女はあごを二重にして、言い張った。しかし急に気弱な声になり
「ホントは、コワいけど……」
目が笑っている。
「もうこれしか残ってないし。アオキさんとなら、へ、い、きっ」
またまたがっちり腕を掴まれ、ずるずると引きずられて行った。
中は、暗かった。案の定。
オバケヤシキなんて、子どもの頃以来だろう。
結婚してから、家族を連れて遊園地に来たことは(ほんの一、二回とは言え)あったが、お化け屋敷なんて思いつきもしなかった。
カミサンも自身も、こわいの大嫌いだし。サンライズはかかとをブレーキにしていたが、それでもずっとトシエに引きずられている。
入り口でいきなり、トロッコみたいな二人乗りの車に乗せられた。
「ようこそ、真夜中の廃校へ」
足元から聞こえる、生々しい最初のアナウンスから、
「ぎゃ~~」二人で絶叫。
「もうだめ、もうだめアオキさん」
「だからやめようって言ったのに」
トロッコはゆっくりと前に進む。閉ざされたドアが次々と目の前に開く。
「だめだめだめ」
「わああ」
ハタから見れば、うるさいだけの二人だろう。
最後の部屋にさしかかった。急にトロッコの速度があがる。
突然、何の予告もなしに車両が急停車した。
「!」
がくん、と前につんのめる。電気が全部消えた。
その時、急に激しい潮流のように、彼女の意識が襲いかかった。




