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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-21.砕かれる自信

 その日、リック達とエドガー達は森狸の寝床で一緒に夕食を取る事になった。同時期に冒険者登録をし、同時期にパーティーを組んだ、言わば同期の二組だが今までゆっくりと話す機会が無かった。エドガー達は創竜の翼の元メンバーが経営している店と聞いて興奮しきりだった。


 リック達が初めて連れて来た同世代の冒険者と言う事もあり、ジョバルもノーラも腕に寄りをかけて料理を振る舞ってくれた。舌鼓を打ちながら二組は今のお互いの現状を話す。

 エドガー達はワックルトに拠点を置き、リック達と同じく銀ランクを目指し金ランクが見えて来たら王都へ拠点を移すつもりでいた。エドガーとティルダの兄妹は将来は討伐メインのパーティーを目指していたが、ヴィオラは自分のスキルを活かして両親の店を大きくする事が目標だった。見据える先は違うが今はお互いに助け合いながらランクを上げていこうと言う事で考えが一致している。

 今、彼らが悩んでいるのは依頼の事や戦い方などはギルドの職員や訓練会の指導員から学ぶ事は出来るが、パーティーを大きくしていく事やクラン設立の為にはどう言った活動が必要なのかまではギルドでは教えて貰えない事だった。エドガー達を世話するギルド職員は一般職員である為、沢山の冒険者を担当している。誰かの専属と言う訳では無く、ギルドに行った時に受付にいる職員が担当職員なので、深い話をしようにも毎回毎回一から説明しなければならなくなる。そして次にまた同じ職員に会えたとしても、その話を覚えていてくれる職員は稀なんだそうだ。


 その話を聞いたリック達は自分達が恵まれた環境にある事を再認識した。クレリノと言う専属職員がいるおかげで自分達が目指す目標に最も効率的な道のりを示してくれる。それは駆け出しの銅ランク冒険者のパーティーがどんなに望んでも得られる待遇ではない。


 「じゃあ、エドガー達とヴィオラはどっかのタイミングでパーティーを解消するって事なの?」

 「まぁ、そうなるな。それまでにお互いに良いパーティーやクランに加入出来そうならそちらを選んだ方が良いだろうし。まぁ、まだ先の話だろうけどな。リック達はどんな風に活動していくんだ?」


 リックは自分達が商会の設立を目指している事。そこからパーティー人数を増やしクランへと成長させていきたい事を説明する。銅ランクにも関わらず、ここまでしっかりと自分達の目標が定まっている事に驚いた。

 エルはエドガーに自分達の最終目標を告げる。


 「まだはっきりと決まってはいないんだけど、僕達はいつか未開拓エリアに行ってみたいんだ。」

 「未開拓エリア?」

 「うん。この西ドリア大陸の中にはまだ開拓されていない。えっと....どこの国にも属してない土地がいくつもあるんだって。開拓されてない理由も属してない理由もそれなりにあるらしいんだけど、その土地に村を作る事が出来れば自分達の領地として認められるらしいんだ。僕達はその土地を手に入れるとかそう言う事は後回しだけど、未開拓エリアって場所に行ってみたいって思ってるんだ。」


 エドガー達は言葉を失う。リック達が創竜の翼に師事し、ここまで実力を上げて来た理由が「未開拓エリア」と言う自分達には想像にも及ばない目標を持っていたからだった。しかもその土地を手に入れたい訳でも名誉が欲しい訳でも無い。ただ「行ってみたい」から。同じ銅ランクなのに見ている世界が違い過ぎる。そのエルの夢をリックもルチアも叶えられると信じ切っている。

 その為に商会を作るし、クランを目指すし、冒険者ランクを上げるのだ。ただ漠然と「有名になりたい」「金が欲しい」では無い。しっかりとした目標を既に持っている。


 「すごいな....エル達は。」

 「そんな事無い。毎日悩んでばっかりだし、リックとルチアとは毎晩食事の時に長い時間話し合うよ。戦い方だったり今後の事だったり。」

 「だよなぁ。戦い方なんで毎回話し合いたいけど、どこから襲われるか分かんない草原の真ん中で話し合う訳にもいかないしさ。こうやって飯食いながらが一番効率良いんだよ。」

 「毎回やってるのか?」

 「当たり前じゃん。命かかってんだぞ?明日からもエドガー達と一緒に行動するなら、エドガー達とも擦り合わせはするつもりだったぞ。」


 向き合い方が違う。取り組み方が違う。エドガー達は上手くいかないと感じた時、危ないと感じた時くらいしか話し合いはしていなかった。しかし、リック達は常に話し合いをしている。今日の共同依頼も全く問題なく、エドガー達からすればいつもより楽に狩る事が出来た印象だった。しかし、リック達からすればまだまだ連携を向上させられる余地はあるらしい。


