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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-19.初遭遇

 クレリノがギルドと冒険者との関係について説明をしてくれる。

 冒険者パーティーは基本的に自分達の立身や生活の為に活動している。その中で一番深く関りを持つのは当然冒険者ギルドで、次に関係が深くなるのが商業ギルドだ。それはこの二つのギルドからの依頼を受けて達成する事が冒険者達の生活のほとんどになるからだ。


 魔導師ギルドや錬金術ギルド、薬師ギルド等はどちらかと言えば冒険者個人との関りが深くなる。冒険者それぞれのジョブによって関わるギルドが変わってくるが、パーティーやクラン単位で考えれば、やはり冒険者ギルドと商業ギルドがメインと言える。

 その中で依頼の達成の仕方によってギルドが冒険者に対して行う「評価付け」が変わって来ると言う。それはランクとはまた違い、ランクは『達成した依頼の難易度や回数』によって決まり、ギルド内の評価は『依頼の達成内容』によって変わると言う。これは以前にもダン達に説明された事があったが、例えば難しい討伐依頼を達成したとして、片方のパーティーは素材も綺麗に剥ぎ取り納品を済ませたとする。対するパーティーは討伐対象の魔物は討伐したが、討伐後の魔物は素材が剥ぎ取れない程に損傷していたり、最悪討伐証明部位以外は何も持ち帰らなかったとなると、二組の冒険者パーティーは同じ『依頼達成』となるのだが、ギルド内では『前者の冒険者に依頼を推薦する』事が多くなる。それは同じ依頼達成でもその後に発生する金銭や経済の動きに雲泥の差が生まれるからだ。


 確かに討伐対象の魔物がいなくなる事で領民の安全は守られるが、その素材が納品され商品となり流通する事でお金が回る。そして冒険者ギルドと商業ギルドはお互いに競い合う関係ではあるが、街の平和と発展と言う観点で言えば支え合う存在だ。商人から盗賊や野盗の情報が商業ギルドに入り、冒険者ギルドに情報を流す事で護衛依頼や討伐依頼が発生する。それを達成すれば物品の流れが滞りなく流れるようになり、商業ギルドは助かる。


 こう言う関係性がある中で、冒険者がそこを理解し活動してくれているとどちらの冒険者をギルドが優遇するかは言わずもがなだ。エル達には少し難しいかとクレリノは思ったが、三人はちゃんと理解していた。これはジュリアから講義で習った内容だったそうだ。


 「それは素材の納品するタイミングでも同じです。エルさん達が商人だったとしましょう。大量の数ではあるが高額な時にドカンと売りに来る業者と、少し安い時に数は少ないが定期的に売りに来てくれる業者、どちらが贔屓にされると思いますか?」

 「まぁ、どれくらいの数が必要かにもよるだろうけど、そりゃ商人としては安く素材が手に入る方が助かるよな。」

 「そうね。それを使って何か商品を作るにしてもその商品の値を抑える事が出来るしね。買う人は助かるわ。」


 クレリノは満足そうに頷く。エル達が証人としての基礎知識をしっかりとレオ達に叩き込まれている事に驚きを感じつつも頼もしさを感じた。


 「まさにその通りです!商人からすれば安価で定期的に入手出来る素材の方が商品を作る予定が立てやすいのです。高額で売りに来る業者は、言い換えれば高額にならなければ売りに来ない業者です。いつ手に入るか分からない素材を待ち続けるほど商人は暇ではありませんので。」

 「なるほど。だからある程度の値段で納品した方が、今度必要になりそうな時に声をかけてもらいやすくなるって事か。」

 「そうです。これを両ギルドでは『信用依頼』と言います。依頼ボードへ張り出される前に対象のパーティーにお声がけする事もあります。」


 信用依頼以外にも『指定依頼』等もある。これは文字の通り、冒険者を指定して出された依頼だ。ほとんどの場合が金ランク以上、白銀ランクがメインの依頼である事が多い。白金になると逆に国や州からの依頼が多くなり、個人からの指定依頼は余程の貴族でもない限り通らないそうだ。

 エルはそこで気付く。レオ達創竜の翼が常にサームに付き従って依頼を受けていたのは、サームが侯爵であると言う事があるからギルドからの依頼を断りやすかったと言う事なのだろう。


 「商業ギルドは信用依頼で成り立っているといっても良いほど支部ごとに『お抱え』の冒険者パーティーを持っています。そのパーティーに頼めば状態の良い物を早く納品して貰えるわけです。こう言ったパーティーを目指す事も商会をパーティー内で作るのであれば大切な事ですね。商会が出来れば嫌でも商業ギルドとの付き合いは増えますから。」

