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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-20.共同依頼

 ルチアが発動した水魔法の水球でボアから浴びた血を洗い流すエル。その後、エルがボアの解体に入る。現状では解体作業はエルが一番丁寧で早い。メインの解体はエルに任せ、ルチアが索敵し、リックは皮を引っぱったりしてエルが解体しやすいように補助する。

 あっという間に解体を終え、討伐証明部位とその他の部位を分けてバックに入れる。皮は巻いてエルが背負う。やはりマジックバックは必要だ。エルだけでも自分の貯めたお金で買おうかとも考える。


 その後も索敵を続け、マッスルきのこを12匹、ノーブルボアを3頭討伐した。最初の依頼としては上々だろうと言う判断になり、今日はここで打ち切る事にした。ここまでにかかった時間は4時間。とりあえず依頼も達成しているので、焦る必要は無い。


 街に戻りリックとルチアに報告を任せる。リック達は討伐証明部位しか持っていっていないので、エルは竜車に残りノエルとともに他の素材を盗まれないように見守る。やっとゆっくり構って貰えるノエルは嬉しそうにエルに首を撫でられている。


 「お帰りなさい。リックさん、ルチアさん。エルさんは竜車ですか?」

 「うん。とりあえず証明部位しか持って来なかったから。納品はどうするかクレリノさんに相談しようと思って。」

 「畏まりました。では、討伐証明部位をお預かりしますね。........え?」


 カウンターの上に置かれた証明部位を見て、クレリノの動きが止まる。それを見てリックとルチアは首を傾げる。


 「....申し訳ありません。まだ依頼を受けられてから半日も経っていないのですが、本当にこの数を討伐されたんですか?」

 「うん。ノーブルボアは思ったより簡単にやれたんだけど、マッスルきのこは今後オレとルチアだけだと数が揃われると厳しいかなぁ。ちょこまか早いくせに体ごと突っ込んっで来るあの攻撃はちょっと難しいかな。」

 「....なるほど。分かりました。えっとぉ....少々お待ちください。はい。では、リックさんのタグをお預かりします。ありがとうございます。」


 クレリノは動揺を抑えながらリックの冒険者タグを預り依頼達成手続きをする。


 「お待たせしました。これでルチアさんもエルさんも次回依頼を受ける時に今回の達成実績がタグに記憶されますので。」

 「分かりました。明日は三人で依頼は受けるんだけど、エルにサポートに入って貰って私とリックで討伐できるかどうかを試してみたいと思ってるの。クレリノさん、そうなると私としてはマッスルきのこは難しそうに思うんだけど。」

 「リックさんとルチアさんがそう言う印象をお持ちなら、その感性に従うべきだと思います。はっきり言って無理に達成するような依頼でもありませんから。ボアの方が達成するイメージが湧くようならボアだけに集中して素材採集を同時に受ける方が無難かも知れません。」

 「そうね。エルにも相談してみるわ。あっ!納品どうしよう?」


 クレリノの提案でマッスルきのこの胞子は毒消しの素材となるので、エルの調薬に使うのも良いしもし納品するならエルボアにした方が良いだろうと言う判断。ボアの皮はやはりもう少し数が揃ってから商業ギルドに納品する。他のボアの素材(角や魔石)などは明日の依頼を終えてから明日の分と一緒に冒険者ギルドに納品する事にした。


 「では、また明日お待ちしています。」

 「ありがとう。クレリノさん。」


 ギルドを立ち去る二人の背中を見ながらふぅっと息を吐くクレリノ。まさか銅ランクでしかも初めての討伐任務で4つ分の依頼数の証明部位を持ってくるとは。


 「これが創竜の翼が育てた冒険者。いえ、あの三人の資質なんでしょうか....」


 クレリノは改めて三人の担当となれた事に喜びを感じた。


 ・・・・・・・・・・

 レミト村では建設ラッシュが続いていた。冒険者ギルドと商業ギルドは既に建設が始まっており、錬金術ギルドは予定地を思案中だ。鍛冶ギルドはやはりケーラ村に設立する事を決め、建設がスタートした。それに伴い、職員の家はレンガ造り二階建ての寮のような建物とする事に決まった。レミト村で二階建ての建物は初めてで、レミト村の大工などはワックルトから助っ人に来た大工などに二階建ての建て方のコツを教わりながら作業に参加した。


 代官の館の執務室ではサームが積み重なった書類の処理に追われていた。様々な報告や申請、ギルドからの報告など内容は多岐に渡る。しかし、これも村の発展の証と思えば何のツラさも無い。