 「リック、教えてくれ。例えばオレとティルダならどういう風な戦い方をすれば良い?」

 「うぅ~ん。まだ今日組み始めたばかりだから仕方が無いんだけど、二人の戦い方は二人で戦う為だけに考えられた連携って言うか、たぶんだけどヴィオラを守る事前提で組まれた連携だから俺達が入り込む隙間みたいなものを与えないって言うか、どう言えば良いかな?四人で戦ってるんだけど、二人組の連携が二組ある感じの戦い方になってるんだよな。」

 「そうね。例えばティルダがスピードでかく乱する戦い方でその隙を突いてエドガーが強烈な一撃を加えるって連携は分かるのよ?でも、ボアを見かけるとこちらを気にする事も無く二人が突っ込んで行くから私の弓の射線上に常に二人のうちのどちらかがいるような状態になっちゃって、私は射線を作りながら牽制の攻撃を加える事になるの。それを相手に近付くまでの間しっかり私の射線を確保する間合いの詰め方をしてくれたら、ティルダももう少し楽に相手の間合いに入れるしエドガーも攻撃を加えやすいと思うのよ。」


 リックとルチアの提案にグゥの音も出ないエドガー達。振り返ってみると確かに戦う時にリックとルチアがどう立ち回っているか等気にしていなかった。自分達がしっかりボアを仕留め切れば良いと考えていた。


 「俺達もまだまだ動きは試行錯誤してるから上手くは伝えられないけど、今のままだとエドガー達と組むのは難しいってのが俺の印象かな。まぁ、一時的なパーティーだからボア狩るくらいなら何とかやれるだろうけど、もし不測の事態に陥った時に怖いってのはあるかなぁ。」

 「明日は狩りは中止して訓練会に出てみない?ザックさん達に一度その辺を聞いてみるって言うのも良いんじゃない?」


 エルからの提案にリック達もエドガー達も頷く。その様子をノーラが微笑ましく見ていた。それに気付いたルチアが助言を求める。


 「ノーラ先生はどう思いますか?私達の戦い方。」

 「まぁ、実際に観た訳じゃないからね。何とも助言は難しいけど、少なくとも四人のうち二人が連携に不満って言うか、修正する部分を持ってる状態で依頼を受けるのは勧めないね。あんたらは簡単に考えてるだろうが、討伐依頼を受けるって事は『誰かが怪我をする・命を落とす』危険があるって事だからね。その確率が少しでも高いなら私なら受けない事をリーダーに勧めるね。」


 元白金ランクの助言。エドガー達には大きく響いた。厨房から話を聞いていたジョバルも顔を出す。


 「訓練会や普段の練習ならいくらでも痛い目を見れば良い。しかし、実戦ではそうはいかない。誰かが命を落としてからでは遅いんだ。リック達も一緒に依頼を受ける前に一度訓練所で連携を考えてから依頼を受けるべきだったな。少し自分達の実力を過信し過ぎだ。」


 オーレルと同じくリックの師匠でもあるジョバルからの指摘にリックは落ち込む。確かにそうだ。なぜ簡単に依頼へ向かったのか。事前準備を怠っていた。間違いなくここ数日であまりに上手く依頼をこなせていた事が自分達の慢心を生んでしまった。リックとルチアはノーラとジョバルに「気を付けます。」と頭を下げた。


 その様子を見てエドガーはボソッと「羨ましいな」と呟く。しかし、ジョバルはエドガーに自分達の状況を思い返せと言う。


 「訓練会に行けばザック達がいる。それに安寧の水辺のムーア達からも稽古を付けて貰ってると聞いてるぞ?どう考えたって他の銅ランク冒険者からすれば、エドガー達も充分に恵まれた環境にある。問題は、訓練の時に言われっぱなしになってないかって事だ。」

 「言われっぱなし....ですか?」

 「そうだ。俺達もそうだが教える側だってお前達の事を完全に理解出来てる訳じゃない。自分達の経験を元に教えてるんだ。それが全部お前達に当てはまるなんて思っちゃいない。それならエドガー達だって自分達がどういう連携を目指してるのか、どういう冒険者になりたいのか、どういう依頼を今受けてるのか、それをザック達に伝えてるか?ただ漫然と教えを請うだけになるなよ。自分達に必要な教えを引き出す事も弟子や生徒として必要な事だぞ。そうやってお互いに理解を深めていくんだ。」


 エドガーは自分の経験を粉々にされた感覚に陥る。自分達の状況を先生や師匠に話すなんて考えもしなかった。白銀ランクの先生達に稽古の時間を貰えるだけで光栄だと思っていた。しかし、それは全く違うとジョバルに全否定された。