 「そっかぁ。色々と大変なんだなぁ。まぁ、まずは銀ランク昇格とポーリーに事情を説明する事が先だな。」

 「そうですね。そしてエルボア様からの許可も必要になります。」

 「え?そうなの?」


 クレリノの話では、エルボアがポーリーを跡継ぎとしてもし育てているのであれば、将来的に引き抜く事を前提にパーティーに勧誘する事になるので、エルボアに事情説明と許可は礼儀として必要だと言う。それをせずに引き抜いた場合には不義理として他の冒険者や商会からの評価が宜しくない事になるらしい。


 クレリノとの話を終え依頼は明日の朝に受けに来る事にし、今日はこのままエルボアの元へ向かう事にした。こう言った話は早くしておくに限る。特に相手がエルボアだ。簡単に良いよとはならないだろう。

 草原の風の入り口ドアを開ける。いつもの落ち着く薬品の匂い。今日はカウンターにエルボアが座っていた。


 「先生。お邪魔します。」

 「おや、エルじゃないか。リック達も一緒かい。ワックルトで仕事かい?」

 「はい。銀ランク昇格を目指してしばらくはワックルトで生活します。」

 「そうかいそうかい。まぁ、しばらくはレミト村も騒がしいだろうからね。励むと良いさ。で?今日の用事はなんだい?」


 まずは素材の納品を済ませる。久しぶりの森での採集だったので、かなり頑張ってしまった。エルボアは鑑定眼鏡を掛けて一つ一つ丁寧に吟味している。


 「良いね。お代は振り込んどくよ。」

 「ありがとうございます。それと、先生にご相談があります。」


 エル達の真剣な顔にエルボアも何事かと伺う。事の事情を聞くと、奥で作業をしていたポーリーを呼ぶ。ポーリーにはエルボアから話し、ポーリーの考えを聞いた。


 「私はエルボア様にお世話になっていますから、エルボア様の決定に従います。」

 「あんたは従業員であって弟子じゃない。だから商品や素材の知識は教えるが調薬は教えていないだろ?だから、自分がどうしたいのかをしっかりと考えな。」


 ポーリーはエルボアとリック達の顔を見ながら真剣に悩む。そしてエルボアに向かって頭を下げる。


 「このお店でお世話になる時にエルボア様にお話しさせていただいた通り、やっぱり私はレミト村で自分のお店を開店してみたいです。その為にはリック達の商会に入る事が必要な気がするんですが、エルボア様はどうお考えでしょうか?」

 「そうだね。一つの店で商売していくだけの知識ならそりゃうちでも十分に経験は積めるだろうさ。でも、大きな店にしていきたい。誰かを雇って他の町にも支店を出したいなんて夢があるなら、商会で働く事は必須の経験になるね。どうやって雇った者達を使っていくのか、商品のやり取り、在庫や売り上げの管理。それは商会やクランで働く方が間違いなく経験にはなるね。」


 エルボアはここで一つの提案をする。


 「じゃぁ、冒険者登録とリック達のパーティーに登録する事はしておいで。そして商会を作る所まで許可が下りた時に、うちを辞めるかどうかの判断をしたら良い。それまではあたしもそのつもりで指導するからね。」


 ポーリーと共にリック達も頭を下げる。エルボアからも提案があった。


 「リック、この手紙をあんたのいる孤児院のシスターに届けちゃくれないかい?サムから聞いたんだが、今後は孤児院の子達も外へ働きに出せるような子は積極的に手助けするって言ってたからね。もし、薬学や薬師に関するスキルを得るような子だったり、薬学に興味のあるような子をうちに紹介してくれないかって内容だ。」


 それを聞いてリックとルチアは喜ぶ。また良い働き先が生まれそうだ。


 「まぁ、サムはいずれはレミト村に学問所も作るとは言ってたが、なかなか先になりそうだからね。それに新しい薬師ギルドもまだ先だろうからね。」

 「薬師ギルドから何か話があったんですか?」


 エルが質問するとなぜかニヤッと笑いながらエルボアは答える。


 「レントがここに来てね。もしレミト村で新しい薬師ギルドが作れたら見習い薬師でまだ働き先や師事する者が決まっていない見習いがいたらあたしに紹介したいって言われたのさ。まぁ、あたしにとっても悪い話じゃないからね。とりあえず話は聞いておいたんだけどね。」