 ドアがノックされ、ティラーとイサドラが入って来る。イサドラがサームの執務机の上にそっと茶を置く。サームはそれを一口啜り、ほぉっと至福のため息をつく。それをイサドラが満足そうに見ていた。


 「相変わらず書類の数が減らんのぉ。やはり貴族暮らしは肩が凝るわい。」

 「お望みになられた事ですので、もうひと踏ん張りでございます。」


 ティラーの檄に苦笑いで応えるサーム。ティラーがそっと机の上に封筒を置く。サームが伺うようにティラーを見る。


 「ヒマリ様からのエル様達の報告書でございます。」


 サームは慌てて封を切る。そして、中に入っていた三枚の手紙を食い入るように読む。その様子を見てティラーとイサドラは笑顔で呆れていた。手紙を読み終えるとサームは安心したような表情で手紙をティラーに渡す。読んで良いと言う事だ。


 「冒険者として依頼をこなせておるようだ。ノーブルボアを事も無く倒せるだけの実力は持ち合わせている。今はギルドの助言を貰いながら、上手くノーブルボアが繁殖し過ぎないように間引きも出来ておるようじゃ。」


 その報告を聞いてイサドラも安心したのか、ホッとため息をついた。


 「よぉ御座いました!しかし、銅ランクでノーブルボアをそれほど狩れるものなのですか?」

 「ノーブルボアは間違えば命を取られかねない程の突進力と警戒心を持った魔物と聞いています。そうそう簡単に狩れる魔物ではありません。手紙にも書かれていますが、冒険者ギルドでもエル様達のパーティーの注目度も上がっているようです。」


 サームは満足そうにうんうんと頷く。自分の弟子が、孫が、注目されるのはやはり嬉しい。そうやって少しづつ周りの信頼を得ていく事がこの先の活動にも大きな助けとなる。


 「レオ達も銀ランクに上がる期間は相当早かったと聞くが、エル達も順調に行けば半年ほどで上がれるようじゃ。まぁ、油断は出来ぬがの。」

 「そうでございますね。油断がミスではなく命取りになるのが冒険者稼業でございます。我々も注意して見守ります。」

 「あまりし過ぎぬようにな。あの子らだけでどれだけ出来るのか。それを見定めてやらねば。いつまでも鳥篭の鳥では可哀想じゃ。」

 「畏まりました。例の件はいかがいたしましょう?」


 ティラーが話すのは毎日のように代官の館へやってくるワックルトや州都ミラで商いをする商会や下級貴族達だ。ワックルトでこれだけの不正と圧政があり、見直しが図られていると言うのに代官に気に入られてレミト村でも自分達の利益をあげようとしている。

 しかし、サームはその手の面会を全て断った。「ワックルト領主からの推薦状の無い貴族・商会に関しては一切面会しない」と突っぱねた。レミト村の代官は当然ワックルト領主から任命されて派遣されている。ワックルト領主の許可無く特定の者と懇意になる事はあまり勧められた事では無い。しかし、それはあくまで建前であり、それを律儀に守っている代官は少ない。

 それでもサームはこれ以上の不正の種を生まない為にそうした。これに関してはアンクレットも了承済みだ。ワックルト領主の館には長蛇の列が毎日出来ていると聞く。事態と流れを読めぬ者達が新たな利権の種に群がる。困ったものだ。


 「変わらぬ。レミト村には一切の貴族の私邸を置く事は許さん。商会に関してもワックルト領主の認可が有る者に限る。それは厳命である。」

 「畏まりました。徹底致します。」


 そう告げるとティラーは手紙をサームに戻し、イザベラと共に部屋を出た。サームは窓からレミト村の様子を窺う。人々が笑顔で忙しそうに物資を運び、ある者は汗をかいて家を建てていた。孤児院から始まった小さな援助と発展の流れは今、村全体を覆う大きな流れに変わりつつある。

 サームは気を入れ直し、目の前の書類に向き合った。


 ・・・・・・・・・・

 エル達はノーブルボアの皮がある程度集まり、納品しようと思っていた時に冒険者ギルドでエドガー達に声を掛けられた。ノーブルボアの皮をそのまま納品するよりも、皮を鞣して加工しやすい革にしてから納品するとより高額で引き取ってもらえると教えて貰った。

 しかし、エル達には皮を鞣す技術が無かった。そこでエドガー達が交換条件として持ち出してきたのが、『ヴィオラがエル達の皮を鞣す代金として、エドガーとティルダを一緒にノーブルボアの討伐に連れて行って貰えないか』と言うモノだった。