 「エルとレオの稽古を訓練所で観たんだろ?自分達の稽古と比べてどうだった?リックなんか俺が教えてる時はリックの方が喋ってるんじゃないかってくらい質問してくるぞ。俺の経験をいかに自分に活かせるか常にこいつは考えてる。そこは俺も見習わなきゃならんと思ってる。」


 あの時、エルは必死にレオに喰らい付いていた。見ている自分達はレオがエルを殺してしまうのではないかと心配になるほどだった。しかし、その恐怖に立ち向かいながらエルは必死にレオに対して手を変え品を変えながら対抗していた。そんな訓練を自分達は出来ていたのだろうか。

 エドガーはティルダとヴィオラを見てお互いに頷き合う。エドガーはリック達に頭を下げる。


 「明日、一緒にギルドの訓練会を受けてくれ。リック達の普段の訓練を俺達に見せてくれないか?こんな事を頼むのは冒険者として礼儀に反するのは分かってる。でも、頼む!」

 「良いよ。一緒に依頼を受けるって決めたのは俺達だ。なら、エドガー達ともちゃんと連携練習をするべきだったんだ。明日、しっかり訓練しよう。」


 そうして六人は明日、今の依頼と革作成を一旦中断し、冒険者ギルドの訓練会を受ける事に決めた。


 ・・・・・・・・・・

 次の日の昼、冒険者ギルドにある訓練場の土の上にリックとエドガー、ティルダは叩き伏せられていた。エル、ルチア、ヴィオラも片膝を突き、ヴィオラに関しては紅蓮のフルビオがヴィオラの喉元にナイフタイプの木剣を当てていた。


 訓練会に参加した六人は、ザック達に事情を説明した。訓練会自体にはリック達以外にも3組の冒険者パーティーが参加していた。事情を聞いたザックは「訓練会の最後まで待っていろ」と告げて、他の3組の指導を始めた。その後、紅蓮のメンバーと共にリック達の指導が始まった。

 今の現状をザックに話すとザックは二組の成長を喜んだ。そして、闇雲に依頼を受けるのではなく、しっかりと自分達で連携を振り返るようにした事も褒めた。とりあえず、自分達で話し合ってザック達相手に模擬戦を行う事にした。

 ギルドの訓練では魔法は使用できない。使う武器も全て木製、または刃を落とした物が使われる。六人は自分達の利点を活かした連携を考え、ザック達と模擬戦をした。ザック達は模擬戦が一度終わる度に修正点や良かった所を教えてくれた。そしてそれを修正し、また模擬戦を行う。

 周りで稽古していた他の冒険者や訓練会に参加していた他のパーティーも残ってリック達の模擬戦を見学していた。先ほどまでの自分達の訓練とは違う、実戦を想定した内容でしかもリック達は容赦なく叩き伏せられた。


 何度模擬戦を行っただろうか。リックとエドガーはもう体が動かない。必死に体を起こすが足がそれに応えない。両膝を突いたままそれでも必死に体を起こし木剣を構える。


 「よし!今日はここまで!」


 ザックの声と同時にリックとエドガーは前のめりに倒れ気を失った。紅蓮のレイが二人の様子を窺い、問題ない事をザックに伝える。


 何とか動けるルチアだけがザック達に近寄り、礼を述べる。


 「あ....ありがとう..ございました。」

 「良い気合だった。自慢している訳では無いが、俺達相手に人数は倍だとは言え、これだけ立ち回れる銅ランクはいない。自信を持って良い。しかし、今日の様に常に冷静に自分達を省みれる心を失わない事だ。ルチア、お前がその舵を取るんだ。リックやエルはどうしてもまだ前掛かりになる気が多い。ルチアが常に冷静に状況を把握できる目を持て。それが後衛、斥候の必須の素質だ。だろ?フルビオ。」


 ザックが紅蓮の斥候でもあるフルビオに話題を振る。フルビオは真剣な眼差しで頷く。ルチアは深々と頭を下げる。その後、周りの冒険者達も手を貸してくれて訓練場の隅に身動きの取れない5人が寝かされた。他の冒険者達は火が点いたのか、ザック達に追加の指導を頼み、その者達もまた見事なまでに叩き伏せられていた。


 エルが首を振り皆の様子を窺う。すると体の動かせないエドガーが顔を隠し、涙を流していた。悔しさだろうか。溢れる涙を必死に皆に知られないように手で覆い隠す。隣で倒れているリックがエドガーの胸にトンと自分の腕を置く。

 エドガーが誰に話すでもなく呟く。


 「強くなりたい。強くなる。リック達の様にザックさん達の様に。オレは強くなりたい....」


 心の底から絞り出すような声にリック達も頷いた。

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