 そう言いながらもエルボアの顔は楽しそうだった。


 「先生に新しい弟子が出来ると言う事ですね!負けられません!」

 「こら!エル!学問と研鑽は勝ち負けじゃないよ。己が信じる道を最後まで諦めずに信じ切って歩み続けられるかどうかだ。思い違いはしちゃいけないよ。」

 「....すみません。」


 エルの頭を優しく撫でる。

 これでポーリーの事も無事に解決した。やはり大前提は銀ランクに昇格して商会設立の許可を得る事からだ。さぁ、明日から忙しくなりそうだ。


 ・・・・・・・・・・

 翌日、三人はさっそく冒険者ギルドに向かいクレリノから討伐依頼をチョイスしてもらう。今回受けたのはノーブルボア3頭の討伐とマッスルきのこ5匹の討伐の二つだ。これは生息地が近い事もあり、ダンやジュリアからエル達の実力を詳しく聞いたクレリノが充分に達成可能だと判断した依頼だ。


 そこから草原の風に向かい、エルボアに受けた依頼とそれに必要になりそうな薬などを聞く。マッスルきのこが毒の特性を持つ攻撃があるらしく、毒消しを勧められた。ポーションはエルが作成した物がある(見習いのうちは他者に売らなければ自分が消費する分には罰せられない)ので、毒消しだけ購入した。

 森狸の寝床へ戻り、ノエルを竜車に繋ぐ。やっとノエル用の竜車が完成した。またノエルの成長に応じて手直しはする予定だが、しばらくはこれで使えるそうだ。


 ワックルトの町を南に出る。マッスルきのことノーブルボアはワックルトと州都ミラの間にある広大な草原地帯の小高い丘に生息している事が多い。ノーブルボアは多くても家族単位(2~4頭)でいる事がほとんどだが、マッスルきのこに関しては運が悪いと大群でいる事もあるので、斥候の働きが重要となる。


 見晴らしの良い街道の傍にある大きな木に竜車を繋ぐ。ノエルは竜車から離し自由にする。ノエルに関してはダンとヒマリが竜車を守るよう躾をしてくれている。テッドやシューも一緒になってエル達が竜車から離れている時は自分が竜車を守るのだと言う意識を植え付ける。

 当然、野盗などもいるので自分では厳しい状況の時には咆哮をする事も教えてある。しかし、余程知識のない野盗で無い限りは双角を持つ走竜に手を出そうと思う者はいない。走竜といえど、それほど竜種の強さは圧倒的なのだ。


 ルチアを先頭にし真ん中をエル、最後方がリック。斥候モードの時のフォーメーションだ。三人共腰を低く落とし、膝上辺りまで生えた雑草の中をルチアが方向を指で示す。こう言った斥候モードの時にはほとんどのコミュニケーションはハンドサインで行われる。基本として魔物は人族よりも聴覚と気配察知が優れている。なので、少しでも魔物に気付かれるような要素は排除する。

 丘に向かって進んでいるとルチアが手のひらを後ろに見せる。「止まれ」のサイン。そしてそのまま手のひらをゆっくりと下に落とす。「ゆっくり伏せろ」のサイン。

 伏せた状態で三人が並ぶとルチアがサインで「ボア・2頭」と示す。指で方向を示し、エルとリックはゆっくりと頭を起こしボアを確認する。そして三人で連携を決める。


 師匠たちのいない初めての魔物討伐。三人の中に緊張感はある。しかし、何度も頭の中で自分の動きを反芻し、自分の動きに集中する事がパーティーの動きの安定に繋がる事を習った。


 じわり、じわりと2頭のノーブルボアとの距離を詰める。そして、両手を地面につけたリックが呪文を唱える。


 「母なる大地よ、その力で我を守れ!グリッドウォール!!!」


 リックの手からボア達に向かって地面が盛り上がりながら物凄い勢いで迫る。するとボアの背後に大きな土の壁がボアの退路を塞ぐようにそそり立つ。これによってボア達はエル達と向かい合う方向しか動けない。


 リックとエルが立ち上がりボアに向かって一気に走り寄る。リックは背中の盾を構えボアの突進に備える。エルは指を鳴らし、木属性魔法を唱える。


 「捕えよ!レジストヴァイン!!」


 ボアの足元から無数の蔦が伸びボアの体を拘束する。その瞬間に後ろで控えていたルチアが弓を構える。


 「貫け!!ウイングバレット!!」


 風魔法を付与した矢が一頭のボアの眉間に突き刺さる。そのままドサリと横に倒れる。

 その間にリックはボアとの間合いを詰めており、思いっきり盾を使ってボアの横っ面を殴る。その体の下をエルが滑り込みながら喉元へ短剣を深々と突き刺す。グリッと手首を返すように短剣を動かすともう一体のボアもエルに圧し掛かるように動きを止めた。


 すぐにリックがボアをエルからどける。その間もルチアは周りの索敵を忘れていない。リックがルチアに声をかける。


 「2頭とも大丈夫だ。」

 「こちらも気配なし!」


 そこでやっと三人は息を吐く。初めてにしては完璧な連携だった。やはりパーティー全員が魔法が使えるのは相当な戦力だ。三人は嬉しそうにハイタッチをした。

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