 エドガー達はもちろんノーブルボアの討伐依頼は受けているのだが、ヴィオラが鞣しの作業に入るとエドガーとティルダの二人で依頼を受けなければならなくなり、効率はグンと落ちた。そこでリック達と共同で依頼を受けられないかと考えたのだ。

 リック達はすぐにクレリノに相談すると、全く問題ないと言う。逆に様々な冒険者と組んで依頼を受ける事はお互いの経験も高まり、ギルドも推奨している。しかし、中には若手冒険者を食い物にするような冒険者もいるらしく、相手を決める時には十分気を付けるように注意された。


 まぁ、エドガー達ならば全く問題ないので、エルはヴィオラから皮の鞣し方を習う事にし、依頼はリックとルチア、エドガーとティルダの四人で向かう事にした。


 エルがヴィオラと共にヴィオラ達が暮らす家に招かれた。ヴィオラは実家が倉庫としていた建物を自分達の活動拠点として使っていた。倉庫の裏手の小さな庭には皮を鞣す為の道具や桶があった。


 「エルは皮を鞣すのは初めてだよね?」

 「うん。」

 「とりあえず作業を説明しながら一枚やってみるから横で見てて。」


 ヴィオラが作業を始める。大きな桶に並々の水を入れるとそこに手のひらサイズの四角い物を入れた。不思議そうに見ているとヴィオラが教えてくれた。


 「これは不純物を取り除く魔道具よ。これで皮の表面にある汚れや皮を腐らせる虫を取ってくれるの。」


 魔道具と聞いて殊更に興味が湧いた。ヴィオラの実家は革の加工品や布を販売する店を営んでいるので、こう言った魔道具を持っていた。これは父親から古い魔道具を売ってもらったのだそうだ。話を聞くと魔道具などを使わず皮を鞣そうとすると一ヶ月以上の時間が必要らしい。しかし、いくつかの魔道具を使う事でだいたい五日あれば同時進行で5枚は鞣す事が出来るそうだ。

 ヴィオラ達のパーティーは商業ギルドに革を卸す事もあるが、父親に買い取ってもらう事もありティルダが使っている胸当てはヴィオラの父親と母親が作ったものだそうだ。


 「素材も自分達で調達して両親に頼むと普通に買うより3~4割くらい安く作って貰えるから。まぁ、役得って所よね。」


 桶の中では小さな泡がボアの皮からいくつも出ていた。これが魔道具が皮に作用している証拠だと言う。このまま半日置いて、そのあと別の魔道具で風を送りながら皮を叩いていく作業を行う。その工程を二度繰り返して日陰干しをするとなめし革の完成だそうだ。


 「すごく手間がかかってるんだね。」

 「そうね。まぁ、これでも魔道具のおかげですごく手間は省かれてるんだけどね。50年ほど前まではこの魔道具が無くて、鞣した革は今の何倍も高額だったって聞いたわ。」


 それはそうだろう。一か月以上もかかるなら大量に作る事は難しい。今は魔道具のおかげで価格が抑えられている。


 「さぁ、あとは言い方が悪いけどほったらかしだから、街の周辺の安全な場所で素材採集でもしましょう。少しでも収入の助けになるし。」


 ヴィオラはしっかりしている。無駄な時間を作らない。これも父親たちから教わったものだと言う。時間は有限。空いている時間で出来る事を見つけなさいと。


 ワックルトの門を出て歩いて行ける距離にある小さな森で素材採集をする事にした。ここでは逆にエルがヴィオラに採集の仕方や素材の種類などを指導した。ヴィオラはずっと感心しきりだった。


 「やっぱり植物の採集の事は薬師に聞くのが一番ね。エルはまだ見習いって聞いたけど、すごく為になるし採集の仕方でそんなに買取金額に差が出るなんて知らなかったわ。」

 「乱獲してもいけないし、切る場所を間違えると素材によっては街に帰るまでに状態が一気に悪くなっちゃたりするから。」


 二人で結構な量の素材を採った。エルは自分で調薬する物も含まれているので、納品する数はそれほど多くない。ヴィオラからは、


 「もしエルが正式に見習い薬師になったら私達のパーティーに薬を売ってもらいたいわ。」


 と嬉しい事を言ってくれたが、エルはしっかりと「先生の許可が貰えたらぜひ作らせてよ。」と答えた。


 二人が森から出て街道に差し掛かると街道の向こうから大きな声で呼ばれる。見ると、ノエルが曳く竜車が近付いてくる。

 エルとヴィオラは竜車に向かって笑顔で手を振った。

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